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「アジア力の世紀」の要約と書評  文科系

2014年05月08日 21時55分11秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
「アジア力の世紀」の要約本論  文科系

 4月14日にエントリーした『書評の予告』と5月5日『その続き』では、こんなことをまとめてきた。
 アメリカのGDPは25年には中国に、50年にはインドに抜かれる。日本GDPもインドに、そして50年にはインドネシアにも抜かれる。ちなみにこれらは、GDPのことであって、個人平均所得などではない。人口が多い国の平均所得は当然高い数字ではなくなる。それでも、新興国が物作り中心にどんどん追いついてくる世界であるということだ。(国有的な中国の銀行などは既に、アメリカよりも大きい所が出ている。)
 ケンブリッジ大学の経済史家アンガス・マディソンの過去2世紀ほどの世界経済推移の予測として、こんな数字もある。世界GDPに占めるアメリカの比率は、過去最高の1950年27.3%が、2030年には17.3%になるだろうと。アメリカ経済の根本にはまた、こんな不安定な数字も存在する。1990年を過ぎてから、金融部門収益が製造部門のそれをどんどん抜いていったのである。
 そして、そんなアメリカだからこそ、リーマンショックや、ギリシャなどへのその欧州波及・欧州債務危機を引き起こした。1929年世界大恐慌にも等しい09年のこの世界危機によっても、EUが、侮蔑気味に予測されていた「分裂、解体」にどうして陥らなかったか。それどころかEUが、1929年世界恐慌後の第2次大戦のような世界崩壊事態を防いでくれたのだ。
『それは二十九年の世界と違って多様な国際機関が機能し、諸国家間の貿易相互連結度が深化しているからだけではない。広大な新興国市場が存在するから、だけでもない。何よりも「巨大単一市場」EUが、たゆたいつつも危機の収束機能を自ら果たし続けているからなのである。(中略)EU市場の広がりは、新興国市場よりもっと大きく、その底はもっと深い。市場規模は六兆一一二〇億ドル(一〇年)。中国市場の四倍、アメリカ市場の三倍に達する。EUだけで全世界対外輸入市場(一七兆八二三二億ドル)の三四・三%を占める。そして中国にとっては、かっての日本に代わってEUが最大の輸出市場となり、中国の長期高度成長の支え手となっている。巨大市場をもつ欧州共同体が、新興国と世界の成長を支える大消費地帯へと変貌していたのである』(206ページ)

 さて、ここからが今回の本論であるが、その前にこの本全体の構成、内容をまとめておこう。こういうものである。アメリカ経済は停滞、沈滞し、1990年以降はカジノ資本主義に陥ってきた。それが引き起こした1929年の恐慌にも等しい08年リーマンショック・09年欧州経済危機は、EU市場や新興国市場の大きさによって救われた。物作り大国が多いアジアは、リーマンショックを辛うじて鎮めたEUのやり方に、将来進むべきその方向を観るのが良い。こうしてあとこの本について語り残しているのは、この二つと言える。21世紀初めの世界恐慌状態の後で、EUは人類の未来に向かってどんな世界経済改善を目指した策を押しすすめたのか。および、そこからアジアが今学びつつあることはなんであるか。あとはこの前者を語るだけでよいだろう。後者はそこから自ずから見えてくるアジアの新しい方向目指した現状施策が書かれているということなのだから。

 本論の最初の抜粋は、先回の最後の部分をやや長く引用し直すことから、まず始める。『第6章 欧州危機から見えるもの』の最終節、第3節『欧州債務危機から再生ヨーロッパへ』の一節だ。

『それら財政統合への深化とともに、EUはまた、金融投資規制を軸にカジノ資本主義への規制強化策を打ち出した。そしてそれを、グローバルな金融規制へつなげようとしている。
 ファンドや格付け機関への規制、役員の過剰報酬規制から、銀行・役員の金融活動税の創設。投機的金融取引への国際取引課税の導入。さらには、銀行の自己資本比率を高めて過剰投機を抑止するバーゼルⅢから、ケイマン諸島など法人課税逃れの租税回避地への国際的規制に至る。
 ちなみに、租税回避地で貯めこまれた総資金は今日、23兆ドルー米国と日本のGDP総計額に匹敵し、世界の富の四分の一に達する。米、欧、日のグローバル企業が、グローバリズムの波に悪乗りし、自国政府に税を納めずに、社内留保金を膨大な租税回避地に隠し持っているのである』(214ページ)

