九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

書評「近現代日本史と歴史学」   文科系

2020年07月12日 06時35分56秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 中公新書のこの本の著者は成田龍一氏、日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授で、「専攻・歴史学、近現代日本史」とあった。

 この本の最大の特徴は、本の題名が示す通りで、激しいネット議論が最も多い近現代日本史を通じて歴史学という学問自身を改めて根本から考えてみようという点にある。何よりも初めに、そのことを概論した「はじめに」と「序章 近現代日本史の三つのパラダイム」を要約してみよう。

 歴史とは先ず何よりも「無数の出来事の束」である。その中から何かを選んでものを語っている事自体にすでにその出来事などの「選択」、「解釈」、「意味づけ」などの作業が含まれている。ある解釈に基づいて通史、時代、事項などを叙述したものが「歴史像」であって、歴史学とはこういう歴史像にしていく作業なのである。
 という事自身が、「歴史論とは事実の説明にすぎぬ」とだけ考えているやのネトウヨ諸君にはもう解説が必要だろう。

 明治維新一つとっても、そのなかの例えば開国一つを採ってみても、これらを説明していくのに不可欠な重要な出来事一つずつを採ってみても、まず、当時の「無数の出来事の束」の中からこれらを重要として選び出した選択・解釈やその基準があるということだ。そういう解釈や基準は、日本史全体を動かしてきた要因などにも関わる過去の歴史学(者)らの諸学説などを踏まえれば踏まえるほど、精緻なもの、学問として水準の高いものになってくる。歴史を解釈する方法論が豊かになるほど、歴史の叙述が豊かで、精緻なものになるという事だ。 

 ところで、この解釈という事がまた、変わっていく。重大な新資料が出てくると換わるのは当然としても、解釈者自身らの時代も移り変わるところから歴史事実の束に臨む「問題意識」自身が変わるからである。近現代史における解釈変化の一例として、こんなことを著者はあげる。
 明治維新の基点である近代日本の始まりをどこに観るか自身が、変わったと。1950年代までの基点は1840年代の天保の改革の失政だったと観られていて、1960年にはペリー来航(1853年)がその基点に替わったというのである。歴史学会自身いおいて、そのように通説が変わったと。


 さて、近現代日本の通史を見ていく見方、解釈法、思考の枠組みについて作者は、科学史の用語を借りてパラダイムと呼ぶ。そして、大戦後の日本近現代史学会には、2回のパラダイム変化が見られたと論を進める。つまり、日本近現代史を通した解釈について、戦後三つの解釈枠組みがあったと。もちろん、前の解釈枠組みを踏まえて後の解釈枠組みが、地層が重なるように生まれてきたわけだがと条件を付けて。この三つとは、こういうことになる。
 第一が「社会経済史」ベースのパラダイム。第二が「民衆史」ベース、第三が「社会史」ベースだったと。第一ベースは既に、戦前の30年代からあったもので、第二は1960年ごろに始まり、第三が始まったのは1980年ごろだとも述べられてあった。
 ちなみに、日本史教科書のパラダイムは、第一期をベースにして、第二期の成果も取り入れている程度のものだという説明もあった。

 さて、以上を踏まえた上でこの本の全体はこう進んでいく。日本近現代史の各章名に当たるような重要事項、時期それぞれがこの三つのパラダイム変化によってどのように解釈変更されてきたかと。
 先ず、明治維新には、開国、倒幕、維新政権と、三つの章が当てられる。以降は「自由民権運動」、「大日本帝国論」、「日清・日露戦争」、「大正デモクラシー」、「アジア・太平洋戦争」、「戦後社会論」と、全9章が続く。この9項目それぞれにおいて、三つのパラダイム時代でどこがどう解釈改変されてきたかと説明されていくわけである。

 
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白内障手術は「世界」を換える  文科系

2020年07月10日 20時46分15秒 | その他
 今日標記のこと5日の入院から帰ってきた。「白内障が進んでいる」と告げられたお方が、ここの読者にも多いはずだ。これは是非躊躇せず行うべきだということで、以下を。

