水野和夫(日本大学国際関係学部教授・元三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト・元内閣府大臣官房審議官で経済財政分析担当)の話題の著作「資本主義の終焉と歴史の危機」を読んだ。先進国に有効需要が無くなって起こる利子率低下から資本主義の終焉を説いているということで、ここでも話題になった本だ。先進国における利子率の歴史的・極限的低下以外にこの著作の世界経済分析における中心的概念が表題の事になるので、利子率低下と表題の言葉に関わって、この著作内容を紹介していきたい。
なお、この著作の最終章第5章は「資本主義はいかにして終わるのか」となっているが、そこではこんな画期的な提言まで付いているので、初めに紹介しておこう。
利子率低下が世界で最も初めに起こって激しく、長くそれと苦闘してきた日本こそ、ゼロ成長時代へのチャンスなのである。減価償却と買い換えだけの経済にすべきなのだ。現在の「成長」などは、3年に一度のバブル(偽の景気)を起こして、そのたびに99%にさらなる犠牲を増やしつつ延命しているだけのことである。
『バブルは3年に一度生成し、弾ける』(サマーズ元米財務長官)
ゼロ成長でも日本の人口が減っていくから、需要は減少し続けて大変なのである。だから、中間層をこそ増やすべきなのだ。ワークシェアリングを行え。超過勤務を無くして正規を雇うなどの規制を強化せよ。原則的に正社員の雇用を義務づけるべきである。などなど。なお、この章の上記表題自身への回答は、ご自分にはできないと述べている。
さて、以下の『 』は、いつものように本書からの引用である事を示す。
『富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨んでいる』(ウルリッヒ・ペッグ)
1 先進国における利子率の低下
『日本の10年国債の利回りは1997年に2.0%を下回り、2014年1月末時点で0.62%です。さらにアメリカ、イギリス、ドイツの10年国債も金融危機後に2%を下回り、その後、多少の上昇はあっても、短期金利の世界では事実上ゼロ金利が実現しています』
『なぜ、利子率の低下がそれほどまでに重大問題なのかと言えば、金利はすなわち、資本利潤率とほぼ同じだと言えるからです。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させることが資本主義の基本的性質なのですから、利潤率が極端に低いということは、すでに資本主義が資本主義として機能していないという兆候です』
『利子率=利潤率が2%を下回れば、資本側は得るものがほぼゼロです。そうした超低金利が10年を超えて続くと、既存の経済システムはもはや維持できません』
以上のことの結果として、先進国では次のような事態が起こってきたと述べられる。金融経済中心の構造になって、それが定期的にバブルを起こし、そのバブルが弾けるたびに儲けが無くなった会社が、あるいは日本を空洞化させ、あるいは正規社員を切り、臨時パートと正規の長時間労働とに延命策を求めてきたのだと。
2 中進国も物作りの発展から石油を使い、その値段の急騰。およびその世界的影響
こういう世界情勢になると、労働力が安い中進国経済が伸びていく。そういう国が、今までは輸出していた自国の資源をも使って、安いものを作るからさらにそうなる。加えて、ものを作るエネルギーである石油が資源ナショナリズムと世界的使用量増加とによってもの凄く高騰していくから、先進国はさらに不利になる。次のような凄まじい勢いで高騰していった。以下、原油1バレル当たりの価格の推移を示す。
73年までは2~3ドルであった。それが、オイルショックの74年には一挙に11.2ドルと高騰する。そして、74~02年は13.6ドル~29.2ドルに推移する。それが04年7月には一挙に40ドルを突破する。(ちなみに、「03年3月にイラク戦争が始まったのだが、このイラクが石油埋蔵量世界第4位の国であることが、この時の高騰を招いたと言えよう。ここは、文科系の追加) その後リーマンショック後の08年7月には147ドルまで上がる。マネーが、バブルで破裂した一般金融商品から一時的に石油先物に逃げたのである。そして、現在も100ドル前後に推移している。あきらかに石油を金融商品化したことが、こんな値上がりの歴史を呼んだという側面がある。石油は、先物市場が83年に儲けられ、金融商品になっていたという事が以上の推移すべてに関わっているのだ。
3 先進国の金融経済化
以上のように後発国と利子率で競争できなくなったアメリカなど先進国実物経済は、金融経済に取って代わって行った。石油や食糧にも低所得者住宅にも金融商品を作り、そこに世界の金を集めて、その値を上げていくことによって(バブル)。アメリカにおけるその発展ぶりは以下のごとくだ。全産業利益に占める金融業利益の割合の歴史的推移を以下に示す。
29年から84年までは年平均12.3%だったのが、85年~2013年には20.2%になる。なお、この急上昇に実は石油の先物取引市場開設、石油の金融商品化が関係している。これは1983年のことであった。なお、01年から07年までの世界のサブプライム住宅バブル時期には、金融経済利益の割合は25.4%と急騰している。これの最高は02年の30.9%だが、01年の9.11と03年のイラク戦争との合間の年であることが重要である。
『犬の尻尾(金融経済)が、頭(実物経済)を振り回す』(バーナンキFRB前議長)
4 化石燃料
