諸々縺れて、笑止千万!?
失礼致しました <(_ _)>
■哀歌 / 八代亜紀 (テイチク)
気に入った歌を聴かんがためにレコードをゲットするのは、正しく音楽鑑賞の基本中の大基本ですから、それを書いたソングライターのクレジットを確認するのも同じく、音楽愛好者の基本姿勢でありましょう。
そして、あぁ~~、やっぱり、この先生かっ!
と独り納得する場合もあれば、思わず、ギョエッと驚愕させられる意外な人物の名前に遭遇する事も多々あるのが、趣味の世界の楽しさと思います。
例えば本日掲載のシングル盤A面曲「哀歌」は、八代亜紀が昭和53(1978)年5月に出した、これが曲タイトルとおりに哀切の正統派演歌であり、サウンド的には聊か古い、ちょいと所謂大正ロマンっぽい味わいに作られているんですが、それを真正面から節回す亜紀姐さんの歌唱力の素晴らしさ、凄みは絶品!
ほとんど救いのない、哀しい宿業や運命に縛られた人の世の刹那の心情を、ここまで伝えられるのは亜紀姐さんだけでしょう。
そこにはイントロから哀しみを増幅させるが如きアコギのアルペジオと泣き節のバイオリンが配置され、ストリングスが道案内するメロディに踏み込んで歌い始める亜紀姐さんのフィーリングは、単に演歌とは決めつけられないソウルフルな感触が滲み出ているんですねぇ~~♪
そしてシンプルな伴奏でシミジミとワンコーラスを歌った後、いよいよリズム隊やストリングスが加わったバックの演奏を従えて、聴き方によってはエグ味さえも感じてしまうボーカルの存在感は、しかし決して脂っこい世界ではなく、クールで熱い情感の発露と申しましょうか、この「哀歌」を最初に聴いた時のサイケおやじは、鳥肌びっしりっ!
速攻でレコード屋に足が向きましたですよ、実際!
そして冒頭で述べたとおり、制作クレジットを確認してみればクリビツテンギョ~~~!?!
なんとっ!
作詞&作曲が谷村新司、そうです、歌謡フォークのアリスをやっていた、あの谷村新司!!
だったんですから、サイケおやじなんかは、絶句する他はありませんでしたねぇ~~~!
実は後で知ったんですが、谷村新司は、こ~ゆ~大正ロマン系演歌を幾つも自作自演していた時期があったそうで、そんな事はアリスのファンならば常識だったんでしょうが、しっかりとアリスを聴いていたはずも無かったサイケおやじにしてみれば、青天の霹靂ってやつでしょうか……。
ですから、唯々、亜紀姐さんの歌唱力の素晴らしさに胸が熱くなるばかりでして、それは本日、久々に掲載のシングル盤に針を落としての鑑賞で、我知らず居住まいを正してしまったという、そこに集約されるのです。
うむ、ジャケ写ポートレートの亜紀姐さんの憂い顔も、素敵♪♪~♪
ということで、なんだか今日は蒸し暑く、マスクの着用にも息苦しさを覚えてしまったんですが、先の見えない困難な状況であるが故に、妙に哀しい歌が聴きたくなるのは、自然の成り行きと云うには、やっぱり悲しいです……。
でも、そこは亜紀姐さんの「歌の力」に免じて、明日を信じる気持ちになってしまうのでした。
早朝から、ゴッサムシティの仕事関係者がコロナで死亡という、悲報が入り……。
実は先日、ネット会議で話た時は、特段の健康被害も無かったはずが、今にして思えば、その時から潜伏していたんですねぇ~~、故人の体内にはウイルスはがっ!