①「この手術、やると『世界』が変わるよ!」とは、経験者全てが語るのを聞いてきた。僕は5日の入院で両目を一度にやったから、それが特によく分かる。以下のように。

②このパソコン画面も含めて全てがくっきりとよく見えるようになる。その理由はとにかくこの事。薄い色合いも含めた明暗が鮮明に見分けられるようになったから。その様子は例えば、自分の腕の肌の色が場所によってこんなに細かく違うもんだったと、初めて知ったこと。今までは全部薄茶色一色に(近く)見えていたのが、白っぽい点や燻べたような濃茶班がこんなに多いのかと知った。ましてや、白内障者が苦手な夜の高速道運転の前の車との遠近感覚などは、もう何も怖くなくなったはずだ。白内障に伴う僕の乱視のような症状も消えてしまったから。眼鏡視力が0・7から相当上がったのではないか。

③この手術自身は、片目だけならわずか10分、それも、ちっとも痛くない。それで両目手術、5日入院の費用1割負担が、諸経費全て含めて5万円足らず。

 皆さん、白内障手術をすると人生が変わるよ。地球上の全てが、線も色も含めてくっきりと見え直すのだから。
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東京感染  らくせき

2020年07月10日 10時32分59秒 | Weblog
なぜ?224人もの感染が?
規制を緩和すれば当然。
規制を放置すれば・・・感染の拡大。
患者の増加→医療崩壊→さらなる感染の拡大。
それでも拡大を選択しますか?

いずれにしても規制は避けられない。
政府の対応は、遅いように感じますが・・・。
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古い書評のご紹介  文科系

2020年07月06日 10時09分18秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など

 このブログには多くの書評がありますが、それは長短はあってもすべて、内容要約。5日の拙稿休暇に関わって、古い書評をご紹介しておきます。最近の書評は「カテゴリー・書評」をクリックしていただけばすぐに出てきますからそちらを見ていただくとして。

 なお、以下のものそれぞれの出し方はこうです。まず、右欄外のカレンダーの日にちから入る方法。カレンダー下の「バックナンバー」と書いた年月欄を、スクロール・クリックします。「14年4月」とか。すると、すぐ上のカレンダーが14年4月分に替わりますから、その29日をクリックして下さい。エントリー欄がその当日のエントリーだけに替わりますので、お求めの水野和夫「資本主義は死期に突入」をお読みいただけます。

・「政府は必ず嘘をつく」 2015年10月15、18、19日
 角川新書、堤未果

・チョムスキーが説く「イラク戦争」 2015年08月11日 
 集英社新書 ノーム・チョムスキー著「覇権か生存かアメリカの世界戦略と人類の未来」

・「プーチン 人間的考察」 2015年07月3日~10日に全6回
 藤原書店 木村汎著「プーチン 人間的考察」

・「スティグリッツ国連報告」 2015年1月17~24日間に3回

・「暴露 スノーデンが私に託したファイル」  2014年06月4~5日に2回
 新潮社 グレン・グリーンウォルド著「暴露」

・「アジア力の世紀」の要約と書評  2014年05月08日
 岩波新書 進藤榮一著「アジア力の世紀」

・水野和夫「資本主義は死期に突入」 2014年04月29日
 集英社新書 水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」

 

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読者の方々へ  文科系

2020年07月06日 00時10分02秒 | その他

 明日から10日まで、当ブログ文科系の投稿は出来ません。入院するからです。遡って、過去ログでも読んでいて下されば幸いです。カテゴリー欄の活用なども出来ますので、お好きなカテゴリーから過去ログに入っていただければよろしいかとも・・・。

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イラク戦争と、米の退廃(9)「終わった国」だから怖い  文科系

2020年07月06日 00時03分27秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 昨日の拙稿で、米ネオコンらの「覇権維持のためには対中戦争・暴力革命輸出も辞さず」という言葉、態度を示してきた。そのためにこそ、国連無視も底なしにし始めたのであるとも。米が中国にそこまでしなければならぬと考えるに至った背景、理由は、以下の通りである。だから怖いのである。香港もウイグルも全て、そのための布石と言う側面を持つ。国連的思考からすれば中国こそ、国防に励まねばならぬ訳で、それは正当なことになる。

