Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

博士論文 進駐軍クラブから歌謡曲へ

2006-08-15 11:58:02 | 読書
東谷 護 「進駐軍クラブから歌謡曲へ―戦後日本ポピュラー音楽の黎明期」みすず書房(2005).

大学の図書館はずっと休館だが,市立図書館はまじめに開館していた.なんだか堅い本と思って借りたのだが,あとがきによれば京都大学大学院人間環境学研究科に2004年に提出された博士論文がもとになっているとのことである.じつはこの京大の研究科にはプラズマ物理の講座もある.

敗戦後進駐軍に娯楽を提供した日本人楽士たちの経験が今日の大衆音楽につながっている.この伝説を学術的な立場から論じようとしたもの.amazonのこの本のCMには,原信夫、穐吉敏子、宮間利之、小野満、ジョージ川口、渡辺貞夫、堀威夫,雪村いづみ、江利チエミ、ペギー葉山、松尾和子,小坂一也,渡辺美佐・晋夫妻などの名が出ているが,こうした有名人のゴシップを期待するとはずれる.この本はもっとマジメなのだ.当時の仕事の獲得法,報酬,労働時間,環境,管理体制,さらには進駐軍クラブの見取り図など,具体的なデータがおもしろい.

「聞き書き」も心に残る.敗戦で毎日吹いていた楽器を失った軍楽隊員は,唇が痙攣したという.こうした人達には渡りに船の職場だった.彼らは一般人には想像できない贅沢ができたが,いっぽうそのことに引け目も感じ,座席の確保が困難だった時代に,巡業のための進駐軍専用列車ではすぐさまブラインドを下ろしたりしたそうだ.駐留軍兵士はみなノー天気というのが通り相場だが,終戦直後の彼らはみな日本人におびえていた,彼らの体臭に死臭を感じたというもとクラブ従業員もいる.

具体的な記述はいちいち面白いのだが,それだけでは博士論文にはならない.そこで考察が加えられるのだが,この部分はいまいち.とくにアメリカ音楽と歌謡曲との関連はいま三くらい.本書では楽士が歌謡曲の伴奏に転向したことくらいしか分からない.戦後の歌謡曲に用いられたブルース音階などにも言及して欲しかったし,その後全然アメリカ的でない「演歌」が台頭したのはなぜか...なども識りたいところ.社会学としてはおもしろいが,音楽学としてはどうもね.
コメント (3)
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