これも旧稿の再掲。ある国の宗教、死生観がそこの政治動向にも強く影響するという好例であると言いたい。アメリカという国は歴史的伝統が少ない、非常に新しい国で、言わば近代以前の体験が無く、これを知らない国と見ても良い。そういう国の大小の影響を最も半世紀以上にわたってまともに受け入れて来た日本で、マスコミなどアメリカ文化を一方的に受けるだけで良かったのか。そんなことを考えながらお読み頂ければ嬉しい。
【 米教育、進化論を教えない影響 文科系 2018年11月01日 | 国際政治・時事問題(国連・紛争など)
7月14日当ブログ拙稿に紹介した論文には、このような記述がある。
『 アメリカ人と進化論に関する統計(ギャラップ、2012年)によると、46%のアメリカの成人が、「現在の人間の形を創ったのは神だ」と答えています。それに対し、「人類は進化したが、それは神の導きによる」と考える人の割合は32%、「人類は進化した。そこに神は介在しない」と考える人は15%です』
『 全米の高校の生物学の教師を対象とする調査と分析(National Survey of High School Biology Teachers, Pennsylvania State University)によると、授業で進化論を積極的に取り入れようとしない生物学教師は60%にのぼります。
これらの先生たちは、進化論とともに、神が生命を創ったとする創造論(creationism)も生徒に説明し、「どれを信じるかは個人が決めることである」「各種試験には進化論が出る」等の補足をすることで、起こりうる問題を回避しているとのことです。そして、進化論を明確に教える教師は28%にとどまっています。 一方で、13%もの教師が創造論だけを授業で教えています』
さて、進化論を教えず、聖書の創世記だけを教えるから、人間の生い立ちについて後者を信じている人が圧倒的に多いアメリカ! このことがアメリカ社会にもたらす影響は計り知れないほど大きいと、改めて述べてみたい。
例えば、進化論否定根拠について、昔はこんな風なことさえ語られていた。「猿から進化ということは、道徳も罪もない、ただ欲望のままにということだろう」、とか。「(神から与えられた)人間の長所の一切を否定するものだ」、とか。これは、人間誕生の理論が当然のことながら、人間観、世界観など哲学の内容も決めていくということだろう。
そもそも進化論を否定するというのは、人間の自然的成り立ちを否定するということだから、人間の営為の一切を、特にその美点の一切を自然から取り上げて、結局神に委ねていくということにもなる。その影響は計り知れぬほど膨大なものと考える。その国の教育だけではなく、人生観さえ偏ってくるというように。そういう偏向教育だと思う。人間の生い立ちそのものを誤解させることに他ならぬものだから。
例えば、政教分離という考え方さえ、無いと言える。教育行政がそういう政教一致をやっているのであるから。
アメリカの人種差別とか、イスラム蔑視とか、他民族への戦争とかに賛成する人々に、人間の誕生で創世記だけを教えているということが関わりがないはずがないとも言いたい。トランプの当選そのものがこのようなある宗教一派の貢献と言われている国なのだし。
アメリカは歴史の浅い新しい国であり、基本的な政治思想の転換などは一度もなかったと言えるし、近代先進国の政治世界などで必ず起こった政治と宗教の激しい争いなども経験がない国である。一般の政治意識にも、政治と宗教のそういうナイーブな考え方が広く存在するということだろう。
こういう影響の一つを最後に上げておく。最近まで米エスタブリッシュメントの資格を表すものとしてに、WASPという用語があった。ホワイト、アングロ・サクソン、プロテスタントの頭文字を取ったもので、広辞苑にさえ載っている。
なお、日本人は意外に、こういうアメリカの負の面を知らない。戦後の日本マスコミは、アメリカを綺麗にしか描いて来なかったのではないか。 】
【 米教育、進化論を教えない影響 文科系 2018年11月01日 | 国際政治・時事問題(国連・紛争など)
7月14日当ブログ拙稿に紹介した論文には、このような記述がある。
『 アメリカ人と進化論に関する統計(ギャラップ、2012年)によると、46%のアメリカの成人が、「現在の人間の形を創ったのは神だ」と答えています。それに対し、「人類は進化したが、それは神の導きによる」と考える人の割合は32%、「人類は進化した。そこに神は介在しない」と考える人は15%です』
『 全米の高校の生物学の教師を対象とする調査と分析(National Survey of High School Biology Teachers, Pennsylvania State University)によると、授業で進化論を積極的に取り入れようとしない生物学教師は60%にのぼります。
これらの先生たちは、進化論とともに、神が生命を創ったとする創造論(creationism)も生徒に説明し、「どれを信じるかは個人が決めることである」「各種試験には進化論が出る」等の補足をすることで、起こりうる問題を回避しているとのことです。そして、進化論を明確に教える教師は28%にとどまっています。 一方で、13%もの教師が創造論だけを授業で教えています』
さて、進化論を教えず、聖書の創世記だけを教えるから、人間の生い立ちについて後者を信じている人が圧倒的に多いアメリカ! このことがアメリカ社会にもたらす影響は計り知れないほど大きいと、改めて述べてみたい。
例えば、進化論否定根拠について、昔はこんな風なことさえ語られていた。「猿から進化ということは、道徳も罪もない、ただ欲望のままにということだろう」、とか。「(神から与えられた)人間の長所の一切を否定するものだ」、とか。これは、人間誕生の理論が当然のことながら、人間観、世界観など哲学の内容も決めていくということだろう。
そもそも進化論を否定するというのは、人間の自然的成り立ちを否定するということだから、人間の営為の一切を、特にその美点の一切を自然から取り上げて、結局神に委ねていくということにもなる。その影響は計り知れぬほど膨大なものと考える。その国の教育だけではなく、人生観さえ偏ってくるというように。そういう偏向教育だと思う。人間の生い立ちそのものを誤解させることに他ならぬものだから。
例えば、政教分離という考え方さえ、無いと言える。教育行政がそういう政教一致をやっているのであるから。
アメリカの人種差別とか、イスラム蔑視とか、他民族への戦争とかに賛成する人々に、人間の誕生で創世記だけを教えているということが関わりがないはずがないとも言いたい。トランプの当選そのものがこのようなある宗教一派の貢献と言われている国なのだし。
アメリカは歴史の浅い新しい国であり、基本的な政治思想の転換などは一度もなかったと言えるし、近代先進国の政治世界などで必ず起こった政治と宗教の激しい争いなども経験がない国である。一般の政治意識にも、政治と宗教のそういうナイーブな考え方が広く存在するということだろう。
こういう影響の一つを最後に上げておく。最近まで米エスタブリッシュメントの資格を表すものとしてに、WASPという用語があった。ホワイト、アングロ・サクソン、プロテスタントの頭文字を取ったもので、広辞苑にさえ載っている。
なお、日本人は意外に、こういうアメリカの負の面を知らない。戦後の日本マスコミは、アメリカを綺麗にしか描いて来なかったのではないか。 】