【 「終わった国」米が、怖い   文科系
2019年09月29日 13時28分49秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 20世紀世界第一の強大国としてのアメリカはもう終わったと、そのことを「証明」してみたい。そして、だからこの国の今は怖い、とも。
① 2015年に元会計検査委員長のデイブ・ウォーカーがこんな発表をした。国家累積赤字はGDPの4倍であると。これは、当時の正式発表の数字の3倍を上回るもので、年金、医療などの国の未払い分などを加算したものということであった。大変な自転車操業をやっているのだろう。
② 8月20日新聞夕刊にこんな記事が載った。『株主最優先を米経済界転換』。書き出しはこうだ。
『米主要企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は19日、株主の利益を最優先する従来の方針を見直し、従業員や顧客、地域社会など全ての利害関係者の利益を尊重する新たな行動指針を発表した。これまで米経済界は「株主利益の最大化」を標榜してきたが、大きな転換点となる』
 この団体表明が本心か否か、守られるのか否か、つまり単なる見せかけ、嘘ではないかという問題は今は置いておいて、これの歴史的重要性は分かる人には分かるという、世界史的な出来事である。
③ ①と②の背後にある原因は同一「株主」たちだ。株主資本主義がアメリカの物作りを壊して、大量の白人失業者や超格差を創ったことを通して税収は減っているのに、イラク戦争、アフガン戦争を実質継続中などと、軍事費の政府支出に占める割合などはほとんど減らしていないからだ。ちなみに、イラク戦争の期間には爆発的に増えたから、もうあんな戦争は、自暴自棄にもならない限りできないだろう。「戦争はしない」と公約していたトランプが今はベネズエラ、イランなどにやってきたように「戦争」と口で脅す、とかだけ?
④ この「株主資本主義」は偽の好景気、サブプライム・バブルを創り、リーマン・ショックでこれが弾け飛び、イタリア、スペインなど西欧も含めて世界を「100年に一度」のどん底に落とし込んだ。今また懲りずにGAFAバブルを創っているのも、そういう「株主」たちではないのか。彼らが喧伝している「求人率向上」は日本安倍政権の宣伝と同じで、パート、臨時など、不安定雇用を増やしたというだけの話であって、何の職業的展望も開けない社会であり続けている。これこそ、株主資本主義が創った世界なのだ。生産力は爆発的に伸びたこんなに豊かな社会なのに、なぜなのか?
⑤ 以下のアメリカが進行させてきた諸行動も、こういうアメリカの困窮からこそ出てきたものと考える。ずっと標榜してきた「自由主義」経済を投げ捨てて、ブロック経済に走ったこと(ブロック経済とは、知る人ぞ知る、二つの世界大戦への反省から人類に生まれた世界史的禁じ手だったはずだ)。シリア、ベネズエラ、イランなどに対する「戦争外交」。これらすべてを通じて、一貫して見られる、国連無視、つまり多国間主義外交を放棄した単独主義行動を、他の何よりも僕は批判的に強調したい。今は、アメリカが国連を尊重しさえすれば「人類に戦争があるという現実」(これが、9条改訂の理由になっている)さえ変えられる時代が来たと、僕は思う。だからこそ、20世紀人類に初めて生まれたこの国連が大切なのだとも。 】

 

 

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イラク戦争と、米政治の退廃(8)「中国に革命を!」と、米  文科系

2020年07月05日 14時45分20秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 米から中への覇権移行に関わる米中冷戦について、アメリカ外交の要人たちが「中国に革命を起こさせるべし」、「『なるべく』平和革命を!」と叫び振る舞い続けてきたのを、日本人のどれだけが知っているだろうか。イギリス人で日米政経問題の長年の研究者ロナルド・ドーア著「日本の転機 米中の狭間をどう生き残るか」(ちくま新書)に紹介されていた有名政論人らの議論を紹介しよう。

 まず、日本でも有名になった「大国の興亡」(1988年発行)を書いた、ポール・ケネディは少々平和的で、この覇権移行は必然だろうが、「暴力の度合いを減らして欲しい」と述べている。ケネディは、大国の興亡で「過去、大国が入れ替わった時とは、旧大国が手を広げすぎた時だ」と述べて、米ソ冷戦時代にはその双方にそういう警鐘を鳴らしていた。その後ソ連が、東ドイツ崩壊を機に降参と諸手を挙げた時に、米外交論壇はケネディに対してこんな勝ちどきを吠えたという。
「それ見ろ、米への警鐘は余計な心配だったろう!」
 ところが、ご当人のケネディは、今度は米中冷戦の行方についてウオール・ストリート・ジャーナルにこんな記事を投稿したと、ロナルド・ドーアのこの本が教えてくれる。