いま、石油に代わるものとしてシェールガスが騒がれているが、これも金融商品として買い占められ高騰して、利子率の低い先進国では使い辛くなるはずである。いずれにしても今後とも、1990年ぐらいまで資源を輸入する物作りで世界一稼いできた日本は苦しいことには変わりはない。日本やアメリカの利子率低下による長期不況は、こうして歴史的・必然的なものであった。
なお、この著作の最終章第5章は「資本主義はいかにして終わるのか」となっているが、そこではこんな画期的な提言まで付いているので、初めに紹介しておこう。
利子率低下が世界で最も初めに起こって激しく、長くそれと苦闘してきた日本こそ、ゼロ成長時代へのチャンスなのである。減価償却と買い換えだけの経済にすべきなのだ。現在の「成長」などは、3年に一度のバブル(偽の景気)を起こして、そのたびに99%にさらなる犠牲を増やしつつ延命しているだけのことである。
『バブルは3年に一度生成し、弾ける』(サマーズ元米財務長官)
ゼロ成長でも日本の人口が減っていくから、需要は減少し続けて大変なのである。だから、中間層をこそ増やすべきなのだ。ワークシェアリングを行え。超過勤務を無くして正規を雇うなどの規制を強化せよ。原則的に正社員の雇用を義務づけるべきである。などなど。なお、この章の上記表題自身への回答は、ご自分にはできないと述べている。
さて、以下の『 』は、いつものように本書からの引用である事を示す。
『富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨んでいる』(ウルリッヒ・ペッグ)
1 先進国における利子率の低下
『日本の10年国債の利回りは1997年に2.0%を下回り、2014年1月末時点で0.62%です。さらにアメリカ、イギリス、ドイツの10年国債も金融危機後に2%を下回り、その後、多少の上昇はあっても、短期金利の世界では事実上ゼロ金利が実現しています』
『なぜ、利子率の低下がそれほどまでに重大問題なのかと言えば、金利はすなわち、資本利潤率とほぼ同じだと言えるからです。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させることが資本主義の基本的性質なのですから、利潤率が極端に低いということは、すでに資本主義が資本主義として機能していないという兆候です』
『利子率=利潤率が2%を下回れば、資本側は得るものがほぼゼロです。そうした超低金利が10年を超えて続くと、既存の経済システムはもはや維持できません』
以上のことの結果として、先進国では次のような事態が起こってきたと述べられる。金融経済中心の構造になって、それが定期的にバブルを起こし、そのバブルが弾けるたびに儲けが無くなった会社が、あるいは日本を空洞化させ、あるいは正規社員を切り、臨時パートと正規の長時間労働とに延命策を求めてきたのだと。
2 中進国も物作りの発展から石油を使い、その値段の急騰。およびその世界的影響
こういう世界情勢になると、労働力が安い中進国経済が伸びていく。そういう国が、今までは輸出していた自国の資源をも使って、安いものを作るからさらにそうなる。加えて、ものを作るエネルギーである石油が資源ナショナリズムと世界的使用量増加とによってもの凄く高騰していくから、先進国はさらに不利になる。次のような凄まじい勢いで高騰していった。以下、原油1バレル当たりの価格の推移を示す。
73年までは2~3ドルであった。それが、オイルショックの74年には一挙に11.2ドルと高騰する。そして、74~02年は13.6ドル~29.2ドルに推移する。それが04年7月には一挙に40ドルを突破する。(ちなみに、「03年3月にイラク戦争が始まったのだが、このイラクが石油埋蔵量世界第4位の国であることが、この時の高騰を招いたと言えよう。ここは、文科系の追加) その後リーマンショック後の08年7月には147ドルまで上がる。マネーが、バブルで破裂した一般金融商品から一時的に石油先物に逃げたのである。そして、現在も100ドル前後に推移している。あきらかに石油を金融商品化したことが、こんな値上がりの歴史を呼んだという側面がある。石油は、先物市場が83年に儲けられ、金融商品になっていたという事が以上の推移すべてに関わっているのだ。
3 先進国の金融経済化
以上のように後発国と利子率で競争できなくなったアメリカなど先進国実物経済は、金融経済に取って代わって行った。石油や食糧にも低所得者住宅にも金融商品を作り、そこに世界の金を集めて、その値を上げていくことによって(バブル)。アメリカにおけるその発展ぶりは以下のごとくだ。全産業利益に占める金融業利益の割合の歴史的推移を以下に示す。
29年から84年までは年平均12.3%だったのが、85年~2013年には20.2%になる。なお、この急上昇に実は石油の先物取引市場開設、石油の金融商品化が関係している。これは1983年のことであった。なお、01年から07年までの世界のサブプライム住宅バブル時期には、金融経済利益の割合は25.4%と急騰している。これの最高は02年の30.9%だが、01年の9.11と03年のイラク戦争との合間の年であることが重要である。
『犬の尻尾(金融経済)が、頭(実物経済)を振り回す』(バーナンキFRB前議長)
4 化石燃料
いま、石油に代わるものとしてシェールガスが騒がれているが、これも金融商品として買い占められ高騰して、利子率の低い先進国では使い辛くなるはずである。いずれにしても今後とも、1990年ぐらいまで資源を輸入する物作りで世界一稼いできた日本は苦しいことには変わりはない。日本やアメリカの利子率低下による長期不況は、こうして歴史的・必然的なものであった。