米バイデン政権では「核体制の見直し(NPR)」が進行中である。今回注目すべき点は、「核兵器の先制不使用/唯一の目的」を採用するか否かである。オバマ政権は2016年夏に見送った。
最近の自公政権の発言をみると、
加藤勝信官房長官(2021年4月6日記者会見)は「我が国周辺には質、量ともに優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向も顕著(中略)現実に核兵器などの我が国に対する安全保障上の脅威が存在する以上、日米安全保障体制のもと、核抑止力を含む米国の拡大抑止というものが不可欠」と述べている。
茂木敏充外務大臣(2021年4月21日衆議院外務委員会)は[核の先制不使用宣言は]「すべての核兵器国が憲章が可能な形で同時に行わなければ、実際には機能しないんじゃないか(中略)現時点でですね、当事国の意図に関して何らかの検証の方途のない、核の先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に万全を期す事は困難だと考えております。あのこういった考え方については、概ね日米間で齟齬はない、こう考えています。」と述べている。
松野博一官房長官(2021年11月10日記者会見)「すべての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではない」と述べている。ちなみに、日本や英国などが米国側に先制不使用宣言をしないように働きかけたとする報道については回答を避けた。
つまり、自公政権の見解は、➀核抑止力を含む拡大抑止は核兵器など(つまり通常兵器や生物化学兵器も含む)を対象としており、②先制不使用宣言では日本の安全保障に万全を期せない。③先制不使用は「すべての核兵器国が検証可能な形で同時に」行われなければならず、④日米間でこうした認識に齟齬はない、というものである。
松野官房長官は、米国側に先制不使用宣言をしないよう働きかけたか否かについて回答を避けたが、オバマ政権時、ニューヨーク・タイムズは、ケリー国務長官らが、日本や韓国を名指しして、核抑止力に不安を持った両国が核武装する可能性を示唆したと報じた。また、ワシントン・ポストは日本政府は宣言に反対する意向を伝えたと報じた。
2021年8月9日、米国の21人の核問題専門家と5団体が日本の主要政党代表あてに、「先制不使用・唯一の目的政策を宣言する事に反対しない事、この政策が日本の核武装の可能性を高める事はないと確約する事」を求める書簡を送付している。
同年9月7日には、日本の22団体44人(原子力資料情報室など5団体5個人の呼びかけ、17団体39人賛同)が、上記と同様の内容を要求する書簡を各政党代表者に送付している。
※「先制不使用」……核兵器を先には使わないが、核兵器での攻撃に対しては、核兵器で報復する選択肢を留保するの意。通常兵器や生物化学兵器などでの攻撃に対しては核兵器の報復はしない。中国・インドが採用。
※「唯一の目的」……保有する核兵器の唯一の目的を「相手国の核兵器の使用の抑止に限定する」の意。
※「先制使用(ファースト・ユース)」……紛争中、相手国より先に核兵器で攻撃するの意。通常兵器や生物化学兵器への対抗措置としての核兵器の使用も選択肢に含む。
※「第一撃(ファースト・ストライク)」……先制核兵器攻撃で相手国の(戦略)核戦力に壊滅的な損害を与え、核兵器で報復できないようにするの意。
米国政府が、自公政権の核武装の可能性を懸念する背景には「核燃料サイクル」の存在がある。自公政権は非核保有国の中で唯一、使用済み核燃料再処理技術とウラン濃縮技術の両方を有する事を認められている。再処理技術は使用済み核燃料から核兵器に転用可能なプルトニウムの分離が可能である。低濃縮ウラン製造技術は核兵器に利用できる高濃縮ウランの製造も可能である。
(2021年11月21日投稿)