『西洋からアジアへの、権力の地殻の変動のような移行は逆行させにくい。しかし、米国議会およびホワイトハウスがもし合理的な政策を取れば、このような歴史的な転換期の浮き沈みの度合い、暴力の度合い、不愉快さの度合いをかなり軽減できる。私のような「斜陽主義説の輩」にとっても、まあ慰めになると思う』

 ケネディのこういう議論に対して、ネオコン(新保守主義者)論客が猛反発するのは、言うまでもない。その典型、ロバート・ケーガンはこう語る。
『国際的秩序は進化の産物ではなく、強制されるものである。一国のビジョンが他国のビジョンとの葛藤においての勝利に起因する。・・・現在の秩序は、それを是とし、その恩恵を蒙っている人たちが、それをとことんまで防衛する意思及び軍事能力があってのみ、存続できる』

また、著名な外交官、キッシンジャーはこう語っている。
『外向的丁寧さを剥ぎ取って言えば、米国戦略の究極的目標は中国の一党支配権力制度を取り除き、自由民主主義体制に変えさせる革命(なるべく平和的革命)を早めることとすべし』
『中国が民主主義国家になるまで敵対的に「体制転換」を中国に強いるように、軍事的・思想的圧力をかけなければならないとする』

 ケーガンの「国際秩序は強い国が利益を守るために強制するもの」にしても、キッシンジャーの「中国体制転換に向けて敵対的に、軍事的・思想的圧力をかける」にしても、良くていわゆる暴力革命・政権転覆、悪ければ戦争という含みである。

 既に起こっており、今後激化するこの冷戦の原因がこれから常にアメリカ側にあることを、否が応でもこれに巻き込まれるはずの日本人はよーく見ておくことだ。ちなみに、近年のアメリカが国連無視をどんどん深化させてきたのは、中国に対する国連的解決など放棄しているからだとも言えるのである。自らの最大目標2%成長率も延び延びになるばかりで、トランプにおべっかを使うことしか出来なかった安倍のような馬鹿が下手をするなら、これからもどんどん米兵器を買わされて米中冷戦の最前線に日本が立たされることになる。イージス・アショアで既定方針に反旗を翻した河野洋平は、その点だけとれば、日本の利益にかなったことをした。

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イラク戦争と、米政治の退廃(7)初のトランプ伝記要約  文科系

2020年07月04日 15時08分27秒 | 歴史・戦争責任・戦争体験など

 今何より「米の頽廃」を示すことと言えば、こんな人物が大統領になったこと。この人物の伝記は今は数多いが、最初の伝記がこれである。早くからトランプの懐に入って、彼を完全な泡沫候補時代から追いかけてきた著名なジャーナリストが、大統領当選後他に先駆けていち早く世に出した本だ。この内容を、過去2回の拙稿で紹介する。


【 トランプという人間(7)「炎と怒り」から  文科系
2018年04月08日 12時42分53秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 今年1月発刊なのに瞬く間に全米170万というベストセラー「炎と怒り」。それも、この日本語訳が出た2月下旬に既にこの数字! 読み進むうちに、それも当然と、どんどん感慨が深くなって行った。この本を読むと、何よりも、「今のアメリカ」が分かるのである。こういう人物が大統領選挙に勝ってしまったというアメリカの現状が常軌を逸しているというそのことが。そういう内容紹介を、ほぼ抜粋という形で始めていく。泡沫候補の時代からトランプ選挙陣営の取材を許可されていた著者は、何回か全米雑誌賞を取った著名なフリージャーナリスト。そんな彼が経過順に22の題名を付けて描いたこの本の紹介には、エピソード抜き出しというやり方が最も相応しいと考えた。

 さて初めは、既に有名になった大統領当選が分かった時のトランプの様子。
『勝利が確定するまでの一時間あまり、スティーブ・バノンは少なからず愉快な気持ちで、トランプの様子が七変化するのを観察していた。混乱したトランプから呆然としたトランプへ、さらに恐怖にかられたトランプへ。そして最後にもう一度、変化が待ち受けていた。突如としてドナルド・トランプは、自分は合衆国大統領にふさわしい器でその任務を完璧に遂行しうる能力の持ち主だ、と信じるようになったのである』(P43)

