仕事はようやく山を越えつつありますが、それにしても雑事が多いなぁ……。全然和めないです。連日、家へ帰っては寝るだけ状態が続いていますし、いろいろ仕入れたネタも楽しめないという、こういう地獄もあるんです。
ということで、和みを求めて本日の1枚は――
■Stan Getz and The Oscar Peterson Trio (Verve)
ジャズはリズム音楽だと思いますので、良いドラマーに恵まれれば、それなりに良い演奏になるわけですが、この傾向はビバップ創成以降のモダンジャズ期では特に大きくなっているようです。
では、ドラムスが居なかったらスイング出来ないの? という問いについて、答えは否です。寧ろ演奏者の力量とか個性がモロ出しのリズム感が楽しめるので、スイングする、しないに拘れば、かえって面白く聴けてしまうのが、ジャズの怖ろしいところです。つまり演奏者が一流か、否かという答えが、はっきりと出てしまうと、私は思っています。
そこでこのアルバムですが、結論から言うと出来は極上です♪
演奏メンバーはタイトルどおり、スタン・ゲッツ(ts)、オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、ハーブ・エリス(g) という面々で、録音は1957年10月10日になっており、当時は全員一緒のパッケージ・ツアー中だったことから、息の合った演奏が楽しめます。
まずA面初っ端の「I Want To Be Happy」から軽快に演じられます。この曲はスタンダード・ナンバーにしてジャズの定番曲ということで、幾多の名演が残されていますが、このバージョンもそのひとつでしょう。とにかく全員のノリが尋常ではありません。特にリズム隊はドラムレスであるにも係わらず、執拗にスタン・ゲッツを煽りたて、自分達のパートに入ってはオスカー・ピーターソンが鬼神のスイング! それを支えるギターとベースのウネリも凄いものがあります。そしてそれに刺激されて再び登場するスタン・ゲッツが、これも凄まじいアドリブを披露するという、明るく激しい演奏になっています。
2曲目は、これも有名スタンダードの「Pennies From Heaven」ということで、スイング感満点の演奏が楽しめますが、ここでは特にスタン・ゲッツが歌心を存分に披露しています。もちろんピーターソン以下のリズム隊も快調で、レイ・ブラウンのベースがその要になっています。
3曲目はメンバー各々が持ち味を競うバラード・メドレーで、これは当時のステージでは定番のメニューだったようです。
B面は1曲目の「I'm Glad There Is You」がしっとりとした名演で、スタン・ゲッツに寄添うハーブ・エリスのギターが素晴らしい限り♪
続く「Tour's End」はスタン・ゲッツのオリジナル曲で、これぞモダンジャズというダイナミックなノリが満喫出来ますが、演奏時間がやや足りないと感じるところが減点です。つまりもっと聴いていたいというところで終わってしまうので……。特にハーブ・エリスは◎ またスタン・ゲッツはリズム隊をブレイクさせて緊張感を生み出し、エキセントリックなフレーズも交えて盛り上げていくのですからねっ♪
そして「I Was Doing Allright」は和みの極致とでも申しますか、このリラックスした雰囲気は、凡百のミュージシャンには出せない味だと思います。何気ないようでいて、ちゃんと他のメンバーの出す音を聴きながら演奏しているこの4人は、流石です。
その部分はオーラスの「Bronx Blues」でもたっぷり発揮され、ミディアム・スローの黒っぽい展開の中でスマートにスイングするスタン・ゲッツ、ほどよい黒っぽさのオスカー・ピーターソン、粘っこいレイ・ブラウン、そして黒~いバッキングをつけるハーブ・エリスという対比が鮮やか! 個人的には黒く、黒く行こうとするスタン・ゲッツが憎めません。
ということで、これは和み系のジャズではありますが、そのスイング感を楽しむには絶対のアルバムです。仕事を終えて、独り自宅で酒でもチビリとやりながら聴いてみて下さい。和みます。
ちなみに現行輸入盤CDはボーナス4曲付きです。