■Wild Honey / The Beach Boys (Capitol)
既に何度も書いていますが、サイケおやじが本格的にビーチボーイズに目覚めたのは、リアルタイムの「サンフラワー」以降でしたから、往年のヒットシングル曲はともかくも、特に遡って聴くアルバムの幾つかには新鮮な衝撃があって、本日ご紹介の1枚は、その最右翼でした。
A-1 Wild Honey
A-2 Aren't You Glad
A-3 I Was Made To Love Her
A-4 Country Air
A-5 A Thing Or Two
B-1 Darlin'
B-2 I'd Love Just Once To See You
B-3 Here Comes The Night
B-4 Let The Wind Blow
B-5 How She Boogalooed It
B-6 Mama Says
結論から言うと、ビーチボーイズを特徴づけていた爽快なハーモニー&コーラスがほとんど聞かれず、逆にシンプルな力強さを狙ったかのような、如何にもロック的な音作りや黒人R&Bのエッセンスをモロに取り入れた部分も感じられるという、ある意味では最も「らしくない」仕上がりになっています。
しかしサイケおやじが衝撃を受けたのは、全くそのところであって、歴史的にはサイケデリックポップスを極めたアルバム「スマイリー・スマイル」に続く1967年末に発売されたという事実を鑑みても、???の連続……。
本来であれば、さらに緻密な音作りが形成され、十八番のハーモニーワークと珠玉のメロディがあって然るべきはずが、極言すれば中途半端としか思えない曲があったり、あまり冴えない仕上がりのカパーが入っていたりでは、リアルタイムのファンがどのように納得していたのか、大きな疑問を抱くほどです。
ただし、それまでのイメージに拘らず、むしろ1970年代初期のビーチボーイズが好きなファンにとっては、これが妙に愛着が持てるアルバムじゃないかと思います。と同時に、ビーチボーイズが、これをやってしまったという現実があってこそ、好きになったら一生手放せないものになる可能性も秘めた作品かもしれません。
それはまず冒頭、アルバムタイトル曲の「Wild Honey」からして、イントロの疑似シンセが激しく上下する中でカール・ウィルソンが半ばヤケッパチに切迫して歌う展開と間奏のオルガンのしぶといカッコ良さ! これは明らかに新しいビーチボーイズを象徴してるんじゃないでしょうか。
またB面初っ端の「Darlin'」は今日、山下達郎のカパーで有名になっているので、皆様も一度は耳にしたことがあるはずの隠れ名曲♪♪~♪ とにかく弾みまくったロックビートの強さとブラスロックの先駆的な味わい、さらにビーチボーイズが十八番のコーラスワークを意図的にラフにやってしまったかの如きサウンド作りの妙♪♪~♪ そして何よりも素敵なのが、ブライアン・ウィルソン&マイク・ラブによる胸キュンの曲作りとカール・ウィルソンの若気の至りっぽいソウルフルな節回し!
全く、これが嫌いなポップスファンはいないと思われるほどですよっ!
そして同じくソウルフルな「Here Comes The Night」も絶妙に脱力したブライアン・ウィルソンのリードボーカルがこの時期のビーチボーイズならではというか、後年には何を考えていたのか、なんとディスコバージョンまで作られる愚挙まで引き起こしたのが不思議と理解出来てしまう名曲だと思います。
しかし、そうしたソウルフル路線が裏目に出たというか、「I Was Made To Love Her」はスティービー・ワンダーが同年にヒットさせた人気曲の煮え切らないカパーであり、また「How She Boogalooed It」はブライアン・ウィルソン抜きのビーチボーイズのメンバーが共作したモータウン系のロッキンソウルではありますが、これならスパイダースの「赤いドレスの女の子」の方が百倍カッコ良いと思うのはサイケおやじだけでしょうか……。
実は例によって後に知った事ではありますが、この時期のブライアン・ウィルソンは悪いクスリや精神的重圧から普通の生活さえ儘ならず、当然ながらグループの音楽的頭脳という曲作りやプロデュース活動も停滞していたところから、このアルバムを作るにあたっては、R&B趣味に走っていたと言われるカール・ウィルソンが中心となり、またブライアン・ウィルソンが自宅のスタジオで気が向いた時だけレコーディングしていたデモ素材を引っ張り出しての再加工という真相が!?
ですから愛らしいラブソングの「Aren't You Glad」やハミングのメロデイが心地良い「Country Air」、ハワイアンR&Bとでも言うべき「A Thing Or Two」、そしてこれぞっ、ビーチボーイズの真骨頂ともいうべきハーモニーの魔法が全開した「Mama Says」あたりは、何れもどこからしら中途半端ではありますが、やはり「ペットサウンズ」を頂点とした充実期の残滓が確かな魅力となって、聴く度にグッと惹きつけられます。
そしてアコースティックギターの使い方がニクイほどの「I'd Love Just Once To See You」やワルツタイムを上手く使った「Let The Wind Blow」には、1970年代にブームとなる所謂シンガーソングライター的な味わいが既に感じられるんですよねぇ。まあ、これは個人的な思い入れかもしれませんが、サイケおやじは、とても好きです。
つまり極言すれば、これはビーチボーイズの現在・過去・未来が交錯した奇蹟(?)の1枚であり、そう思えば同バンドが二度と同じ味わいのアルバムを出さなかったのも偶然ではないでしょう。
また、これまではスタジオミュージシャンの多用による演奏パートの実質的な部分が、このアルバムではレギュラーメンバーが自らやった形跡も、チープでラフなところがロック的な感性の表出へと繋がったのは結果オーライかもしれません。
特に「Darlin'」でのドラムスのカッコ良さは最高ですよねぇ~~♪
ちなみに「疑似シンセ」と書いた「Wild Honey」のイントロ部分の不思議な音作りは、テルミンという当時の最新(?)式電子楽器によるもの!? このあたりの先進性も、まだまだビーチボーイズの意欲が前を向いていた証でしょうか。
ちなみに掲載した私有LPは「STEREO」の表示があるものの、例によってモノラルミックスしか作らないブライアン・ウィルソンの意向に逆らう形でレコード会社が勝手に疑似ステレオ化したのが、その真相……。まあ、あまり極端なステレオ効果やエコーが付いた感じでもないので、拘る必要もないと思いますし、現行のCDはモノラルミックス優先ですから、いやはやなんともです。
ということで、繰り返しますが、全く「らしくない」仕上がり故に人気の無いアルバムではありますが、好きになったら一生涯付き合える裏名盤と、サイケおやじは確信しているのでした。