 次が、「トランプの会議のやり方」。「初めて出席した時には本当に面食らった」とこの著者に話したのは、ラインス・プリーバス。政治や選挙の素人ばかりが集まったトランプ選挙陣営に選挙終盤期に初めて入ってきた玄人、共和党の全国委員長だ。彼の協力もあって当選後は、大統領首席補佐官になったが、間もなく解任された人物でもある。
『プリーバス自身はトランプに望みはないと思っていたが、それでも万一の保険にトランプを完全には見捨てないことにした。結局は、プリーバスがトランプを見捨てなかったという事実がクリントンとの得票差となって表れたのかもしれない。・・・・それでもなお、トランプ陣営に入っていくプリーバスには不安や当惑があった。実際、トランプとの最初の会合を終えたプリーバスは呆然としていた。異様としかいいようのないひとときだった。トランプはノンストップで何度も何度も同じ話を繰り返していたのだ。
 「いいか」トランプの側近がプリーバスに言った。「ミーティングは一時間だけだが、そのうち五四分間は彼の話を聞かされることになる。同じ話を何度も何度もね。だから、君は一つだけ言いたいことを用意しておけばいい。タイミングを見計らってその言葉を投げるんだ」』(P67)

 さて、今回の最後は、トランプの性格。選挙中からトランプに張り付き、200以上の関係者取材を重ねて来た著者による、言わば「結論部分」に当たる箇所が初めの方にも出てくるのである。
『つまるところ、トランプにだまされまいと注意しながら付き合ってきた友人たちがよく言うように、トランプには良心のやましさという感覚がない。トランプは反逆者であり破壊者であり、無法の世界からルールというルールに軽蔑の眼差しを向けている。トランプの親しい友人でビル・クリントンのよき友でもあった人物によれば、二人は不気味なほど似ている。一つ違うのは、クリントンは表向きを取り繕っていたのに対して、トランプはそうではないことだ。
 トランプとクリントンのアウトローぶりは、二人とも女好きで、そしてもちろん二人ともセクハラの常習犯という烙印を押されている点にはっきりと見て取れる。ワールドクラスの女好き、セクハラ男たちのなかにあっても、この二人ほど躊躇も逡巡もなく大胆な行動に出る者はそうそういない。
 友人の女房を寝取ってこその人生だ、トランプはそううそぶく。・・・
 良心の欠如は、トランプやクリントンに始まったことではない。これまでの大統領たちにもいくらでも当てはまる。だがトランプは、誰が考えても大統領という仕事に必要と思われる能力、神経科学者なら「遂行機能」と呼ぶべき能力が全く欠けているにもかかわらず、この選挙を戦い抜き、究極の勝利を手にしてしまった。トランプをよく知る多くの者が頭を抱えていた。どうにか選挙には勝ったが、トランプの頭では新しい職場での任務に対応できるとはとても思えない。トランプには計画を立案する力もなければ、組織をまとめる力もない。集中力もなければ、頭を切り替えることもできない。当面の目標を達成するために自分の行動を制御するなどという芸当はとても無理だ。どんな基本的なことでも、トランプは原因と結果を結びつけることさえできなかった。』(P51~2) 】


【トランプという人間(12)「炎と怒り」の総集編⑥  文科系
2018年04月18日 09時28分50秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 今回を、この本の内容紹介最終回とする。以下は、この書評第4回目「この本の輪郭」とも重複する部分もあるが、要するに粗筋、概要、結論ということだ。

①大統領としてのトランプは、こんな事をやった。
・地球温暖化対策の枠組みから抜けた。
・エルサレムを首都と認定し、シリアを爆撃し(この4月で2回目である)、サウジの皇太子交代(宮廷革命?)にも関わってきたようだ。
・メキシコとの国境に壁を築き、移民に対して厳しい施策を採るようになった。
・ロシア疑惑によって、コミーFBI長官を解任し、モラー特別検察官とも厳しい関係になっている。
・続々と閣僚、政権幹部が辞めていった。

