■Detroit-New York Junction / Thad Jones (Blue Note)
サド・ジョーンズはビッグバンドの人というイメージも強いのですが、その活動初期には優れたスモールグループ作品も残しています。
本日の1枚は、その最初期のリーダー盤で、タイトルどおり、このセッション当時のニューヨークでメキメキと台頭していたデトロイト人脈が集合しており、もちろんサド・ジョーンズも、そのひとりというわけです。
録音は1956年3月13日、メンバーはサド・ジョーンズ(tp,arr)、ビリー・ミッチェル(ts)、トミー・フラナガン(p)、ケニー・バレル(g)、オスカー・ペティフォード(b)、シャドウ・ウィルソン(ds) というワクワクしてくる面々ですが、ドラムスとペース以外はデトロイト出身者ですし、サド・ジョーンズにとっては、カウント・ベイシー楽団のトランペットセクションへ加入した直後のセッションと言われています。
A-1 Blue Room
サド・ジョーンズが書いたグルーヴィでソフトファンキーな隠れ名曲です。その穏やかにスンイグしながら、実は相当に黒っぽい演奏は、デトロイト出身者が持つ資質に共通するものだと思います。
ここでもビリー・ミッチェルが、たっぷりとした余裕の音色とハードエッジなアドリブフレーズの両立という魅力が全開♪♪~♪ 続くケニー・バレルは都会的なブルースフィーリングを滲ませます。
そして短いながらも歌心溢れるオスカー・ペティフォードのペースソロを経て、いよいよ登場するサド・ジョーンズは最初、ちょっと人見知りするようなフレーズからハートウォームな持ち味を完全披露♪♪~♪ 途中、ちょいとスケールアウトするような場面もありますが、これは意図的なんでしょうねぇ、きっと。
またトミー・フラナガンの物分かりの良いピアノが流石です。
それとシャドウ・ウィルソンのザクザクいうブラシも、個人的には大好き♪♪~♪
小気味よいアレンジも効果的な名演だと思います。
A-2 Tarriff
一転してアップテンポの張り切った演奏ですが、それにしてもテーマアンサンブルのアレンジが絶妙! 既にして新しいハードバップという感じです。
そしてビリー・ミッチェルが真っ向勝負という、モロにハードバップなアドリブが実に痛快とくれば、ケニー・バレルのツッコミも相当なもんです。あぁ、これが時代の勢いって事なのでしょうか。
トミー・フラナガンのセンスの良さは言わずもがな、満を持してアドリブしていくサド・ジョーンズの、ちょっと浮き上がったような調子は不思議な感覚だと思います。
そしてこのあたりを聴いていると、サド・ジョーンズは決してハードバップの人ではなく、しかしモダンスイングでも無いし、そんなジャンル分けなんか無用の長物という名手なのかもしれません。
A-3 Little Girl Blue
このアルバムでは唯一のスタンダード曲で、サド・ジョーンズとケニー・バレルが主役というスローな演奏ですが、寄り添うオスカー・ペティフォードのペースが絶妙のつなぎ役を果たしています。
実際、温かくメロディをフェイクするサド・ジョーンズのトランペットに素敵なコードを提供するケニー・バレル、そのハーモニーを拡大していくオスカー・ペティフォードのアルコ弾きというコラボレーションは、短いながらも非常に濃い仕上がりだと思います。
B-1 Scratch
B面ド頭も、これまたグルーヴィなハードバップですが、そのハートウォームな雰囲気が実にたまりません。
アドリブ先発のサド・ジョーンズも絶好調! 軽妙洒脱にしてオトボケも流石の楽しさという大名演でしょうねぇ~♪ 終わりそうで、なかなか終わらないんですよっ♪♪~♪ するとケニー・バレルが俺にもやらせろっ! という大ハッスルです。
さらにトミー・フラナガンが、最高ですよっ♪♪~♪ ジェントルなピアノタッチが幾分、硬質な黒っぽさに偏ったあたりも珍しいと思いますが、あの歌心は見事に健在です。
またビリー・ミッチェルの焦り気味のアドリブも味わい深く、そして安定感抜群のリズム隊の素晴らしさを再認識させられますよ。オスカー・ペティフォードのペースソロも素晴らしいの一言です。
B-2 Zec
オーラスはアップテンポの快演ですが、個人的にはテーマの煮え切らなさが???
しかしサド・ジョーンズのアドリブがスタートすれば、そんなモヤモヤは消え去って、思わず手に汗! フレーズ明瞭なれど歌心不明というような、実に不思議な魅力があります。
そしてケニー・バレルのギターも、決して抜群の技量というわけでは無いと思いますが、そのジャズっぽさというか、黒っぽくて都会的なフィーリングが手クセに直結しているという感じが、やっぱり良いですねぇ~♪
それはトミー・フラナガンのスイングしまくったアドリブ、またビリー・ミッチェルの真っ黒なテナーサックスにも共通の魅力として存在し、そういうものがハードバップの秘密なのかもしれません。
クライマックスではドラムソロを起点にしたソロチェンジも熱いですよ。
ということで、正直言うと、最初に聴いた時にはそれほどの作品とは思わなかったバチあたりでした。しかし既に述べたように、サド・ジョーンズのジャンルわけ不可能なトランペットスタイル、そしてデトロイト出身者の当時の勢いが、ほとんど完璧に出た名演集だと思います。
サド・ジョーンズのアレンジも、凝っているわりにはシンプルでイヤミがありません。
ブルーノートにしては地味な1枚かもしれませんが、味わいは特急品だと思います。