1970年初頭、ビートルズは完全にバラバラになっていました。
ジョンは前年からプラスティック・オノ・バンドと名乗る自己のバンドでの活動を本格化させていましたし、ポールは密かにソロアルバムを録音中、ジョージはジョンや他のミュージシャンとのセッション活動、さらにリンゴは映画出演とソロアルバムの録音といった具合です。
そ~した各々諸々の行動は、私生活も含めて、その頃の洋楽系ラジオ番組や音楽雑誌で日本でも頻繁に報道され、つまりはビートルズの解散を自然な流れとして我々ファンは受け入れるしかない……。
そんな雰囲気が強く漂っていたのは当時をオンタイムで過ごされた皆様であれば、ご理解いただけるものと思います。
ところが、そんな最悪の時期だった1970年2月、突如として驚愕の朗報が世界中にっ!
もちろん、それこそが待望久しいビートルズの新曲発売のニュースであり、今度こそっ!
という大きな期待の中、イギリスでは3月6日に「Let It Be / You Know My Name」のシングル盤が発売されます。
これは海外では珍しいピクチャー・スリーブ、つまりアルバムの様にデザインされた袋に入れられて販売されましたが、そこで使われた写真は、後に発売されるLP「レット・イット・ビー」と同じ雰囲気の、黒枠にメンバーが単独で写っているカットが使われ、今にして思っても、当時のビートルズの状況を如実に表しておりました。
ちなみに当時の海外のシングル盤は、発売会社の名前等がデザインされた紙の袋に入れられて販売されるのが普通でした。その紙の袋の真ん中にレコードのレーベルと同じ大きさの丸い穴があって、そこからレコードを識別していたのです。
閑話休題。
で、肝心の中身の「Let It Be」はジョージ・マーティンが仕上げたステレオミックスでしたが、何故か3月25日に発売された日本盤は、ジャケットにステレオ表記があるにもかかわらず、モノラルミックスでした。
本日掲載したのが、その現物です。
これは長い間、ビートルズ関連ミステリの命題になっておりましたが、実は当時、日本へのマスター・テープ・コピーの到着が遅れたために、会社側が英国オリジナルのシングル盤から独自にマスター・テープを起こし、ノイズが目立たない様にモノラル処理をしたのではないか?
という推測が、近年定着しております。
そのために、日本盤のジャケットのステレオ表記が、セカンド・プレスからは消されていきますが、本物のステレオミックスのシングル盤が日本で発売されたのは、なんとっ!
1977年頃からでしたっ!?!
う~ん、結局……、こ~なってしまったのも、発売を急ぐあまりの事で、つまりはビートルズの周辺が、それだけキナ臭くなっていた事の表れだったと思います。
ちなみにイギリス盤もアメリカ盤も、共ににジャケットにはステレオの表記が最初からありませんし、もちろんアメリカ盤だって、最初っから堂々のステレオミックスです。
一方、B面収録の「You Know My Name」はジョンが作った曲で1967年に録音され、その後の紆余曲折、様々に手を加えて、ようやくここに発表された問題曲(?)で、当時はジョンがプラスティック・オノ・バンド名義でリリースを目論んでいたのですが、ポールのボーカルが大きく出ている部分があるために、最終的にビートルズ名義になったものと思われます。
ただし、楽曲そのものは、お経みたいで、個人的には好みではありません。
また、当初のオリジナル完成版とされる音源は現在「アンソロジー2」で聴けますが、ここで最初に世に出た時は、その短縮版!
しかも世界共通のモノラルミックスになっておりました。
ということで、もちろん新曲「Let It Be」は忽ち世界中で爆発的な大ヒット!
当然ながら、プロデュースは両面収録2曲共、ジョージ・マーティンが担当していたんですが、リアルタイムじゃ~全く気にもならなかったそんな事実こそが、今となっては歴史の中の重要ポイントでありました。
しかし、サイケおやじは、知らぬが仏!?
うむ、やっぱりビートルズは凄いなぁ~~♪
なぁ~んて、ただただ、素敵な歌と演奏に酔い痴れていたんですねぇ~~♪
印象的なイントロのピアノ演奏をコピーして学校なんかで弾けたりするのが、それこそ人気者の条件だったのが、その頃のサイケおやじ周辺の認識でもありました。
ということで、ようやく「レット・イット・ビー」は、形あるものとしてファンの前に姿を現し始めました。
しかし、次なる展開こそが、さらなる大問題に繋がるのです。
【参考文献】
「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」
注:本稿は、2003年10月1日に拙サイト「サイケおやじ館」に掲載した文章を改稿したものです。