②これらを推し進めたトランプは、こういう人物である。
・知識、思考力がないことについて、いろんな発言が漏れ出ている。「能なしだ」(ティラーソン国務長官)。「間抜けである」(財務長官と首席補佐官)。「はっきりいって馬鹿」(経済担当補佐官)。「うすのろ」(国家安全保障担当補佐官)。
・その代わりに目立ちたがりで、「他人から愛されたい」ということ第1の人柄である。マスコミの威力を信じ、これが大好き人間でもある。
・対人手法は、お世辞か恫喝。格上とか商売相手には前者で、反対者には後者で対する。大金持ちの父親の事業を継いだ後、そういう手法で世を渡ってきた。
・反エスタブリッシュメントという看板は嘘で、マスコミと高位の軍人、有名会社CEOが大好きである。よって、閣僚にはそういう人々がどんどん入ってきた。

本人に思考らしい思考も、判断力もないわけだから、政権を支えていたのは次の3者である。ネット右翼の雄であり最も長くトランプの参謀であったバノン他のボストンティーパーティーなど超右翼の人々。共和党中央の一部。そして娘イヴァンカ夫妻(夫の名前と併せて、ジャーバンカと作者は呼んでいる)である。トランプへの影響力という意味でのこの3者の力関係は、30代と若いジャーバンカにどんどん傾いて行き、前2者の顔、バノンもプリーバス首席補佐官も1年も経たないうちに辞めていった。つまり、トランプ政権とは、「アットホーム」政権、家族第一政権と言える。なお、二人の息子もロシア疑惑に関わる場面があり、アメリカではこれも話題になっている。

④よって、期せずして棚から落ちてきて、何の準備もないままに発足した政権の今までは、言わば支離滅裂。選挙中から「アメリカファースト、外には手を広げない」という右翼ナショナリズムが戦略枠組みだったのだが、エルサレム首都宣言をしてアラブの蜂の巣をつつくし、発足3か月でシリア爆撃も敢行した。ロシア疑惑でコミーFBI長官を解任して、大変な顰蹙も買っている。閣僚幹部はどんどん辞めていく。「馬鹿をさせないために側にいる」位置が嫌になるいう書き方である。

⑤こうして、この政権の今後は4年持つまいというもの。ロシア疑惑が大統領弾劾につながるか、「職務能力喪失大統領」として憲法修正25条によって排除されるか、やっとこさ4年任期満了かの3分の1ずつの可能性ありと、バノンは観ている。

 なお、何度も言うようにこの本の執筆視点は、バノンの視点と言える。全22章の内4つの題名に彼の名がある上に、プロローグとエピローグとがそれぞれ「エイルズとバノン」、「バノンとトランプ」となっているし、そもそも内容的に「バノンの視点」である。ちなみにこのバノンは今、次期の大統領選挙に共和党から出馬しようという意向とも書いてあった。

 以上長い連載を読んで頂いた方、有り難うございました。これで、このトランプシリーズは終わります。なお、外信ニュースによるとコミー元FBI長官がトランプに解任されたいきさつなどを書いた本を最近出したそうです。日本語訳を楽しみに待っているところです。】

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イラク戦争と、米政治の退廃(6)国連の嫌われ者米③  文科系

2020年07月03日 09時37分01秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

  日本の大マスコミ外信ニュースだけを見ている人には、とうてい信じられないはずのニュースを第2、5回に書いてきた。一つは、イスラエル首都移転問題の国連論議への米代表の談話。「我々は金だけ出さされて、(国連各国から)軽蔑を受けている」

 今一つは、アメリカの制裁などによって今にも潰されるかという扱いを受けてきたベネズエラが国連人権理事会理事国に選ばれたという大事件。ベネズエラ選出に猛反対したアメリカの大々的ロビー活動を退けてのベネズエラ当選だった。おなじような「国連の嫌われ者・米」というニュースを、あと一つご紹介したい。日本でも大々的に騒がれてきた中国のウイグル問題にかんするものだ。


【 国連・ウイグル綱引きで、中国が対米圧勝  文科系
2019年10月31日 10時30分02秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 31日中日新聞に「ウイグル問題 国連委を二分」と見出しされた記事があって、目が吸い寄せられた。直前にまさにこの問題で当ブログに「アメリカによる、戦争に代えて『人権』革命輸出」をエントリーした後だったから、この記事を読んで「そんなことだろうな、やはり!」というわけである。全文を転載する。