う~ん、残念無念……。
衷心より、ご冥福を祈るばかりではありますが、早急に体制を整えなければならず、未だ鳩首協議の真っ最中です。
本日の1枚の休載、ご理解くださいませ。
そして皆様も、健康に留意してお過ごしください <(_ _)>
■マイルド・ロマン・ロック / いしだあゆみ (日本コロムビア)
自分のカッコ悪さを痛感する事なんて、それこそ数えきれないほどあるサイケおやじにしても、特に惨めな気持ちに追い込まれたのが、酔ってないのに酒に酔ったフリをして、それを見抜かれた時……。
いゃ……、これはもう……、周囲や相手に調子を合わせ、つまりは心にもない事を言いながら、作り笑いをやってしまっているんですから、それを嘘の上塗りと糾弾されたって、言い逃れる術なんか、ありゃ~しないわけですよ……。
そして最後には、お前とは腹を割って話が出来ないっ!
という三行半が……、お定まりの結末という事が何度かあったもんですから、飲んでも酒に酔わない体質という言い訳よりは、最初っから、酒は飲みません、飲めないんです。
と、はっきり詫びる事こそが誠意!?
そんなふうに思い、行動に移して幾年月、それもサイケおやじの拙い処世術なんですから、情けないやら、自嘲するやら、結局は、笑われてたって、いいじゃ~ないかっ!
そんな開き直りにも、自然体で馴染んでいる自分を客観的に見られる様になりました。
しかし、だからこそでしょうか、サイケおやじは所謂「酒の歌」ってのが好きで、あれやこれや蒐集している過程で、ひとつのジャンルと申しましょうか、自室のレコード棚には、そんな場所を設けてしまった過去を告白せねばなりません。
で、本日掲載したシングル盤も、その中の1枚でして、ジャケットだけ眺めてみれば、ウリのA面曲のタイトルが「マイルド・ロマン・ロック」ですから、大人向けの歌謡ロック?
なぁ~んて先入観も許されるはずが、実は昭和55(1980)年に某酒造メーカーから発売された「マイルド・ウォッカ」なる、ちょいと正体不明(?)な商品CMのタイアップ曲なんですねぇ~、これがっ!
しかも、作詞:仲畑貴志&作曲:大野克夫が企図したのが、歌謡ロックと言うよりも、当時流行のAOR系ポップス歌謡で、それを嫋やかに、それでいて芯の強さと儚さの裏表を絶妙に使い分けながら節回していくあたりは、いしだあゆみの真骨頂でありましょう ♪♪~♪
もちろん、それを活かすべく、見事なアレンジを施したのが船山基紀であれば、自ずと納得させられてしまうんですが、でもねぇ~~~、そんな芸当も可能なのが、いしだあゆみの歌手魂と思うばかりです。
う~ん、アップテンポのグルーヴも心地好い、これもひとつの酔っ払い願望だとしたら、羨ましいですねぇ~~♪
ちなみに、ジャケットのイラストポートレートはバロン吉元の人気作で、そんなところもコレクターズアイテムの条件なのかもしれません。
ということで、ご時世不穏、飲み屋街も寂しく、独りぼっちの家飲みも推奨される昨今、だからこそ、そこには、いしだあゆみの歌がジャストミートする様な気がしています。
尤も、ど~せ、サイケおやじは酒に酔わない体質なんですけどねぇ~~、それでも歌を楽しむ権利(?)は、しっかりと残されていると思っているのでした。
■涙いろの恋 / 奥村チヨ (東芝)
ここ最近、連日のビートルズ、それも……、ある意味じゃ~苦行とも言える「ゲット・バック・セッション」の音源ばっかり聴いている事に加えて、仕事の悪企みに勤しんでいる所為でしょうか、様々煮詰まったんで、本日は久々の歌謡曲、それも大好きな奥村チヨのエレキ歌謡「涙いろの恋」に針を落としました。
いゃ~~、やっぱりイイですねぇ~~♪
発売されたのは昭和43(1968)年2月ですから、前年夏からの大ヒットになっていたベンチャーズ歌謡の決定版「北国の青い空」のイメージもそのままに、これが作詞:橋本淳&作編曲:筒美京平という黄金のヒットメーカーコンビにハズレなんてこたぁ~~、あるはずもないんですが、それにしても短いドラムスのブレイクから続くエレキギターの泣き節メロディによるイントロが、実に王道の昭和歌謡曲♪♪~♪
もちろん、奥村チヨのネチッコイ節回しとセクシーさも程好い声質の妙は絶品ですから、巧みにアレンジされたストリングス&ブラスセクションとの相性も抜群ですし、キメの「ひとりコーラス」もニクイばかりですよっ!
