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随筆  ハーちゃんと黒猫    文科系

2018年03月05日 14時26分33秒 | 文芸作品
 間もなく十か月になる孫のハーちゃんは、わが家の黒猫・モモに異常な関心を有している。まだハイハイができなかったころからのことだ。そして今続いている場面は。

 わが家に来訪中(週に三~四度は来ている)にモモの声が聞こえたとする。たちまち顔色が変わる。いつも笑っている彼女が急に目をしかめ加減にして、一種厳粛な表情、体勢を浮かべる。大人で言えばさしずめ「今、何か重大事態が起こった」と、そんな感じだ。その顔で、辺りをきょろきょろ見回す。モモの姿が見えようものなら一騒動だ。猛烈なハイハイで追いかけていく。たいていは「オー、オウ」という感嘆詞を伴いながら。この迫力にはおおいに迷惑そうなモモの方、ささっと逃げの体勢に入り、たいてい最後は二階へ跳ねて行ってしまう。階段の下のハーちゃん、未練たらしくしばらく二階をのぞき込んでいる。その厳粛な表情を崩さないままで。
 仕方がないから、連れ合いが二階からモモを連れてきて、首輪を保持して抱え込み、座り込むとする。ハーちゃんは例の表情を崩さず、文字通りに「迫る」迫力で急接近だ。このときもおおむね「オー、オウ」が付いている。さてそれなら目の前のモモに触るかというと、これがなかなか。モジモジというか、コワゴワというか、とにかくあまり触らないし、手を取って触らせても指先だけで毛先に触れるようなもんだ。触りたくてしかたないのだけれど、触るか触らないかというこの動作にまた、みんなして笑っている。
 こういう同じことが飽きもせず、慣れもせず、もう一か月も続いてきた。

 さて、そんな一か月の結末としてこのごろ起こったことが、これだ。
 例えばハーちゃんの家というようにモモがいない所で、僕が「ニャーォン」とやる。するとハーちゃん、たちまち例の表情、体勢に変わって、辺りを探し始める。彼女の目の前であえて見えるように動かしている僕の口から出た声だなどとは露ほども思わない様子できょろきょろしている。それほどに、モモの印象が強すぎるということなのだろう。「声が出た方向」とか「目の前で動かしているこの口から声が出ている」ということなどが、まだ分かっていないのかも知れない。こんな場面、反応がずっと続いたあと、面白いことが起こった。それは、僕の「ニャーォン」に対して、「お前の声だ」とばかりに僕を見つめるようになった二、三日あと、数日前のことだった。
 モモを目の前にした時のハーちゃん自身が、その擬声を発したのである。それも下手なものだが、二種ばかりを何度も。一つは、「ギャワン」と鋭い感じで、もう一つは「ギャーワーン」と間延びした感じといえようか。この擬声は多分、彼女が最初に覚えた言葉の一つだ。慣れ親しんできた大事な大事なママ、その呼び名とほぼ同じころに出たのだから。彼女にとって、モモの印象がそれだけ強烈に続いてきたということだろう。
 そして昨日驚いたのがこれ。穏やかで柔らかい「ギャワン」が連発されているのである。「ヤッター」とか「イイネ」とか、何か嬉しい心を表わす歓声のように。


(2011年夏の同人誌月例冊子に初出)



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