『国連総会で人権問題を扱う第三委員会は二十九日、中国の新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族などを弾圧しているとされる問題で、欧米や日本など先進国を中心とした二十三か国が中国に人権尊重を求めた。一方、二倍以上の五十四か国が中国の人権に対する姿勢を称賛。国際社会で影響力を増す中国を巡る対立の構図が浮き彫りになった。
 二十三か国を代表して英国が声明を読み上げ、ウイグル族の大量拘束疑惑を引き合いに「私たちは中国政府に、中国全土で信教・信条の自由などの人権を尊重する国際的な義務と責任を守るよう求める」と主張した。
 一方、中国を称賛する五十四か国には、ロシア、パキスタン、エジプトなどが名を連ねた。ベラルーシが代表で二十三か国の声明は「人権問題の政治化だ」と反論し、「ウイグル自治区ではテロや分離主義、宗教的過激主義が人々に甚大な損害を与え、重大な人権問題になっている」と中国の対応を支持。国数で優位に立った中国の張軍国連大使は「世界の人々は真実を観て判断している」と自賛して見せた。
 ウイグル族の人権問題について、報道陣から米中貿易協議へ影響を問われたクラフト米国連大使は「私は人権侵害に苦しむ人々のためにここにいる。中国かどうかは関係ない」とかわした。一方、張氏はロイター通信などに「貿易協議で良い解決策を導くために有益とは思わない」と米国を牽制した』

 それにしても、アメリカの国際的権威、信用凋落ぶりが、凄まじい。「イラン戦争有志国募集」には、国際会議を重ねて呼びかけ、説得活動を続けたのに、ほとんど応募はなし。中南米諸国会議に持ちかけた「対ベネズエラ戦争」にも、メキシコはおろか、今は親米のブラジル、コロンビアにさえ反対された。さらには、最近の仇敵トルコ・エルドアンに大幅譲歩してクルド人を見捨て、シリアからは撤退。21日エントリーに書いた「国連総会における人権理事国選出では、ベネズエラが当選。猛反対と大々的ロビー活動を演じたアメリカの強大圧力を押しのけたこの選挙結果は、米の面目は丸つぶれに終わったのである。】

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イラク戦争と、米政治の退廃(5)国連の嫌われ者米②  文科系

2020年07月02日 00時02分12秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 今日と明日お知らせする国連ニュースなどは、日本の大マスコミ外信ニュースだけ見ている人には、到底信じられないものではないか。「国連の嫌われ者・米」というニュースを、第二回に続いてあと二つご紹介したい。一つは、ベネズエラ、今一つは中国のウイグル問題に関連する、国連採択である。

【 ベネズエラ問題で、アメリカ不信を示した国連総会   文科系
2019年10月19日 13時01分12秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 17日国連総会の全加盟国投票によって、人権理事会理事国47国のうち14か国の選出が行われた。全加盟国193の秘密投票、過半数賛成で選ばれるものだから、大国の目や利害関係を気にせずにその国の自主的な判断に従っておこなわれた投票だが、現下の情勢柄注目すべき結果となって、国連,世界の大きな話題になっている。

 中南米理事枠2か国に対して3か国が立候補したのだが、ブラジルとベネズエラが選ばれ、コスタリカが落選したのである。それぞれの得票数は153、105、96票だったが、「ベネズエラの人権問題が許せない」として立候補したコスタリカが落選したことが、国連で大きな話題になったのである。ちなみに、コスタリカを押して猛烈なロビー活動を展開したアメリカの権威失墜というこの結果について、アメリカ代表はこう述べたのだそうだ。
『人権理事会が破綻している揺るがぬ証拠だ』

 このベネズエラとアメリカの問題を長年注視してここにも情勢を書き続けてきた僕から観れば、人権理事会が破綻しているのではなく、アメリカの国際民主主義的感覚、外交の良心が破綻しているのである。ちょうど、国連必死の制止を振り切って「『大量破壊兵器』という嘘の理由」で開戦したイラク戦争に各国を引っ張り込んだように。このイラク戦争によって世界に今どれだけの被害、悲劇が巻き起こったことであったか! 中東に深い傷跡や恨みを残し、イスラム国を台頭させ、シリアにまで戦線を拡大した上に、世界に大量の難民をばらまいてしまった。

