清しかる朝の窓あけ今日もまた
生命甲斐ある生活(たつき)祈りぬ 東京 塚野ひろみ
新なる国興さむと二千尺
坑底ふかく鶴嘴ふるふ 福岡 安武忠利
☆「生命甲斐ある生活・・」の歌に花森安治氏の「一銭五厘の旗」を思い出した。
戦争には敗けた しかし
戦争のないことは すばらしかった
軍隊というところは ものごとを
おそろしく はっきりさせるところだ
星一つの二等兵のころ 教育掛りの軍曹
が 突如として どなった
貴様らの代りは 一銭五厘で来る
軍馬は そうはいかんぞ
聞いたとたん あっ気にとられた
しばらくして むらむらと腹が立った
そのころ 葉書は一銭五厘だった
兵隊は 一銭五厘の葉書で いくらでも
召集できる という意味だった
そうか ぼくらは一銭五厘か
そうだったのか
そういえば どなっている軍曹も 一銭
五厘なのだ 一銭五厘が 一銭五厘を
どなったり なぐったりしている
考えてみれば すこしまえまで
みんな虫けらめ だった
寄らしむべし知らしむべからず だった
しぼれば しぼるほど出る だった
明治ご一新になって それがそう簡単に
変わるわけはなかった
昭和になってそれがそう簡単に
変わるわけがなかった
満洲事変 支那事変 大東亜戦争
貴様らの代りは 一銭五厘で来るぞ と
どなられながら 一銭五厘は戦場をくた
くたになって歩いた へとへとになって
眠った
一銭五厘は 死んだ
一銭五厘は けがをした 片わになった
あの八月十五日から
数週間 数カ月 数年
ぼくらは いつも腹をへらしながら
栄養失調で 道傍でもどこでも すぐに
しゃがみこみ 坐りこみながら
買い出し列車にぶらさがりながら
頭のほうは まるで熱に浮かされたよう
に 上ずって 昂奮していた
戦争は もうすんだのだ
もう ぼくらの生きているあいだには
戦争はないだろう
ぼくらは もう二度と召集されることは
ないだろう
敗けた日本は どうなるのだろう
どうなるのかしらないが
敗けて よかった
あのまま 敗けないで 戦争がつづいて
いたら
ぼくらは 死ぬまで
戦争するか
空襲で焼け死ぬか
飢えて死ぬか
とにかく死ぬまで 貴様らの代りは
一銭五厘でくる とどなられて おどお
どと暮していなければならなかった
敗けてよかった
それとも あれは幻覚だったのか
ぼくらにとって
日本にとって
あの数週間 あの数カ月 あの数年
おまわりさんは にこにこして ぼくら
を もしもし ちょっと といった
あなたはね といった
ぼくらは 主人で おまわりさんは
家来だった
役所へゆくと みんな にこにこ笑って
かしこまりました なんとかしましょう
といった
申し訳ありません だめでしたといった
ぼくらが主人で 役所は ぼくらの家来
だった
焼け跡のガラクタの上に ふわりふわり
と 七色の雲が たなびいていた
これからは 文化国家になります と
総理大臣も にこにこ笑っていた
文化国家としては まず国立劇場の立派
なのを建てることです と大臣も にこ
にこ笑っていた
生命甲斐ある生活(たつき)祈りぬ 東京 塚野ひろみ
新なる国興さむと二千尺
坑底ふかく鶴嘴ふるふ 福岡 安武忠利
☆「生命甲斐ある生活・・」の歌に花森安治氏の「一銭五厘の旗」を思い出した。
戦争には敗けた しかし
戦争のないことは すばらしかった
軍隊というところは ものごとを
おそろしく はっきりさせるところだ
星一つの二等兵のころ 教育掛りの軍曹
が 突如として どなった
貴様らの代りは 一銭五厘で来る
軍馬は そうはいかんぞ
聞いたとたん あっ気にとられた
しばらくして むらむらと腹が立った
そのころ 葉書は一銭五厘だった
兵隊は 一銭五厘の葉書で いくらでも
召集できる という意味だった
そうか ぼくらは一銭五厘か
そうだったのか
そういえば どなっている軍曹も 一銭
五厘なのだ 一銭五厘が 一銭五厘を
どなったり なぐったりしている
考えてみれば すこしまえまで
みんな虫けらめ だった
寄らしむべし知らしむべからず だった
しぼれば しぼるほど出る だった
明治ご一新になって それがそう簡単に
変わるわけはなかった
昭和になってそれがそう簡単に
変わるわけがなかった
満洲事変 支那事変 大東亜戦争
貴様らの代りは 一銭五厘で来るぞ と
どなられながら 一銭五厘は戦場をくた
くたになって歩いた へとへとになって
眠った
一銭五厘は 死んだ
一銭五厘は けがをした 片わになった
あの八月十五日から
数週間 数カ月 数年
ぼくらは いつも腹をへらしながら
栄養失調で 道傍でもどこでも すぐに
しゃがみこみ 坐りこみながら
買い出し列車にぶらさがりながら
頭のほうは まるで熱に浮かされたよう
に 上ずって 昂奮していた
戦争は もうすんだのだ
もう ぼくらの生きているあいだには
戦争はないだろう
ぼくらは もう二度と召集されることは
ないだろう
敗けた日本は どうなるのだろう
どうなるのかしらないが
敗けて よかった
あのまま 敗けないで 戦争がつづいて
いたら
ぼくらは 死ぬまで
戦争するか
空襲で焼け死ぬか
飢えて死ぬか
とにかく死ぬまで 貴様らの代りは
一銭五厘でくる とどなられて おどお
どと暮していなければならなかった
敗けてよかった
それとも あれは幻覚だったのか
ぼくらにとって
日本にとって
あの数週間 あの数カ月 あの数年
おまわりさんは にこにこして ぼくら
を もしもし ちょっと といった
あなたはね といった
ぼくらは 主人で おまわりさんは
家来だった
役所へゆくと みんな にこにこ笑って
かしこまりました なんとかしましょう
といった
申し訳ありません だめでしたといった
ぼくらが主人で 役所は ぼくらの家来
だった
焼け跡のガラクタの上に ふわりふわり
と 七色の雲が たなびいていた
これからは 文化国家になります と
総理大臣も にこにこ笑っていた
文化国家としては まず国立劇場の立派
なのを建てることです と大臣も にこ
にこ笑っていた