あぁ~~、こ~ゆ~歌を聴いていると、日本人としてのDNAを再認識させられてしまいますねぇ~~~♪
ということで、本来なれば、この9月からは幾分仕事が軽くなるはずと思い込んでいたんですが、見事に思惑がハズされて、気持ちが空回りしているのが現状の本音……。
しかし……、もうひとつ、最近は久々に女子プロレス熱が再燃して来たんで、昔のビデオとか取り出している事を告白させていただきます (^^;
ご時世で、興行は大縮小されていますが、落ち着いたら会場へ行きたいもんです (^^)/~~~
悪い予感に苛まれ、事前回避で直談判、京の都に来るには、来たが……。
先方がマジギレしてんじゃ~、こっちも覚悟を決めるしかありますまいっ!
しかし、勝てる喧嘩をするのは、弱い者イジメと一緒ですから、サイケおやじの流儀から外れています。
さて、ど~したものか……。
う~ん、それにしても、このご時世、京の都もガラガラの街並みでありました。
これから帰りますので、本日の1枚、またまたの休載、ご理解くださいませ <(_ _)>
公私両面、ゴタゴタ続きでした (>_<)
それが……、まだまだ片付いておりませんので、本日は、これにて失礼させていただきます <(_ _)>
映画「レット・イット・ビー」からの流出サウンドトラック音源を、最も早く海賊盤として纏めたものが「Sweet Apple Trax Volume 1」「同 Volume 2」で、発売されたのは1973年の事でした。
これは各々が2枚組で、総計約90分の音源が収められており、その音質が良かった事から初回プレス分は忽ち売り切れました。
このブツを発売したのは「Contra Band Music」、通称CBMという業者で、すぐに大量の追加分をプレスしましたが、同時に他の業者もコピー盤やジャケット違いで同内容のLPを出してしまったので、ビートルズの海賊盤の中では最高の売上げ枚数になった作品です。
で、その中で最も良く売れたのが「Newsound Records」と名乗る業者が発売した本日の掲載盤でした。
これは前述した2セット、4枚のレコードを2枚組にした物で、しかも海賊盤としては当時珍しかったカラージャケットになっていました。
それが今日「Sweet Apple Trax」として定番化している名盤(?)です。
尤も、これは最初に同音源を発売した「CBM」が、レーベル名を変えて発売したというのが今日の真相ですが、その内容は――
A-1 Two Of Us
アップテンポのアレンジで曲の途中からフェードインして始まります。
ポールのベースラインがドライブしていて、実にカッコイ~ィ~ですねぇ~♪
この後、お喋りや楽器のチューニングの状況が続き、ジョンの鼻歌とか、何かの曲のギターリフが聞かれます。
A-2 Don't Let Me Down
かなり出来上がっており、ジョージのワウワウを使ったギターのオカズが気持ち良いです。
スタートのところでジョンのギターから音が出ずに、やり直したりするところがリアルです。
そして軽く歌っても、やっぱりジョンは凄い! とシビレる素敵な演奏です。
もちろん、ポールが寄り添うハーモニーも、一瞬のビートルズ・マジック!
A-3 Suzy Parker
映画でも観る事が出来た、即興でジョンが作ったロックンロールです。
仕事を超えた楽しい部分があると感じるのですが……。
A-4 I've Got A Feeling
これもかなり出来上がっているトラックです。
一部、映画に使われていた演奏かもしれません。
A-05 No Pakistanis
「Get Back」の原型です。
歌詞の内容は、当時イギリス政府が国内にやって来たパキスタン人労働者の強制送還を目論んだ政策を皮肉った内容です。「パキスタン人がみんな仕事を奪ってしまうのは、気に入らないぜ、元いた所へ返れ!」等々と歌っていた所為で、各方面からの様々な圧力によって歌詞が変えられたらしく、という事は当時から、この曲の存在は有名だったのでしょうか……?