 天網恢々疎にして漏らさず。ベネズエラ問題でも、あえて言うが「双方の正邪」を世界はあんがいよく観ているのだろう。イラク戦争や、シリア問題、そして今現在の世界緊急課題シリアのクルド人問題のように。 】

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イラク戦争と、米の退廃(4)「原油=ドル」死守の足掻き  文科系

2020年07月01日 06時40分17秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 大国の興亡に関わって20世紀以降世界史のなかで標記のことを見てみると、今のアメリカの足掻きが特によく分かるのである。21世紀におけるこの悪足掻きの実態は、以下のようなものである。


① 第二次大戦までの世界一大国・大英帝国は、世界の半分をはるかに超えていたその植民地を黙って明け渡した。18世紀末から発展してきた民主主義や民族自決権の潮流を受け入れたのである。イギリスがこう振る舞えた理由は、こういうことだろう。世界大恐慌からの「逃れ道」として第二次世界大戦に踏み切ってしまった日独と人類との大破綻からこそ、学んだのである。
② 第二次大戦後長く続いた冷戦時代にソ連は自ら終止符を打った。ゴルバチョフがアメリカに降参と手を上げて、覇権争いから平和裏に降りた。この歴史的場面においても、ソ連自らが闘った独ソ戦の地獄の思い出と、歴史の教訓とが強烈に残っていたに違いないのである。

 さてそれでは今の米中冷戦はどうなるか。アメリカのノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンがこんなことを言い始めたこの時に。

『アメリカの製造業を支えてきた中間層が経済・社会的な大変動に見舞われることに気付かなかった。中国との競争でアメリカの労働者が被る深刻な痛手を過小評価していた』

 ちなみに、アメリカの経団連ビジネス・ラウンド・テーブルが去年の8月にこういう「反省」を内外に表明したというのも、クルーグマンと同じ主旨のはずなのだ。重大すぎる「反省」なのであるが。

『米主要企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は19日、株主の利益を最優先する従来の方針を見直し、従業員や顧客、地域社会など全ての利害関係者の利益を尊重する新たな行動指針を発表した。これまで米経済界は「株主利益の最大化」を標榜してきたが、大きな転換点となる』(中日新聞記事から抜粋)

 

 アメリカの大国意識、筋肉質プライドからは、平和裏の交代はなかなかあり難いだろう。年間80兆円の軍事費を維持する力などもうとうていなくなったのにである。国家累積赤字は既に、そのGDPの4倍を優に超えていて、これは日本の2倍の借金財政である。中国に工業を奪われたと認めているその経済は、すでに回復の見込みもなくなった。
 アメリカは一体どうするのだろう。日本で無能な安倍が選ばれたように、アメリカでは政治など何も分からず、ただ再選を目指す以外には何もまともには考えていず、安倍よりももっと愚かなトランプである。今の「民主主義国」は金のある者がマスコミを握り、政権も取りがちだから、選挙はただ衆愚政治になっている。これはちょうど、ヒトラーと東條とが、国家指導者に躍り出てきたその時のようなものだろう。

 イラク戦争は、こんなアメリカの国際収支の虎の子「世界原油独占価格体制・これをドルで支払うドル基軸世界体制」を乱し始めたフセインを見せしめとして殺すために起こしたものだ。リビア・カダフィ殺害も同じ事で、彼は石油収入を国民に還元してアフリカ一豊かな国民を背景として、アフリカ統一通貨を作ろうと動いてきたのであった。これが「ドル基軸世界体制」死守を図るアメリカの怒りを買ったのである。そして今、ベネズエラ、イランに対してアメリカが革命輸出まがいの行動を執拗に計りつづけてきたのも、同じ理由からだ。これらの何よりの証拠がこれ。原油埋蔵量世界1位がベネズエラで、4,5位がイラン、イラク。リビアも世界9位の国であって、いずれも米ドル・原油支配に反発し始めた国だった。これらの国が原油を正当な値段で安く売れば、アメリカ国際収支の希望の星、シェールガスの価格は、まだまだ到底採算が取れないのである。

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