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随筆紹介  「一羽と一人」    文科系

2018年08月29日 04時58分31秒 | 文芸作品
  一羽と一人  M・Aさんの作品です


 この春は極端な寒暖の差があり、草花も一斉に咲きだした。いつもなら桜、ハナミズキ、ツツジや藤などと順に咲く。ところが今年は百花繚乱、庭でも木蓮、牡丹、クレマチスと散り急ぎ、芍薬も咲きだした。おまけに、蚊や毛虫の卵もびっしり。
 晴れた日の屋外は十時を過ぎるともう暑い。私は週のうち五日以上は歩くことにしている。午前中の教室通いもあるので、ない時は午前中に時間を見つけて今や決まったコースを歩く。
南区と緑区を隔て、ほぼ東西に流れる天白川と扇川の堤防の河岸歩道を中心に歩く。この日は風もほぼなく、気温も二十度位だったので、帽子と日傘は使ってもかなり快適であった。片道二十分から三十分の河岸を行くのだが、南区側からだと天白川が手前になるので、毎回同じ光景を見ながら歩くことになる。
 自然の移ろいは確かであって、日ごとに変化している。コンクリートの防壁に生える草の丈や量だって、よく見ると違っている。川面の水量も満潮時と干潮時とは違うし、歩く時間によっても異なる。風のある日はさざ波がたってるし、水が濁っているときもあれば、透明度があって鯉の姿を見るときもある。
 このところの関心事は、川面と岸辺にいる鳥たちである。今はカイツブリがいるが、秋から春にかけて渡ってきていた渡り鳥の鴨が群れをなして泳いでいるのは見ごたえがあった。白と黒に茶色のはっきりとした/姿で、雌は全体に茶色っぽくてパッとしない。この鴨が寒いときには沢山いて、歩きながら鴨の数を数えることが日課になっている。

 すでに五月の中旬に入った。昼間は二十五度位になることが多く、午前中に出かけた。この頃は毎日〈鴨さん、今日はまだいるかな〉と歩き出し、鴨の姿を探すようになっている。歩くのはせいぜい一・三キロちょっとの往復で、川にいる鴨の総数を数えるわけではない。大慶橋から下流の名四国道と交差する地点というのが正しいかも。歩きながら全部を数えるのは、多いときは無理なので、群れごとの数である。一つの群れで、多い時は八十から百羽位だったか。因みにこの日は合計で七羽だった。
泳いでいる鴨の数を数えるのは、これでも多いときなどひと苦労。なんせ自分も歩いているし、川幅も広い所で三十メートル近くはあるのではないか。鴨は時々水面下に潜るし、位置も常に変わる。「あれ、確かに今いたよなー」、ひとり呟き、川面の遠くに目を凝らす。まるでよく動き回る幼児たちの数を数えるのと同じ。また、いろんな会でのバス旅行で乗客を点呼するときにも役立つなーなどと思えて可笑しくなる。
 歩く度に鴨の所在を確認するのが課題になっているが、たとえ数羽でも見つけることができると、不思議に安堵して嬉しくなる。これって何なのだろう? 自分が半年以上も鴨たちと共有した時間があるからなのだろうか。水面に姿を認めるだけでホッとするのだ。反面、心配にもなる。「あんたたちは、まだここに居て、北に帰らなくても大丈夫なの、いつ帰るのよ?」などと呟く。
 鴨は群れでいることが多いが、番もいる。だから、たまに離れている川面にポツンと一羽だけいると「大丈夫かい、一人で?」と訊きたくなる。離れたところにでも仲間が居ると、よかったと思う。これって老婆心なのだろうけれど。
 一人でいたいと私自身最近特に思うが、鴨にもそれがあるのだろうか。五月の読書会の課題が『家族という病』下重暁子著で、すごく読みたかった本である。まだ全部は読んでないが、なるほどと思うことが多い。私自身が家事や家族にたいする嫌悪感、倦怠感を感じだしているときであり、「鬱病症状」も少しあるので、一羽と一人が気になっているようだ。