演奏はかなりワイルドで、ジョージのギターがヘビメタ風に炸裂している瞬間や、ポールのインディアンみたいな掛け声が入ったりして、サイケおやじは好きです。
A-6 Get Back
未完成品ですが、かなりロックンロール味の強いアレンジです。
A-7 Don't Let Me Down
これはエレピが聴こえるのでビリー・プレストンが参加しているのでしょうか……?
だとすれば、アップル・スタジオに移ってからの音源だと思います。
B-1 Be Bop A Lalu
チューニングやハウリングの音に続いて、ジョンが何となく歌い始めます。
オリジナルはジーン・ビンセントが1956年にヒットさせたロックンロールの古典で、ジョンのお気に入りでした。これは後にジョンのソロ・アルバム「ロックンロール」で素晴らしいカバー・バージョンが披露されるのは、皆様ご存知のとおりです。
B-2 She Came In Through The Bathroom Window
アルバム「アビー・ロード」に収録された曲の断片がリハーサルされています
テンポや曲調を少しずつ変えて何度か歌われていきますが、曲を完成させていく過程が、彼等のお喋りと共に良く分かります。
B-3 High Heeled Sneakers
これもR&Bの古典ですが、全く断片だけの演奏です。
ちなみにオリジナルはトミー・タッカーが1964年に放ったヒット曲ですが、ローリング・ストーズも取上げています。
B-4 I Me Mine
ジョージの名作オリジナルですが、ほとんど前半はインストの演奏だけですので、これもビートルズが曲を完成させていく過程が良く分かるトラックです。
最初は、ちょっとスパニッシュ調の味付けになっているのが興味深いところですし、ワルツテンポという事からでしょうか、途中でポールがスタンダード曲の「ドミノ」を歌ってしまう部分は、ちょっと意地悪です。
そして後半、ようやくボーカルパートが入るものの、直ぐに中断……。
B-5 I've Got A Feeling
曲の断片とリハーサル場面だけです。
B-6 One After 909
これもチューニングや打合せ、そして曲の断片だけです。
B-7 Norwegian Wood
チューニングでポールが弾いた同曲のベースラインから、ほんの少しだけ、ギターでメロディが流れる程度です。
B-8 She Came In Through The Bathroom Window
「B-2」同様、これも曲を完成させる過程のトラックですが、かなり出来上がっています。
C-1 Let It Be
これもリハーサルですが、ポールが主導権を握り、メンバーに曲の構成を教え、演奏の雰囲気を指示して、グループをリードするという興味深いトラックで、ジョンがカウンターの別メロディを付けたり、そこからコーラスのパートを発展させたりして、ビートルズの曲創作の秘密の一端がはっきり分かるという、このアルバムのハイライトだと思います。
この場面は続いてポールのオリジナルの「La Penina (A Long Road)」という曲になりますが。これは翌年に完成され、ジョッタ・へールというオランダ人歌手にプレゼントされます。
C-2 Shakin' In The Sixties
ジョンの未発表曲で、アップテンポのロカビリー調の曲です。
C-3 Good Rockin' Tonight
前曲から続いている雰囲気です。実は「Move It」という曲が前半に演奏され、メドレー形式になっていますが、それでも短い演奏です。
しかし流石のノリ、このグルーヴ感! ポールのエルビス調のボーカルが良い味です。
C-4 Across The Universe
ここは編集によるものかどうか、前曲からの続きという雰囲気です。ビートが強く、かなりロック色が強いアレンジで、個人的には大好きな演奏です。
ボールのハーモニーも素敵ですし、ジョージのギターもツボを掴んでいて、ステージで生演奏されるとしたら、こ~ゆ~雰囲気になっていたかもっ!?
