■Night Lady / Johnny Griffin (Philips)
数多いリーダー盤を出しているジョニー・グリフィンの最高傑作は? なんていう議論があれば、必ず優力候補となるのが、このアルバムです。
ハードエッジなリズム隊を率いてのワンホーンセッションという、ジョニー・グリフィンにとっては最も力量を発揮出来る体制に加えて、演目の魅力も絶大なんですねぇ~♪
録音は1964年2月13日、メンバーはジョニー・グリフィン(ts)、フランシー・ボラーン(p)、ジミー・ウッド(b)、ケニー・クラーク(ds) という米欧混成のバンドですが、ご存じのように、この時期のアメリカ大衆音楽界はロックが主流となり、ジャズにしてもフリーやモードの嵐が吹き荒れていましたから、伝統的な4ビートに拘る主流派は欧州に活路を見出していた頃です。
A-1 Scrabble
ドラムスとベースが最高にモダンジャズしている導入部からジョニー・グリフィンが静々と登場するテーマ部分のワクワク感! これぞ、ハードバップの魅力が横溢したブルース演奏です。幾分せわしないスネアが逆に熱いというケニー・クラークのドラミングに対し、じっくり構えてグイノリのウォーキングベースを響かせるジミー・ウッドの存在感も、流石というしかありません。
そして主役のジョニー・グリフィンのテナーサックスが時にはヒステリックに、さらに熱血を滾らせた力感溢れる保守本流の名演を披露すれば、フランシー・ボラーンの不愛想なピアノがモード風味も強い新しさで、これも結果オーライという抜群のコントラスト!
クールで熱い、まさにアルバム冒頭を飾るに相応しい熱演だと思います。
A-2 Summertime
お馴染みのメロディを激しい情念も滲むハードな演奏で聞かせてくれます。まずはイントロの不気味な雰囲気からジョニー・グリフィンのアクの強いフェイクが印象的というテーマ吹奏だけでシビレますよ。
そしてアドリブパートでの思わせぶりと激しい心情吐露は一瞬、ブッカー・アーヴィン? と思わせる表現もあるほどですが、基本はあくまでも真っ黒なハードバップ! グリグリのグルーヴには暑苦しさもあるのです。
しかしそれを中和してくれるのが、フランシー・ボラーンの新感覚派のピアノで、かなりフリーなこともやらかしていますが、決して基本路線を破壊することはしておらず、それゆえに、これで良しとしたジョニー・グリフィンの快演も当然なのでした。
A-3 Old Stuff
変則的なブルースというか、これもアップテンポのハードバップになっていますが、やはり妙なコードが入っているので……。まあ、作曲がフランシー・ボラーンですからねぇ。
しかしリーダーのテナーサックスからは所謂「グリフィン節」が迸り、ケニー・クラークのドラミングも快調です。
そしてフランシー・ボラーンのピアノが、これまた曲者というか、明らかにモード系に偏った内部告発でしょうねぇ~♪ 古い体質は御免です、ということでしょうか!? 実に様々な憶測を呼んでしまいながら、ジミー・ウッドのペースソロが、これまた新しいですよ。
B-1 Night Lady
B面に入ってのアルバムタイトル曲は、非常に熱いです!
所謂ワルツビートのマイナーブルースという、ジャズ者の琴線に触れまくりの演奏は、フランシー・ボラーンを要としたハードエッジなリズム隊のサポートも素晴らしく、ジョニー・グリフィンが初っ端から強烈なモダンジャズ魂を発散させます。
あぁ、この濃密で真っ黒なテナーサックスこそが、ハードバップの真髄でしょうねぇ~♪
続くリズム隊だけのパートも怖いほどにガチンコな雰囲気で、執拗にジコチュウな世界を作り上げていくピアノ、伝統と斬新のジレンマを克服するベース、さらに熱血を煽りながら実はクールじゃないかというドラムス!
まさにアルバム全体を象徴する演奏だと思います。
B-2 Little Man You've Had A Busy Day
このアルバム中では唯一のスローな演奏で、曲はあまり有名ではないスタンダードながら、そのメロディは完全に昭和歌謡曲! ほとんど松尾和子か西田佐知子あたりが歌ってくれそうですよ。
もちろんジョニー・グリフィンは、それを百も承知のタフテナー♪♪~♪
硬質なサブトーンの響き、ハードボイルドなメロディフェイク、少しずつグイノリが強くなっていくリズム隊とのコンビネーションも最高です♪♪~♪
またフランシー・ボラーンのピアノやジミー・ウッドのペースが、これまた歌心優先主義で素晴らしいですよ。
サイケおやじは、この曲が聴きたくて、B面に針を落とすことが多いです。
B-3 All The Things You Are
そしてオーラスは、ジョニー・グリフィンが十八番の中の得意曲というスタンダードの大熱演! 威勢の良いドラムスのイントロから悠々自適のメロディフェイク、そして激烈なアドリブパートの熱気は、まさに手に汗! エキサイトして興奮冷めやらずですねぇ~♪
リズム隊だけのパートでは、なんと3人が相当にバラバラを演じていることが分かったりするのですから、ジョニー・グリフィンの求心力の大きさも圧巻ですねっ!
ということで、これはやっばり名盤でしょうねぇ~♪ 欧州での活動は決して都落ちでは無いという矜持さえ感じられます。
ちなみに欧州制作ということで1980年代半ば頃まではレア盤としても有名でしたが、現在でアナログ&CDの両方で復刻されています。
そしてそれによって、冒頭で述べたジョニー・グリフィン最高傑作論議が尚更に結論の出ない華やかさというか、ファンにとっては嬉しい悲鳴です。
ハードバップ愛好者には必需品のアルバムじゃないでしょうか。