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「読書会報告その2」佐和隆光著「日本の『構造改革』」その③ 文科系

2006年06月01日 12時53分35秒 | Weblog
日本の景気対策、経済政策としては以下のものがあげられている。
まず、雇用機会を作ること。そのやり方の提案例は以下である。行政権限を地方に移譲してそこに根付く産業を育成し、地方で雇用を増やす。日本医療費に占める高すぎる薬代を下げて医療、介護の雇用を増やす。他国比較で少ない教員を増やす、などなどだ。
また、ポスト工業化の重要部門としてのハイテク製造業で技術革新を促進せよと言う。そのために企業の研究開発費について、大幅な税額控除を行う。この方が、税金をどの研究開発機関に配分するかを官僚に委ねるよりもはるかに実効的だと語る。
また、これらのことについて、官製委員会・官製審議会なども含めて、官僚が干渉しすぎるのは日本の悪弊だから、止めることであると語る。

次に、景気対策としても最重要の課題である「平等な福祉社会」、「排除される者をなくすこと目指して自分への投資の原資を提供するという福祉社会」についての、諸提案例は以下である。
機会不平等から生まれる結果不平等への対策として、累進課税の強化。落ちた人でも再出発できるようにするためには、18歳までの基礎的教育の充実から「可能性の平等」を図ること。そのためにも、大学受験制度・内容の抜本的改革。転職への職業訓練施設の充実などである。

著者はさらに、以上を実現していく上での政界再編についても1節を設けて論を進めている。
日本の政界も保守とリベラルへの再編をやった方がよいということを前提として語るのだが、この場合著者は、以上述べてきた総てを前提として論を進めることになる。つまり、「日本の市場を時代に合わせて自由、透明、公正なものにする市場主義改革」と「排除される者をなくすこと目指して自分への投資の原資を提供するという福祉社会」とに合致した政治の担い手は誰かと。著者の結論は、自由党と民主党との合併による新民主党に期待することになるのだが、その理由についてこう語っている。「小沢一郎は、新保守主義改革、すなわち市場主義改革の熱烈な唱道者である」そして「秩序や伝統の保守にはさほど重きを置かず、異端に対しては比較的寛容な立場」と。また「他方、旧民主党には、社民党出身の議員をはじめ、『第3の道』に共感を覚える政治家が少なくなかった」と。こうして著者は以下のような結論まで語ってみせることになる。「民主党と自由党の合併は、新保守とリベラル左派の両極を包含する政党の誕生を意味する。両党の合併は、いまの日本にとって『必要十分な改革』である、市場主義改革と『第3の道』改革を同時並行的におしすすめる役割を担いうる政党の誕生なのである」と。

さて具体的経済構造改革の最後は、広義のグローバリゼーションへの対応という第4節である。
これについてまずは、世界の対応状況を概観する。西欧に多かった社民政権などはコスモポリタンだから移民に賛成だったが、21世紀になって多くが右翼政権に換わったことを語り、右翼が移民に不寛容である点に支持が集まったからだと報告している。環境団体や労組など左翼に反対が多いのも、それぞれ環境問題、職を奪われる問題があったからだと言う。対してニューレフトはグローバリズムに反対せず、避けられない潮流と見て、国家制度改変なども含めて適応していくしかないと見ていると語る。グローバリズムに、効率化という悪い面だけを見るのではなく、日本など利権、既得権などの多い社会には、「公開、公正」の意味も大きいと見るべきであるとも語っている。
こうして著者は、グローバリズムの正負両面ともを避けられない潮の流れと見た上で、アメリカとEUと中国とを眺めながら日本の進路を論じていく。つまり、対米追従を続けるのか、日本経団連が「新ビジョン」でも述べているようにな「東アジア自由経済圏」で行くのか、それとも「東洋のスイス」のような孤立で行くのかと。
著者はその選択を決しているわけではないが、それぞれの条件、帰結などについてこのように語っている。対米追従路線は「必ずやヨーロッパ、アジア諸国との不和をきたし、日本はアメリカの一属国と成り果てるだろう」と。東アジア自由経済圏を作り参加していくという道は、政治力、文化力、正当性を身につけなければ実現せず、それが実現しない時は「華人・中国人経済圏」実現の跡にぽつんと取り残された大国となるだろうと。この「東洋のスイス」の道は、人口の多さから見て、非常に難しいとも語っている。

追記 以上で岩波新書本「日本の『構造改革』」紹介を終わります。なお、その①が1章、その②が2~3章、その③が4章の紹介でした。


コメント (5)
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