そこまで思わせられますよ♪♪~♪
C-5 Two Of Us
これまたアップ・テンポのロック色の強いアレンジで演奏されています。残念ながら中断してしまいますが、その後にメンバーが各々のリフを組み立てる部分が聴かれます。
C-6 Momma, You'er Just On My Mind
生ギターのフィンガーピッキングによる演奏が延々と続きますが、時折ジョージと思われるボーカルが入ります。後半は、もしかするとボブ・ディランの「Mama, You Been On My Mind」という曲かもしれません。
かなり長い演奏ですが、聴いていて意外に気持ちが良くなります。
D-1 Tennessee
これもロックンロールと言うよりも、ロカビリーの古典です。ボーカルはジョンで、下積み時代のビートルズが十八番(?)にしていたらしいです。
ちなみにオリジナルはカール・パーキンスです。
D-2 House Of The Rising Sun
我国では「朝日のあたる家」として知られ、原曲はアメリカのニューオリンズ周辺の黒人俗謡です。多くの歌手やバンドが取上げておりますが、ビートルズも一時期レパートリーにしていました。
D-3 Back To Commonwealth
ポールのオリジナルですが、これも「No Pakistanis(A-5)」同様に「Get Back」の原型です
ジョンの素っ頓狂な合の手にポールが吹出すほど、和気藹々とした雰囲気がイイ感じ♪♪~♪
リンゴのドラムスの上手さが分かるトラックでもあります。
D-4 White Power / Promenade
前半の「White Power」はポールの一瞬のアドリブですが、ソウル調の素晴らしい曲です。
それが後半はシャッフル調のブルースロック系ジャムセッションに発展しますが、この部分が「Promenade」という事でしょうか、実はロック調の「Dig It」なのです。
そして、これが映画「レット・イット・ビー」ではビリー・プレストンを交えてソウル調のジャムセッション「Dig It」になるのですが、ここでの演奏も素晴らしい! ジョンとジョージのギターの絡み、リンゴのドラムスも最高のノリです。
さらにポールとジョンのウィットに富んだ単語の掛合いは、ラップの趣さえ感じられます。
サイケおやじは大好きです、これがっ!
D-5 Hi Ho Silver
前曲の素晴らしいノリを受け継いで、いつの間にかロックンロールのジャムが続きます。
演奏されているのはロックンロールの古典「Yackety-Yack」とスタンダード・ナンバーの「Hi Ho Silver」を混ぜ込んだもので、この演奏形態は、当時多くのバンドがやっていたスタイルです。
いゃ~~、ジョンの歌とギターが最高のノリで、中断が惜しい!
D-6 For You Blue
と思いきや、続けて演奏されるのがこの曲で、最高の雰囲気が持続されています。
あぁ~~、これがロックだっ! ロックンロールだっ!
D-7 Let It Be
そして非常に上手い編集で、ここに繋がります。
「C-1」を受継いで演奏は出来上がっていますが、かなりラフ!?
