『消えた声が、その名を呼ぶ』
1915年、第一次世界大戦下のオスマン・トルコ。アルメニア人の鍛冶職人ナザレット(タハール・ラヒム)はマルディンの街で父母兄弟と妻、双子の娘と幸せに暮らしていたが、夜半、街を襲ったオスマン軍に連行され、砂漠の中での土木作業に従事させられる。1年以上の過酷な労働の末に虐殺を免れたナザレットだが、声を失ったうえ故郷のアルメニア人は残らず連れ去られ、家族の行方もわからなくなっていることを知る。
今もトルコとアルメニアを含めた欧米各国の間で歴史認識を巡る軋轢となっているアルメニア人虐殺事件を背景にした物語。
大好きなアトム・エゴヤンの傑作『アララトの聖母』(レビュー1/レビュー2)でも描かれたアルメニアの悲劇(ハフィントンポストの記事)。まず知識人が捕らえられたあと、一般市民が集団で拉致され満足な水や食糧もないまま砂漠を行軍させられ、飢えや寒さや虐待の中で命を落としていった。当時180万人いたとされているトルコ国内のアルメニア人のうち、わずか3年前後の短期間で150万人が犠牲になっている。
この事件を知る人はいまとなってはあまり多くない。だから、これだけ大勢の人がたいした抵抗もなく殲滅されてしまう事実を、うまく想像するための根拠は充分じゃない。大の大人がたくさんいて、それでこれだけ広範囲のコミュニティがそっくり失われ、二度と回復できないほどの大虐殺が、どうしてこんな簡単に起こり得るのだろうかと。
でもそれは起こってしまった。
この映画で事件が描かれるのは、前半の一部だけである(8年間の物語のうちの3年間)。
それでも、オスマン軍に連れ去られた主人公がどんな目にあい、どんな過程を経て生き残り、全身全霊をかけて愛する娘たちを探す旅路のなかに、当時のアルメニア人の生活や習慣や考え方など、事件の素地となった民族性が丹念に再現されている。この映画を観ていると、実際に見聞きし体験しない人間にとって、戦争や戦時下での人権侵害に対する危機感を我がこととして覚悟することの難しさがリアルに伝わってくる。まさかそんなことにはならないだろう、まさかそんなことは自分にはふりかからないだろう。理由もなく楽観的でいたくなってしまうのが人情なのかもしれない。
アルメニア語、アラビア語、トルコ語、スペイン語、英語など多言語で描かれていて、主役もフランス人のせいか、台詞の大半が同時録音でなかったのが残念でした。芝居と声があってない。
あと主役が若過ぎた。なんかベビーフェイスなの。かわいいの。どんだけひどい目にあってても、その苦悩が表情になかなか刻まれない。
製作期間7年、6ヶ国の合作映画でロケも5ヶ国に渡って行われた超大作だけど、正直、完成度はな・・・なんというかあと一歩、って感じでした。ただこの事件を知るにはいい教材になるかもしれません。
1915年、第一次世界大戦下のオスマン・トルコ。アルメニア人の鍛冶職人ナザレット(タハール・ラヒム)はマルディンの街で父母兄弟と妻、双子の娘と幸せに暮らしていたが、夜半、街を襲ったオスマン軍に連行され、砂漠の中での土木作業に従事させられる。1年以上の過酷な労働の末に虐殺を免れたナザレットだが、声を失ったうえ故郷のアルメニア人は残らず連れ去られ、家族の行方もわからなくなっていることを知る。
今もトルコとアルメニアを含めた欧米各国の間で歴史認識を巡る軋轢となっているアルメニア人虐殺事件を背景にした物語。
大好きなアトム・エゴヤンの傑作『アララトの聖母』(レビュー1/レビュー2)でも描かれたアルメニアの悲劇(ハフィントンポストの記事)。まず知識人が捕らえられたあと、一般市民が集団で拉致され満足な水や食糧もないまま砂漠を行軍させられ、飢えや寒さや虐待の中で命を落としていった。当時180万人いたとされているトルコ国内のアルメニア人のうち、わずか3年前後の短期間で150万人が犠牲になっている。
この事件を知る人はいまとなってはあまり多くない。だから、これだけ大勢の人がたいした抵抗もなく殲滅されてしまう事実を、うまく想像するための根拠は充分じゃない。大の大人がたくさんいて、それでこれだけ広範囲のコミュニティがそっくり失われ、二度と回復できないほどの大虐殺が、どうしてこんな簡単に起こり得るのだろうかと。
でもそれは起こってしまった。
この映画で事件が描かれるのは、前半の一部だけである(8年間の物語のうちの3年間)。
それでも、オスマン軍に連れ去られた主人公がどんな目にあい、どんな過程を経て生き残り、全身全霊をかけて愛する娘たちを探す旅路のなかに、当時のアルメニア人の生活や習慣や考え方など、事件の素地となった民族性が丹念に再現されている。この映画を観ていると、実際に見聞きし体験しない人間にとって、戦争や戦時下での人権侵害に対する危機感を我がこととして覚悟することの難しさがリアルに伝わってくる。まさかそんなことにはならないだろう、まさかそんなことは自分にはふりかからないだろう。理由もなく楽観的でいたくなってしまうのが人情なのかもしれない。
アルメニア語、アラビア語、トルコ語、スペイン語、英語など多言語で描かれていて、主役もフランス人のせいか、台詞の大半が同時録音でなかったのが残念でした。芝居と声があってない。
あと主役が若過ぎた。なんかベビーフェイスなの。かわいいの。どんだけひどい目にあってても、その苦悩が表情になかなか刻まれない。
製作期間7年、6ヶ国の合作映画でロケも5ヶ国に渡って行われた超大作だけど、正直、完成度はな・・・なんというかあと一歩、って感じでした。ただこの事件を知るにはいい教材になるかもしれません。