悲鳴 Ⅱ S・Yさんの作品です
年齢も分からずに、汚れて弱った状態の犬を保護してから一年近くになる。
保護犬は飼うのが難しいと聞いてはいたが、やはり想像以上に大変だった。繁殖だけに利用されて他の世界を全く知らないので無理はないのだが、それでもこの犬の脅える様子には毎日やりきれなくてため息がでる。
おすわりが出来ないのにも驚いた。繁殖以外は閉じ込められていたせいなのか、立つか伏せることしかできない。一切遊ぶこともしない。というより何も知らないのだ。日がな一日中、伏せたままで前足を揃えて爪を噛むか毛づくろいをするだけ。あとは自分用のマットをひたすら掘るように掻きむしっている。絨毯やマットが剥げて破れるので何度も交換しなければならない。叱ったら、なにも食べなくなってしまった。躾もむずかしい。
そして、未だに抱っこしようとすると小さな悲鳴を上げ、強い力でカチコチに固まってしまう。何もかもが理解しがたく、犬好きな私たちでも戸惑うことばかりである。
「この犬には何の罪もない。こうさせてしまったのは人間なのだから」自分に言い聞かせてはいるが、それでもコミュニケーションがとれないことに、つい苛立ってしまう。
身体も不具合が多いので手術を予定していたのだが、フィラリア感染が判明した時点で全てキャンセルになった。いまはその治療を続けているが、おそらくは長生きできないだろう。
私たちは腹をくくった。お金も手も掛かるが、残されたこの犬の余生は、できるだけ穏やかに優しく寄り添ってやることにした。
幸い散歩は気に入ったようで朝、夕、夫と嬉しそうに出かけていく。その姿を見送りながらほっとする。犬らしくなった。嬉しいことにちかごろ散歩の途中で出会う犬に、気が向くとかん高くて細い声だが吠えて挨拶をするようになったという。
そして最近気が付いたのだが、犬に操うつ病があるのかは知らないが、この犬はそれらしいことを繰り返す習性がある。私たちにも慣れて食欲旺盛で元気いっぱいかと思うと、突然ベッドから起き上がろうともせずに一日中何も食べない日もある。最初は戸惑ったが、何度か繰り返すので、私たちにはわからないようなトラウマが周期的にあるのだろう。無理強いせずに自然体で見守っていくしかない。犬の寝顔を見ながらそう思う。
年齢も分からずに、汚れて弱った状態の犬を保護してから一年近くになる。
保護犬は飼うのが難しいと聞いてはいたが、やはり想像以上に大変だった。繁殖だけに利用されて他の世界を全く知らないので無理はないのだが、それでもこの犬の脅える様子には毎日やりきれなくてため息がでる。
おすわりが出来ないのにも驚いた。繁殖以外は閉じ込められていたせいなのか、立つか伏せることしかできない。一切遊ぶこともしない。というより何も知らないのだ。日がな一日中、伏せたままで前足を揃えて爪を噛むか毛づくろいをするだけ。あとは自分用のマットをひたすら掘るように掻きむしっている。絨毯やマットが剥げて破れるので何度も交換しなければならない。叱ったら、なにも食べなくなってしまった。躾もむずかしい。
そして、未だに抱っこしようとすると小さな悲鳴を上げ、強い力でカチコチに固まってしまう。何もかもが理解しがたく、犬好きな私たちでも戸惑うことばかりである。
「この犬には何の罪もない。こうさせてしまったのは人間なのだから」自分に言い聞かせてはいるが、それでもコミュニケーションがとれないことに、つい苛立ってしまう。
身体も不具合が多いので手術を予定していたのだが、フィラリア感染が判明した時点で全てキャンセルになった。いまはその治療を続けているが、おそらくは長生きできないだろう。
私たちは腹をくくった。お金も手も掛かるが、残されたこの犬の余生は、できるだけ穏やかに優しく寄り添ってやることにした。
幸い散歩は気に入ったようで朝、夕、夫と嬉しそうに出かけていく。その姿を見送りながらほっとする。犬らしくなった。嬉しいことにちかごろ散歩の途中で出会う犬に、気が向くとかん高くて細い声だが吠えて挨拶をするようになったという。
そして最近気が付いたのだが、犬に操うつ病があるのかは知らないが、この犬はそれらしいことを繰り返す習性がある。私たちにも慣れて食欲旺盛で元気いっぱいかと思うと、突然ベッドから起き上がろうともせずに一日中何も食べない日もある。最初は戸惑ったが、何度か繰り返すので、私たちにはわからないようなトラウマが周期的にあるのだろう。無理強いせずに自然体で見守っていくしかない。犬の寝顔を見ながらそう思う。