しかし、それが力強く、ゴスペルの高揚感が良く出ていると思います。
ただし……、それが本場物に比べると勘違いしているのが良く分かる部分もあります。
う~ん、この辺りがビートルズならではの個性かもしれませんねぇ……。
という上記の様な歌と演奏が収められたこのアルバムは、そのほとんどが、1969年1月8~9日の音源と思われます。
そして途中に入る「ピー」という音とトラック・ナンバーを告げるアナウンスは、撮影しているカメラのフィルムと同期させるためのもので、ここからその音源が未発表サウンドトラックだった事が分かるのです。
当然、音質もかなり良く、また編集も巧みですから、海賊盤でありながら、とても聴き易く、何と言ってもビートルズの音楽創造の現場状況が良く分かるのが最大の魅力です。
そして聴くほどに、メンバー4人の創造的な姿、緊張と緩和の和気藹々としたところが強く感じられ、当時のマスコミ報道で伝えられたり、映画「レット・イット・ビー」で観られた様な険悪な雰囲気が、それほど伝わってこない事に気がつきます。
やっぱり……、あの映画は、ある種の編集意図が存在していたのだと思わざるを得ません。
ということで、このアルバムは大ヒット! 以後続々と同種の音源が海賊盤化されるのでした。
参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」
注:本稿は、2003年11月3日に拙サイト「サイケおやじ館」に掲載した文章の改稿です。
海賊盤アルバム「KUM BACK」は、大変な反響を呼び、その頃のイギリスとアメリカだけで300万枚近くが売れたと云われています。
そして、この成功により、ビートルズ物だけでなく、あらゆる人気アーティストの海賊盤が夥しく市場に流されるのですが、ビートルズ物の「レット・イット・ビー」関連で、次に業者からターゲットにされた「お宝」が、映画「レット・イット・ピー」のサウンドトラック音源でした。
あらためて述べさせていただくと、「レット・イット・ビー」の関連音源では、アルバムやシングル盤で聴く事が出来る曲と、映画を観て聴く事が出来る曲は、ほとんどが別物なのです。
それでは映画ではどの様な曲が演奏されていたのか、本篇の流れに沿ってみると――
01 Piano Theme(1969.01.03)
撮影準備最中のスタジオにあるピアノで、ポールがなんとなく弾いている曲です。
淋しげな調子の練習曲みたいです。横ではリンゴがそれを眺め、やがてジョージもやってきます。
ここから「13」までが、トゥイッケンナム・フイルム・スタジオでの場面になります。
02 Don't Let Me Down(1969.01.08)
前の場面に続き、いきなりジョンのアップで曲が始まります。
「裏切らないでくれ~」という歌詞のところで、ヨーコがアップで映し出されるという編集は、意味深……。
03 Maxwell's Silver Hammer(1969.01.03 & 07)
ポールが主導権を握って曲のコード進行を教えていきますが、リンゴの不満顔が印象的です。
そしてポールは途中でベースからピアノに代わりますが、彼だけが楽しそうで、ジョージは自分のマイクで感電してます。
皆様ご存知のとおり、結局このセッションでは完成させる事が出来ず、後のアルバム「アビー・ロード」におけるセッションで再録音されました。
04 Two Of Us(1969.01.08)
完成バージョンと比較して、かなりテンポが速い演奏です。
一本のスタンド・マイクで歌うジョンとポール、おどけてギターを弾くジョンは、ライブショウのリハーサルのつもりでしょうか?
所謂「ビートルズ・マジック」が、一瞬だけ再現されています。
05 I've Got A Felling(1969.01.08 & 09)
リハーサルですが、ギターの弾き方についてポールが口を出します。
リンゴは白け顔で、ここでもポールだけがノリノリです。
その所為でしょうか、ジョンのあきらめた様な歌い方が、逆に凄みを滲ませます。
脱力的終わり方も印象的でした。
06 Oh! Darling(1969.01.09)
後のアルバム「アビー・ロード」に収録される名曲ですが、この時点では未完成です。
ポールがピアノで、最初のワン・フレーズだけ歌っています。
07 One After 909(1969.01.09)
彼等が十代の頃に作った曲なので、演奏前にポールが当時の思い出話をします。
演奏は、それなりにノッていますが、ジョージの無気力が目立ちます。