 これを書き終えようとしている五月十九日現在、たった一羽の鴨を水面に見つけて心配になったのだが、果たして明日以降天白川にその姿は見られるのか……。 昨日と今日の温度差が十度。普通ならすでに北へ帰ったはずの渡り鳥である。
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掌編小説 「日本精神エレジー」   文科系

2018年08月29日 04時36分08秒 | 文芸作品
「貴方、またー? 伊都国から邪馬台国への道筋だとか、倭の五王だとか・・・」
連れ合いのこんな苦情も聞き流して、定年退職後五年ほどの彼、大和朝廷の淵源調べに余念がない。目下の大変な趣味なのだ。梅の花びらが風に流れてくる、広縁の日だまりの中で、いっぱいに資料を広げている真っ最中。
「そんな暇があったら、買い物ぐらいしてきてよ。外食ばっかりするくせにそんなことばっかりやってて」
「まぁそう言うな。俺やお前のルーツ探しなんだよ。農耕民族らしくもうちょっとおっとり構えて、和を持って尊しとなすというようにお願いしたいもんだな」

 この男性の趣味、一寸前まではもう少し下った時代が対象だった。源氏系統の家系図調べに血道を上げていたのだ。初老期に入った男などがよくやるいわゆる先祖調べというやつである。そんな頃のある時には、夫婦でこんな会話が交わされていたものだった。
男「 源氏は質実剛健でいい。平氏はどうもなよなよしていて、いかん」
対してつれあいさん、「質実剛健って、粗野とも言えるでしょう。なよなよしてるって、私たちと違って繊細で上品ということかも知れない。一郎のが貴方よりはるかに清潔だから、貴方も清潔にしてないと、孫に嫌われるわよ」
 こんな夫に業を煮やした奥さん、ある日、下調べを首尾良く終えて、一計を案じた。
「一郎の奥さんの家系を教えてもらったんだけど、どうも平氏らしいわよ」
男「いやいやDNAは男で伝わるから、全く問題はない。『世界にも得難い天皇制』は男で繋がっとるん だ。何にも知らん奴だな」
妻「どうせ先祖のあっちこっちで、源氏も平氏もごちゃごちゃになったに決まってるわよ。孫たちには男性の一郎のが大事だってことにも、昔みたいにはならないしさ」
 こんな日、一応の反論を男は試みてはみたものの、彼の『研究』がいつしか大和朝廷関連へと移って行ったという出来事があったのだった。

 広縁に桜の花びらが流れてくるころのある日曜日、この夫婦の会話はこんな風に変わった。
「馬鹿ねー、南方系でも、北方系でも、どうせ先祖は同じだわよ」
「お前こそ、馬鹿言え。ポリネシアとモンゴルは全く違うぞ。小錦と朝青龍のようなもんだ。小錦のが  おっとりしとるかな。朝青龍はやっぱり騎馬民族だな。ちょっと猛々しい所がある。やっぱり、伝統と習慣というやつなんだな」
「おっとりしたモンゴルさんも、ポリネシアさんで猛々しい方もいらっしゃるでしょう。猛々しいとか、おっとりしたとかが何を指すのかも難しいし、きちんと定義してもそれと違う面も一緒に持ってるという人もいっぱいいるわよ。二重人格なんてのもあるしさ」
 ところでこの日は仲裁者がいた。長男の一郎である。読んでいた新聞を脇にずらして、おだやかに口を挟む。
一郎「母さんが正しいと思うな。そもそもなんで、南方、北方と分けた時点から始めるの」
男「自分にどんな『伝統や習慣』が植え付けられているかはやっぱり大事だろう。自分探しというやつだ」
一郎「世界の現世人類すべての先祖は、同じアフリカの一人の女性だという学説が有力みたいだよ。ミトコンドリアDNAの分析なんだけど、仮にイブという名前をつけておくと、このイブさんは二十万年から十二万年ほど前にサハラ以南の東アフリカで生まれた人らしい。まーアダムのお相手イヴとかイザナギの奥さんイザナミみたいなもんかな。自分探しやるなら、そこぐらいから初めて欲しいな」
男「えーっつ、たった一人の女? そのイブ・・、さんって、一体どんな人だったのかね?」
一郎「二本脚で歩いて、手を使ってみんなで一緒に働いてて、そこから言語を持つことができて、ちょっと心のようなものがあったと、まぁそんなところかな」
男、「心のようなもんってどんなもんよ?」
一郎「昔のことをちょっと思い出して、ぼんやりとかも知れないけどそれを振り返ることができて、それを将来に生かすのね。ネアンデルタール人とは別種だけど、生きていた時代が重なっているネアンデルタール人のように、仲間が死んだら悲しくって、葬式もやったかも知れない。家族愛もあっただろうね。右手が子どもほどに萎縮したままで四十歳まで生きたネアンデルタール人の化石もイラクから出たからね。こういう人が当時の平均年齢より長く生きられた。家族愛があったという証拠になるんだってさ」
妻「源氏だとか平氏だとか、農耕民族対狩猟民族だとか、南方系と北方系だとか、男はホントに自分の敵を探し出してきてはケンカするのが好きなんだから。イブさんが泣くわよホントに!」
男「そんな話は女が世間を知らんから言うことだ。『一歩家を出れば、男には七人の敵』、この厳しい国際情勢じゃ、誰が味方で誰が敵かをきちんと見極めんと、孫たちが生き残ってはいけんのだ。そもそも俺はなー、遺言を残すつもりで勉強しとるのに、女が横からごちゃごちゃ言うな。親心も分からん奴だ!」

