日本のサッカーファン大注目の名古屋・川崎戦は、川崎大勝利。4対0に終わった。旗手1、ダミアン2、遠野1得点である。観ていて思ったのは、やはり、川崎についてよく言われてきた、このこと。川崎のパスとパス受けとにおいて、「フリー」の概念が他のチームとは全く違う、と。
川崎にとっての「俺は今フリーだ、パスをくれ」または「あいつフリーだ、パスを出そう」という状況理解が他チームにとってはちっともフリーなどではないということだ。だからこそ、他のチームでは通さないはずのパスが川崎選手間では通ってしまう。この点から、名古屋ゴール前の際どい位置に川崎が何人か入ってくると、際どい「パス・受ける」から危険な状態が作られる事が極めて多いと気づかされた。他のチームがほとんど得点できなかった名古屋から4得点も上げたというのは、そういう理解でよい。
さて、この点について昔ここでも描いた川崎のレジェンド・中村憲剛の経験、発見を思い出さざるを得ない。というわけで、彼の「フリー」概念がどのようにしてうまれたかを解説している古いエントリーを再掲したい。話は以下文中にあるように、2010年のエントリーにも遡る。
【 川崎フロンターレの原点 文科系 2020年09月03日
久しぶりにサッカー記事を書きたくなった。川崎フロンターレが、その全盛期をさらに築き直したように、凄まじい強豪ぶりを見せているからだ。29日Jリーグ戦で清水エスパルスを5対0、2日のカップ戦では神戸を6対0で破った。Jリーグ29日終了時点において、2位の勝ち点25を10点も引き離す35と、まさに独走である。凄まじいのはその得点力。得点41はダントツで、ほぼ1ゲーム3得点を獲っている。僕としては、このチームの最大の原点が改めて強化され直した感じを覚えるのだが、そのことが、29日の対戦相手清水エスパルスGKらの感想からうかがい知ることが出来た。
『ボールを受ける選手の「フリーの概念」が、我々とは全く違う』
解説が必要な言葉だが、こういう意味である。「俺は今、敵マーカーを外していてフリー状態だから、いつでもボールをくれ」と川崎の選手が主張している状態は、他のチームにとっては全然フリーではない時」と。つまり、味方ボールの受け方に他チームにはないチーム技術があって、結局ボールを自由に回されてしまうということなのだ。このことで思い出すのがこのチームのレジェンド・中村憲剛の話である。
『僕がこのチームに入った2003年、一緒にこのチームに入ってきたジュニーニョから学んだことがとにかく大きかった。いつも俺を見ておけと言われる。そして要求した時にボールをくれ、と。と言われた時でも、彼は全然フリーじゃないんで、怖くて出せないんだよね。だから、後で怒られる。そんなことが続いたある日の要求に、「エイッ、もう知らないから」と、言われた所に出してみた。マーカー相手をびっくりするほど上手く制して、ボールを収めてくれた。僕の全ては、それからだった!』
その後の川崎は、翌2004年関塚監督体制でJ2優勝、2005年にはJ1で8位と、まさに現在の基礎を築いていったのだった。さらに、もう一つ、この中村が日本だけにいていかに特殊な選手に育っていったかを示すエピソードを添えてみたい。今、大島僚太、そして田中碧らが、この中村憲剛の「目」と技術とを、引き継いでいるのである。 若手があっという間にどんどん育ってくることによって全員がレギュラーになれるような、川崎フロンターレ。過去の磐田とか鹿島のように、歴史に残る強豪時代を築きつつあると観ている。
『「日本サッカー・希望の星」と、ザック監督など(1) 文科系 2010年09月17日
新生ザッケロー二代表の対外戦が、もうすぐだ。10月8日にはアルゼンチン戦、12日には韓国戦がある。折しも日本は、この15日発表の9月世界順位で30位に上り、更に上昇していく要素も多い。そんな今「日本サッカー希望の星」としてまずドイツはドルトムントで早くも「エース格トップ下」に抜擢された香川真司(21)を語り、合わせて新監督ザッケローニなどにも、資料を掻き集めて触れていきたい。
(中略)
新生代表パラグァイ戦から、得点をアシストした中村憲剛が、スポーツグラッフィック・ナンバー最新号でこう語っている。ちなみにあの得点場面を再現描写しておくと、こんな感じだった。敵ゴールに向かってやや左40メートルほどにいた香川が、その右横のゴール正面35メートルほどにいた憲剛にボールを預ける。と同時に、するすると右斜方向のゴール正面へと走り込んでいく。初めはゆっくりと、そしていきなり全速力で、ゴール正面のDF数人の中へ走り込んでいく勢い、感じだった。そこへ憲剛のスルーパス。3~4人の敵DFの間を縫うような速く鋭い、長めの縦パス・アシストである。香川はスピードを落とさずにこれを、ワンタッチコントロールから右足シュート。
憲剛の「表現」を聴こう。
「ああいうのは、センスだよね。実は真司が初めて代表に来たときから、2人で今回のようなプレーをしていたんだ。走っているあいつの足元にパスを出すっていうね。真司の特徴は、動きながらボールをコントロールできること」
「日本代表もパラグァイ戦のようなプレーができれば、もっと楽しくなるんじゃないかなと思う。あれだけ人が密集していても、2人で崩せちゃうんだから」
「あれだけ人が密集していても、2人で崩せちゃう」、憲剛は簡単に語っている。が、相手は世界15位。ブラジル、アルゼンチンの点取り屋を日頃の相手にしてきたDF陣である。上記の得点に二つの超難度技術が必須であったのは明白。一つは憲剛が述べているように「動きながらボールをコントロールできる」選手だが、その直ぐ後で憲剛は「まだ日本には(香川以外は)ほとんどいない」とも語っている。そしてこの必須要素の今一つは、上の表現で言えば、これ。「3~4人の敵DFの間を縫うような速く鋭い、長めの縦パス」。敵ゴール前にこのようなスルーパスを進められる選手は、憲剛の他には長谷部しか僕には名前が挙げられない。2人ともいないときの代表が「敵ゴール40メートルほどに迫ると、横パスばっか」となるのは、そういうことだと理解してきた。
こうして、結論。これはナンバー同号同記事の冒頭の表現であって、憲剛・香川によるこの得点への評価として、僕も大賛成。木崎伸也の文なのであるが、分析力、表現力も含めて、断トツに優れたスポーツ記者だと思う。
「一瞬のプレーに、日本サッカーが目指すべき方向性が凝縮されていた」』 】