08 Whole Lotta Shakin' Goin' On(1969.01.14)
ポールとリンゴがピアノの連弾で演奏します。
原曲はジェリー・リー・ルイスが、1957年にヒットさせたロックンロールの古典です。
09 Two Of Us(1969.01.09 & 10)
イントロが一瞬「Get Back」しています。
ところが直ぐに中断し、上手くいかず、ポールとジョージの口論に発展する有名な場面です。
リンゴは完全に呆れ顔……。
10 Across The Universe(1969.01.07)
「私の世界は変えられないをやろう」という台詞で始まります。
前の場面が険悪だったので、この曲でホッと和みますが、もちろんその時とは別の日の演奏です。
曲は途中で中断しますが、絶妙の編集でした。
11 Dig A Pony(1969.01.07)
ジョンがデモ的に曲を披露していますが、その場のダレ方に呆れた雰囲気で中断し、「もっと早い曲を!」と言い出して次に移ります。
12 Suzy Paker(1969.01.09)
多分ジョンが即興的に作ったロックンロールです。
13 I Me Mine(1969.01.08)
ジョージが作ったばかりの曲をリンゴに歌って聞かせます。
そしてその後、バンド演奏になり、ワルツ曲なのでジョンとヨーコがスタジオで踊ります。
演奏は残る3人ですが、ラフな中にも良い雰囲気で、作品中でも名場面でした。
演奏も相当にカッコイイので、これは何とか活かして欲しかったと思います。
14 For You Blue(1969.01.25)
ここから場面はアップル・スタジオに移り「24」まで続きます。
演奏をバックにメンバーがオフィスにやって来る映像に続き、ジョージのボーカルで演奏が楽しめますが、これはかなり出来上がっています。
この演奏の後にジョンの「~私はピグミーを偏愛する~」というお喋りがあり、それはアルバム「レット・イット・ビー」に収録された「Two Of Us」の前に編集して付け足されました。
15 Besame Mucho(1969.01.29)
ラテンの名曲をポールが楽しそうに歌い、メンバーもそれなりにノッてバックをつけています。
ちなみにビートルズは同曲を、1962年に受けたデッカ・レコードのオーディションでも演奏しましたが、結果はご存知のとおり、不合格でした。
16 Octopus's Garden(1969.01.26)
アルバム「アビー・ロード」に収録されたリンゴの持ち歌で、ジョージがギター、リンゴがピアノを弾き、2人だけのリハーサルですが、この時点で原型が出来ていた事がわかります。
そして途中からジョンがドラムスで参加♪
しかし、そこへポールがやって来て演奏が中断するという、いはやはなんともの編集です。
17 You Really Got A Hold On Me(1969.01.26)
ここからビリー・プレストンが画面に登場します。
演奏される曲はモータウンレコードから放たれた大ヒットの古典で、ビートルズは初期のアルバム「ウイズ・ザ・ビートルズ」で録音しています。
残念ながら、ここでは最後まで完奏していませんが、雰囲気は上々♪♪~♪
ビリー・プレストンの如何にも黒人っぽいファッションのシャツ、そして何気なく入れてくるオルガンのフレーズがファンキーで素敵ですねぇ~♪
18 The Long And Winding Road(1969.01.26)
リハーサルですが、ジョンのアドバイスも真剣です。
ちなみにジョンは、6弦のエレキ・ベース、ボールはピアノをプレイしています。
19 Shak Rattle And Roll(1969.01.26)
1954年に大ヒットしたロックン・ロールの古典を演奏、とても楽しい雰囲気は「ビリー・プレストン効果」の証明でしょうか?
20 Kansas city - Miss Ann - Lawdy Miss Clawdy(1969.01.26)
ロックン・ロールの古典をメドレーにして、同日の演奏が続きます。
「Kansas city」はビートルズがアルバム「フォー・セール」で取上げていましたが、ここでは別アレンジにしています。「Miss Ann」は1957年にリトル・リチャードが大ヒットさせた曲で、ポールのお気に入りらしく、続く「Lawdy Miss Clawdy」は、1952年頃にR&B歌手のロイド・プライスがヒットさせた自作自演曲でした。
映像では、やがてポールの義娘になるヘザー・イーストマンが登場、演奏に合わせてクルクル回って踊り、最後に転んでパンツがチラリ、!?!