『ここで特記されるべきは、金融取引税の創設だ。(中略)リーマンショック直後のG20サミットで、その創設が提案された。しかし米国などが反対して採択されなかった。そこでEUは、独自に創設する方向に転換し、12年末、英国などを除くEU11ヵ国で金融取引税を発出させた。11ヵ国だけで、EU全体のGDP総額の90%を占める。(中略)
 そしてフランス・オランド政権は13年3月。従業員に100万ユーロを超える給料を払った企業に、税率75%の富裕税を適用する政策を明らかにした。それに先立って、年収100万を超える個人に75%の税率を課す当初構想に、憲法会議が違憲判決を下したために、オランド政権は、課税対象を個人から企業に移し、社会的公正を貫徹させながら税収増加を図ろうとしていた。
 ちなみに、100万ドル以上の投資可能資産を保有する最富裕層は、米国が1位で306万人、日本が2位で182万人、3位がドイツで95万人、フランスは40万人と算定される。人口比で言えば、日本が世界1だ(『日本経済新聞』2013年2月4日付)』(215ページ)

『財政同盟によって、各国の予算編成権や徴税権を制限する。次いで、各国が一定の主権を譲り、州や自治体のような行政主体になる。財政統合から政治統合へと、EU統合を深化させる。
 こうした海図の最終目的地としてEUは、政治統合をおいている。ビビアン・レディング欧州委員会副委員長(EUの事実上のナンバー2)が明らかにしたように、EUは、2015年にEU制憲会議を発足させ20年に「欧州合衆国」を構築する、という政治統合への明確な海図も、すでに描き始めているのである(『毎日新聞』2013年1月29日付)。
 この構想を明らかにする三ヶ月前の12年10月、EUはノーベル平和賞を受賞した。半世紀にわたって平和と地域統合に取り組んできた歴史的偉業が評価称賛された。それは、「大きな物語」を紡ぎ続ける者だけに与えられる栄誉である』(216ページ)

 1990年以来、金貸し・否、短期金転がし中心で国際収支に生きる道を選んだがゆえに富裕者減税と失業者や低所得者放置とに励んできたも同然な超格差社会アメリカ。それに便乗して同じ事を行ってきた日本。おまけにアメリカは例えば、食糧に関しては世界大独占を作ろうとしてきた。金融資本こそがこれを画策してきたのである。それ以外の食糧輸出国からは先物買いを操るなど、金融業の種にしてすぐには自主的輸出ができないようにさえしてきたのである。現に、「アラブの春」は結局、食糧値上げから起こったとも言われているのだ。世界に食糧は有り余っていても、安い値段では売らないという国際動向が当時存在していたし、今後もそう画策する流れが厳然として存在しているのである。
 他方で、ギリシャ、スペイン、東欧のように貧乏にされた国をも立ち直せてこそ、自分らの将来も過去無数に起こった大小の恐慌などなくしてなんとかやっていけるかと動いたEU首脳国。個人間、国間の大きい格差をなくす道をば、暗中模索で進んでいこうということなのである。

 こうして、アジアがどちらの道を選ぶべきかも、明らかだろう。物作りだけを取れば、日本は間もなくインドに、そしてインドネシアにも総額としては抜かれる。そういう、物作りの国から金融でもって国家財政や個人財産を奪うしかない国になって行く道とは、アメリカのように結局暴力的に相手を抑えつける道となるはずである。泥沼のイラク戦争後の今は、その暴力も諦めて「合法的暴力革命」を画策する国にアメリカはなっているが、この道もやがては閉ざされていくに違いないのである。ただ、この道として今は、ベネズエラが危ないように観ている。それでも、アメリカ、中国、日本などの金融資本の金転がしという少数者による国家、否、世界支配は、いくらマスコミ工作に励んでも、いつか限界が来るのだと、僕は信じたい。なお、日本ならぬ中国に対してこそ今アメリカが金転がし方向を教唆していると思われるが、中国がこれに乗らないことを心から祈りたい。世界の将来が懸かっていることだから、これを非常に心配している。

(これで終わりです)
コメント (7)
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