OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

波うちぎわの裏名盤

2009-09-28 10:38:38 | Beach Boys

Surf's Up / The Beach Boys (Brother / Reprise)

サンフラワー」によってピーチボーイズに目覚め直したサイケおやじは、ですから彼等の次なる新作「サーフズ・アップ」も、大いに期待して買いました。しかも輸入盤!

というのもその頃、つまり昭和46(1971)年当時は、まだまだ輸入盤を扱う店は少なく、それも日本盤以上の値段でした。ただし発売は日本盤よりも相当に早く、それゆえにプロのミュージシャンや熱心なマニアは、様々な手を使って、少しでも早く、安く入手する方策を心得ていたようですが、サイケおやじは年末に開催された某デパートの輸入盤セールでゲットしたのが真相です。しかも日本盤よりも安かったんですよ♪♪~♪ ちなみに日本盤が出たのは、翌年になっていました。

 A-1 Don't Go Near The Water
 A-2 Long Promised Road
 A-3 Take A Load Off Your Feet
 A-4 Disney Girl
 A-5 Student Demonstration Time
 B-1 Fell Flows
 B-2 Lookin' At Tomorrow
 B-3 A Day In The Life Of A Tree
 B-4 'Til I Die
 B-5 Surf's Up

結論から言うと、前作「サンフラワー」の爽やかで明るい雰囲気とは対極にあるような、些か暗いムードが支配的ですが、しかし各曲のメロディラインの豊潤さは勝るとも劣りません。そして全体に漲る力強さ、ある意味ではプログレとも言えそうな音作りには、当時流行のキーボード類や多重録音が用いられ、それでいてビーチボーイズならではの美しいコーラースワークも巧みに融合された、これは確定的な名作! 聴いた瞬間、そう思う他はありませんでした。

単純に比較することは出来ませんが、同時期に出ていたポール・マッカートニーの「ラム」やジョン・レノンの「イマジン」と一緒に聴いたとしても、決して失望することは無いでしょう。

まずA面冒頭の「Don't Go Near The Water」、ギターやキーボードの音を今でいうサンプリングで作り出したような、なんともフワフワしたイントロから柔らかな曲メロが流れてくる瞬間が、至福です♪♪~♪ そして歌が進むにつれ、力強くなる演奏と持ち前のコーラスワークの冴え、熱いサビの展開も最高なんですねぇ~♪ 全く何時までも聴いていたところなんですが、良いところで終ってしまうのが……。

しかしご安心下さい。

続く「Long Promised Road」が、まさに畢生の歌の演奏! 穏やかに歌い出される最初のムードが、すぐに一転して力強いゴスペルタッチの重厚な展開に進むあたりは、感動的! 熱気が迸る間奏も短いながら結果オーライだと思いますし、何よりも自作自演で熱唱するカール・ウィルソンの成長ぶりが眩しくもあります。

いゃ~、何時聴いても、この2曲の流れにはグッと惹きつけられますが、続く「Take A Load Off Your Feet」も侮れません。明らかに前作「サンフラワー」のムードを引き継いだ愛らしい曲調ながら、各種の効果音と最高のコーラスワーク、さらにチープでありながら緻密なアレンジの妙には、聴くほどに感心させられるのです。

そしてそれが、A面のハイライトとも言うべき「Disney Girl」の夢見るような世界に繋がるのですから、たまりません♪♪~♪ 今日まで幾多のカバーバージョンが誕生している、まさにブルース・ジョンストン畢生の大名曲が、作者自らのボーカルで、そのイノセントな歌詞の世界がせつせつと歌われ、もちろん世界最高のコーラスワークが彩る仕上がりですからねぇ~~♪ もう、この素晴らしきポップス天国には、ただただ浸りきって、素直に感動する他はないのです。

そしてA面のラストが、まさに仰天! ビーチボーイズ流儀のハードなR&Bというか、ブルースロック大会! ブラスも大胆に入れ、重いビートを強調しながら熱唱するマイク・ラブの声質を意図的にメガホンマイクを通したような印象に作り変え、パトカーのサイレンや混濁した群衆の騒ぎをコラージュ的に配置した、そのサウンド作りは全くビーチボーイズらしくありません。丸っきりハードロックなギターも強烈なお約束!

ちなみに原曲はアメリカのR&Bグループとして人気を集めたザ・コースターズの「Riot In Cell Block #9」と言われていますが、ここでは歌詞を書き変え、学生運動を歌いながら、しかしノンポリが身の為というオチが!?! 演奏のキモになっているハードなギターや分厚いビートも含めて、如何にもジョン・レノン的と言っては失礼かもしれませんが、実はここまでの流れを聴いていると、冒頭からがポール・マッカートニー、そして最後がジョン・レノンというムードがミエミエですから、既に述べたように「ラム」や「イマジン」を、ついつい連想してしまうのが、サイケおやじの本音です。

で、いよいよB面が、これまた曲者!