このあたりにも楽しい雰囲気を掴んだ映像の編集が施されています。
21 Dig It(1969.01.26)
アルバムでは、とても短く編集されていましたが、この楽しそうなノリは最高です。
もちろん演奏の中心はビリー・プレストンで、彼に煽られたのか、既にバラバラ寸前のビートルズがバンドとしての一体感を表出させた、実に素敵な一瞬が味わえます。
しかし……、この後にポールがジョンに対して、今回のプロジェクトの意義やジョージとの問題について、しつこく言い訳をする場面へ映像が変わります。
ポールの気持ちは痛いほど分かりますが、ジョンは困り顔……。
22 Two Of Us(1969.01.31)
ここから「24」まで、完成された曲が演奏される場面が続きます。
撮影はすべて1月31日で、つまり屋上ライブ・セッションの翌日ですが、このトラックは、アルバム「レット・イット・ビー」収録のバージョンに限りなく近いものです。
23 Let It Be(1969.01.31)
コーラスもブラスも入っていない、バンドだけのシンプルな演奏で、ビリー・プレストンのオルガンが流石に良い味です。
既に何度か述べてきたとおり、これも公式音源の元になった演奏です。
24 The Long And Winding Road(1969.01.31)
これも同様にバンドだけの演奏で、またしてもビリー・プレストンのオルガンが素晴らしい隠し味になっていて、個人的には非常に好きな演奏です。
う~ん、このシンプルで切々とした雰囲気に接してしまうと、フィル・スペクターの装飾に異議を唱えたポールの言い分が理解出来る様な気が致します。
「25」から「30」までは1月30日に行われた屋上のライブ演奏です。内容については既に「其の四」で述べましたので、割愛させていただきます。
25 Get Back(1969.01.30)
26 Don't Let Me Down(1969.01.30)
27 I've Got A Felling(1969.01.30)
28 One After 909(1969.01.30)
29 Dig A Pony(1969.01.30)
30 Get Back(1969.01.30)
31 Get Back(Reprise)
曲の一部分だけがエンド・ロールで使われました。
ビートルズは映像に登場しておりません。
ということで、あらためて映画の流れを整理すると「01」~「13」までが1969年1月2日~15日にかけてトゥイッケンナム・フイルム・スタジオで行われたリハーサルです。
ここで無気力と険悪な雰囲気をしっかりと伝え、次にアップル・スタジオで1969年1月22日~31日にかけて行われた「14」~「24」の場面で創造的な姿、ビートルズとしてのプライドを見せつける編集は流石と思います。
そしてその中で行われた1969年1月30日の屋上でのライブ「25」~「30」を最後に据えて、素晴らしい演奏とバンドとしての一体感を、警察官までもが登場する騒動と共に見せつけてのクライマックスにしてしまったのは、とても上手い構成でしょう。
もちろん、巧みなフィルム編集によって、演奏された曲の順番が入れ替えてあるのは言うまでもありません。
ちなみに上記曲名の後に付けた日付は、その音源が演奏された日を、サイケおやじが映像と手元にある海賊盤音源から推測してみたものにすぎません。
これは、ぜひとも、皆様のご意見をお聞かせ願いたいところです。
で、肝心の音源ついては、撮影フィルムに同期させたサウンドトラック音源と、レコードやテープとして正規発売するために録音した音源の2つに分けられます。
後者については、アップル・スタジオに移動してから録音しており、それはマルチ・トラックで約28時間分存在していると云われておりますが、問題は前者のシンクロ音声トラックです。
既に「其の五」で映像フィルムが約38時間分、シンクロ音声トラックが約96時間分残されたと書きましたが、何故音声の方が長く存在しているかと言えば、それは映画の撮影が2台のカメラで行われたからです。つまりその2つのカメラに連動させた2台のオープンリール・テープレコーダーが存在しており、同じ演奏でも2種類のテープが残されたのです。
しかも、そのテープは1本につき10~15分位しか録音出来ないため、後に編集して使えるように、テープ交換のタイミングをずらして使用されていたからだと推察しております。
で、映画フィルムでの音源は、全篇このシンクロ音声テープからのトラックが使用され、モノラルになったのは、その所為でした。
そして件の映画は、1時間28分に編集されていましたので、業者が目を付けたのが、この音源の残りテープです。
それが纏まって海賊盤として登場したのは、1973年頃の事でした。
参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」
注:本稿は、2003年10月29日に拙サイト「サイケおやじ館」に掲載した文章の改稿です。