「書評の予告」の続き
ーーEUのこんな「世界貢献」が日本で見えないのは何故なのか? 文科系
4月14日にエントリーした『「求めてきた内容」の本』の続きである。そこでこんなことを予告させていただいた。
『 以前から、こんな本を探していた。世界政治の近未来を、世界経済の過去1世紀以上の長期的変遷様態分析から探っていこうとする読み物を。(中略)長期的に見て世界金融資本と産業資本との関係とか、その国の経済力が世界的重要度ではどう推移してきたかとかを少なくとも一世紀単位で観てみたかった。(中略)さて、そんな問題意識から格好な本を探していて以降もあれこれと新聞書評欄を見たり、立ち読みなどを繰り返してきたが、以降で最も期待が持てそうな著作に出会った。まだ、書き出しの第一章とちょっとしか読んでないが、岩波新書・進藤栄一筑波大学名誉教授の「アジア力の世紀」である(以下略) 』
さて、この本の第1章、200年視野ほどの世界経済動向を4月14日に抜粋中心でまとめておいた。それを踏まえて今回は、現世界の経済情勢認識の最も重要なところを抜粋してみたい。全7章中、第6章「欧州危機から見えるもの」からの抜粋である。
ここの結論は、こういうことだ。「100年に1度」と言われた米国発サブプライム・バブル爆発による被害をギリシャ危機などを通じてまともに被ったEUが、侮蔑気味に予測されていた「分裂、解体」にどうして陥らなかったか。それどころかEUが、「世界の市場」「(世界恐慌状態の中の)最後の貸し手」であり続けたことによって、1929年世界恐慌後の第2次大戦のような世界崩壊事態を防いでくれたのだと述べられている。以下は、その抜粋。
『確かに、1929年の世界恐慌と、2009年のリーマン・ショックに始まる世界金融危機との類似性は、いくつも指摘できる。二つとも米国発の危機であり、米国流資本主義の破綻のあらわれだ。銀行と証券会社の垣根を取り払って、金融資本を跋扈させた点でも同じだ。前者は大戦後の、後者は冷戦後の、戦後景気に沸いた米国が、自由放任的なネオリベラル政策を導入し、貧富の差の拡大を野放しにした点も同じだ』(201ページ)
『欧州の金融機関が、米国製の証券化商品を大量に買い込んでいることが明らかになり、欧州金融機関の信認が揺らぎ始めたのだった。そして09年10月、ギリシャ政府の債務残高隠しの発覚をきっかけに、ユーロの信認が一挙に失われて、危機は欧州の大手金融機関に及んだ。(中略)ギリシャは、ユーロ圏に加盟するために、粉飾決算まがいの手法を使って、財政赤字も累積債務も実態より低く報告していたことが判明した。その報告書に、ゴールドマンサックス社が関与していた。かって87(九七の誤植だろうー文科系)年夏に始まるアジア通貨危機の陰で、米国のヘッジファンドが暗躍していたように、ギリシャ危機の背後に、米国のファンドと財務省が暗躍していると噂された。米国が金融危機回避のため、欧州に仕掛けた危機だとも、時に位置付けられる』(202ページ)
『しかし、第二の世界大恐慌は起こらなかった。EUは、たゆたいながらも沈まない。ギリシャ危機以来二年半を経過したいま、EUは、危機を乗り越え着実に前に進んでいる。なぜ、「百年に一度」の悪夢は再来せず、EUもユーロも沈まないのか』(204ページ)
『それは二九年の世界と違って多様な国際機関が機能し、諸国家間の貿易相互連結度が深化しているからだけではない。広大な新興国市場が存在するから、だけでもない。何よりも「巨大単一市場」EUが、たゆたいつつも危機の収束機能を自ら果たし続けているからなのである。(中略)EU市場の広がりは、新興国市場よりもっと大きく、その底はもっと深い。市場規模は六兆一一二〇億ドル(一〇年)。中国市場の四倍、アメリカ市場の三倍に達する。EUだけで全世界対外輸入市場(一七兆八二三二億ドル)の三四・三%を占める。そして中国にとっては、かっての日本に代わってEUが最大の輸出市場となり、中国の長期高度成長の支え手となっている。巨大市場をもつ欧州共同体が、新興国と世界の成長を支える大消費地帯へと変貌していたのである』(206ページ)
『EUはまた、金融投資規制を軸にカジノ資本主義への規制強化策を打ち出した。そしてそれを、グローバルな金融規制へつなげようとしている。ファンドや格付け機関への規制、役員の過剰報酬規制から、銀行・役員の金融活動税の創設。投機的金融取引への国際取引課税の導入。さらには、銀行の自己資本比率を高めて過剰投機を抑止するバーゼルⅢから、ケイマン諸島など法人課税逃れの租税回避地への国際的規制に至る』(214ページ)
さて、アメリカべったりのせいか、日本では欧州のこんな「活躍」、「世界的役割」は知らされていなかったように僕には見えた。アメリカべったりというよりも、日本政府がまだまだカジノ資本主義にも希望を繋いでいるということなのだろう。物作りで黒字を作ってきた中国から、アメリカとともにいつか金融で巻き上げてやろうとかの道を探っているのでもあろう。これに対して欧州は、やはり二つの大戦から日米よりもはるかに多くのことを学んでいるということなのか、永年の恩讐を超えて和解し手を繋ぎ合った独仏と、ますます険悪な日中韓。
(この本の要約はまだ続きます。ただし、長くじっくりとやっていきたい)