 それから一ヶ月ほどたったある日曜日、一郎がふらりと訪ねてきた。いそいそと出された茶などを三人で啜りながら、意を決した感じで話を切り出す。二人っきりの兄妹のもう一方の話を始めた。
「ハナコに頼まれたんだけどさー、付き合ってる男性がいてさー、結婚したいんだって。大学時代の同級生なんだけど、ブラジルからの留学生だった人。どう思う?」
男「ブ、ブラジルっ!! 二世か三世かっ!?!」
一郎「いや、日系じゃないみたい」
男「そ、そんなのっつ、まったくだめだ、許せるはずがない!」
一郎「やっぱりねー。ハナコは諦めないと言ってたよ。絶縁ってことになるのかな」
妻「そんなこと言わずに、一度会ってみましょうよ。あちらの人にもいい人も多いにちがいないし」
男「アメリカから独立しとるとも言えんようなあんな国民、負け犬根性に決まっとる。留学生ならアメリカかぶれかも知れん。美意識も倫理観もこっちと合うわけがないっ!!」
妻「あっちは黒人とかインディオ系とかメスティーソとかいろいろいらっしゃるでしょう?どういう方?」
一郎「全くポルトガル系みたいだよ。すると父さんの嫌いな、白人、狩猟民族ということだし。やっぱり、まぁ難しいのかなぁ」
妻「私は本人さえ良い人なら、気にしないようにできると思うけど」
一郎「難しいもんだねぇ。二本脚で歩く人類は皆兄弟とは行かんもんかな。日本精神なんて、二本脚精神に宗旨替えすればいいんだよ。言いたくはないけど、天皇大好きもどうかと思ってたんだ」
男「馬鹿もんっ!!日本に生まれた恩恵だけ受けといて、勝手なことを言うな。天皇制否定もおかしい。神道への冒涜にもなるはずだ。マホメットを冒涜したデンマークの新聞は悪いに決まっとる!」
一郎「ドイツのウェルト紙だったかな『西洋では風刺が許されていて、冒涜する権利もある』と言った新聞。これは犯罪とはいえない道徳の問題と言ってるということね。ましてや税金使った一つの制度としての天皇制を否定するのは、誰にでも言えなきゃおかしいよ。国権の主権者が政治思想を表明するという自由の問題ね」
妻「私はその方にお会いしたいわ。今日の所はハナコにそう言っといて。会いもしないなんて、やっぱりイブさんが泣くわよねぇ」 
男「お前がそいつに会うことも、全く許さん! 全くどいつもこいつも、世界を知らんわ、親心が分からんわ、世の中一体どうなっとるんだ!!」
と、男は一升瓶を持ち出してコップになみなみと注ぐと、ぐいっと一杯一気に飲み干すのだった。
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