まず「Fell Flows」はカール・ウィルソンがメインで書いたサイケデリックフュージョンという摩訶不思議な歌と演奏で、ハートウォームなメロディは心地良いのですが、間奏で渦巻くフリーキーやサックスやフルート、意味不明なムーグシンセが唸るという、実にプログレな展開になります。ちなみにここでゲスト参加しているのは、ジャズの世界でも超一流のチャールズ・ロイド(fl,sax) ですが、この頃からビーチボーイズのメンバーと関係を深めつつ、ジャズの世界から遊離していったのはご存じのとおりです。

そして続く「Lookin' At Tomorrow」が、これまた如何にもジャズっぽい味わいで、ケニー・ランキンあたりが演じていそうなムードは要注意です。おそらくは変則チューニングのギターも良い感じ♪

しかし本当に仰天させられるのは「A Day In The Life Of A Tree」でしょう。荘厳なオルガンをバックに流れて来る神聖なメロディを歌っているのは、明らかにこれまでのビーチボーイズでは聴いたことの無い声なんですが、その正体は当時のマネージャーであり、広報担当でもあったジャック・ライリーという人物!?!

実は当時のビーチボーイズは前作「サンフラワー」の商業的な失敗、イギリスを中心としたヨーロッパ各国以外での人気急落、さらに財政的な問題に加えて、音楽的な要だったブライアン・ウィルソンの健康問題等々で、どん底状態……。

そんな手詰まりだったグループの前に現れたのが、実力派のジャーナリストだったジャック・ライリーで、とにかくグループの立て直しに尽力した功績は、後々のトラブルを抜きにしても評価されるべきでしょう。

何よりも、このアルバムに顕著なように、時代にアクセス出来るビーチボーイズという新しいイメージの確立、またブライアン・ウィルソンの現場復帰をスタジオセッションの場だけとはいえ、実現させています。

それがブライアン・ウィルソンと共作し、自身が歌ってしまった「A Day In The Life Of A Tree」という暴挙寸前の仕事だとしても、そこで聞かれる荘厳にして奥深く、それでいて非常に心地良い歌と演奏は、麻薬的な魅力があります。もちろんビーチボーイズならではのコーラスワークと最先端のサウンドプロデュースは冴えまくり♪♪~♪

そのあたりは続く「'Til I Die」にも見事に活かされ、ここまでコーラスワークが最先端のロックと融合した演奏は、どんなプログレバンドやソフトロックのグループでも決して表現出来ない世界じゃないでしょうか。ビーチボーイズ、恐るべし!

そしてオーラスのアルバムタイトル曲「Surf's Up」が筆舌に尽くしがたい、美しくも儚いような、うつし世は夢、夢こそ真という、江戸川乱歩の世界をドリーミーなハリウッドポップスで表現したが如き、まさに奇跡のトラックです。

今では良く知られているように、この名曲「Surf's Up」は幻となったアルバム「スマイル」の残滓と言われているとおり、ブライアン・ウィルソンの天才が証明された魔法のメロディ感覚とビーチボーイズならではのコーラスワークが見事に融合した成果でしょうが、もちろんここでは再録音のバージョンが使われています。

もう、とにかく聴いていただく他は無い、それほどの歌と演奏ばかりなんですよ。

A面ではジョンとポールなんていう不遜なことを思ったサイケおやじにしても、このB面の深淵な世界には圧倒されるばかりです。そして当然ながら、文字通りの音の楽しみ、音楽って素晴らしい~~~♪ そういう世界なのです。

しかし残念ながら、これでもビーチボーイズは全盛期だった1960年代中頃の勢いを取り戻すことは出来ず、ヨーロッパへと活動の拠点を本格的に移していくのです。

正直言えば、往年のサーフィン&ホットロッド、海と車と女の子の世界を歌っていたビーチボーイズが、今でも最高だと思っていますし、そういうイメージで聴けば、このアルバムは完全に???でしょう。実際、日本盤も発売されていますが、売れたという話も聞きませんし、シングルヒットとは完全に無縁だったと思います。

サイケおやじにしても前作「サンフラワー」に邂逅していなかったら、とてもリアルタイムで聴くことはなかったと断言しても良いほどです。

現在では、それなりに評価されているようですが、やはり好きな人にしか好きになれないアルバムでしょうねぇ……。最も「らしくない」ジャケットデザインもマイナスだったかもしれません。

ブロデュースはビーチボーイズ名義になっていますが、全体としてはカール・ウィルソンの頑張りが目立ちますし、意図的に環境問題や学生運動を歌った歌詞も気になります。しかし「波うちぎわ」というアルバムタイトルは絶妙ですし、ロック史の裏名盤としての価値も十分だと、強く思っているのでした。

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