ーーEUのこんな「世界貢献」が日本で見えないのは何故なのか? 文科系
4月14日にエントリーした『「求めてきた内容」の本』の続きである。そこでこんなことを予告させていただいた。
『 以前から、こんな本を探していた。世界政治の近未来を、世界経済の過去1世紀以上の長期的変遷様態分析から探っていこうとする読み物を。(中略)長期的に見て世界金融資本と産業資本との関係とか、その国の経済力が世界的重要度ではどう推移してきたかとかを少なくとも一世紀単位で観てみたかった。(中略)さて、そんな問題意識から格好な本を探していて以降もあれこれと新聞書評欄を見たり、立ち読みなどを繰り返してきたが、以降で最も期待が持てそうな著作に出会った。まだ、書き出しの第一章とちょっとしか読んでないが、岩波新書・進藤栄一筑波大学名誉教授の「アジア力の世紀」である(以下略) 』
さて、この本の第1章、200年視野ほどの世界経済動向を4月14日に抜粋中心でまとめておいた。それを踏まえて今回は、現世界の経済情勢認識の最も重要なところを抜粋してみたい。全7章中、第6章「欧州危機から見えるもの」からの抜粋である。
ここの結論は、こういうことだ。「100年に1度」と言われた米国発サブプライム・バブル爆発による被害をギリシャ危機などを通じてまともに被ったEUが、侮蔑気味に予測されていた「分裂、解体」にどうして陥らなかったか。それどころかEUが、「世界の市場」「(世界恐慌状態の中の)最後の貸し手」であり続けたことによって、1929年世界恐慌後の第2次大戦のような世界崩壊事態を防いでくれたのだと述べられている。以下は、その抜粋。
『確かに、1929年の世界恐慌と、2009年のリーマン・ショックに始まる世界金融危機との類似性は、いくつも指摘できる。二つとも米国発の危機であり、米国流資本主義の破綻のあらわれだ。銀行と証券会社の垣根を取り払って、金融資本を跋扈させた点でも同じだ。前者は大戦後の、後者は冷戦後の、戦後景気に沸いた米国が、自由放任的なネオリベラル政策を導入し、貧富の差の拡大を野放しにした点も同じだ』(201ページ)
『欧州の金融機関が、米国製の証券化商品を大量に買い込んでいることが明らかになり、欧州金融機関の信認が揺らぎ始めたのだった。そして09年10月、ギリシャ政府の債務残高隠しの発覚をきっかけに、ユーロの信認が一挙に失われて、危機は欧州の大手金融機関に及んだ。(中略)ギリシャは、ユーロ圏に加盟するために、粉飾決算まがいの手法を使って、財政赤字も累積債務も実態より低く報告していたことが判明した。その報告書に、ゴールドマンサックス社が関与していた。かって87(九七の誤植だろうー文科系)年夏に始まるアジア通貨危機の陰で、米国のヘッジファンドが暗躍していたように、ギリシャ危機の背後に、米国のファンドと財務省が暗躍していると噂された。米国が金融危機回避のため、欧州に仕掛けた危機だとも、時に位置付けられる』(202ページ)
『しかし、第二の世界大恐慌は起こらなかった。EUは、たゆたいながらも沈まない。ギリシャ危機以来二年半を経過したいま、EUは、危機を乗り越え着実に前に進んでいる。なぜ、「百年に一度」の悪夢は再来せず、EUもユーロも沈まないのか』(204ページ)
『それは二九年の世界と違って多様な国際機関が機能し、諸国家間の貿易相互連結度が深化しているからだけではない。広大な新興国市場が存在するから、だけでもない。何よりも「巨大単一市場」EUが、たゆたいつつも危機の収束機能を自ら果たし続けているからなのである。(中略)EU市場の広がりは、新興国市場よりもっと大きく、その底はもっと深い。市場規模は六兆一一二〇億ドル(一〇年)。中国市場の四倍、アメリカ市場の三倍に達する。EUだけで全世界対外輸入市場(一七兆八二三二億ドル)の三四・三%を占める。そして中国にとっては、かっての日本に代わってEUが最大の輸出市場となり、中国の長期高度成長の支え手となっている。巨大市場をもつ欧州共同体が、新興国と世界の成長を支える大消費地帯へと変貌していたのである』(206ページ)
『EUはまた、金融投資規制を軸にカジノ資本主義への規制強化策を打ち出した。そしてそれを、グローバルな金融規制へつなげようとしている。ファンドや格付け機関への規制、役員の過剰報酬規制から、銀行・役員の金融活動税の創設。投機的金融取引への国際取引課税の導入。さらには、銀行の自己資本比率を高めて過剰投機を抑止するバーゼルⅢから、ケイマン諸島など法人課税逃れの租税回避地への国際的規制に至る』(214ページ)
さて、アメリカべったりのせいか、日本では欧州のこんな「活躍」、「世界的役割」は知らされていなかったように僕には見えた。アメリカべったりというよりも、日本政府がまだまだカジノ資本主義にも希望を繋いでいるということなのだろう。物作りで黒字を作ってきた中国から、アメリカとともにいつか金融で巻き上げてやろうとかの道を探っているのでもあろう。これに対して欧州は、やはり二つの大戦から日米よりもはるかに多くのことを学んでいるということなのか、永年の恩讐を超えて和解し手を繋ぎ合った独仏と、ますます険悪な日中韓。
(この本の要約はまだ続きます。ただし、長くじっくりとやっていきたい)