Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

四次元温泉日記

2016-02-29 08:54:54 | 読書
宮田 珠己,ちくま文庫(2015/1).

この表紙カバーのデザインではケバい紫の使い方に目を奪われてしまう.しかし本文を読んでからなら,階段が右に傾いていることに目が行く.
斜面を這い上がるように建増しに建増しを重ねた温泉旅館 (中には安政年間からというのも...) では,とんでもないところに階段があり,廊下は広くなったり狭くなったりしながら,鋭角・鈍角に折れ曲がり,たやすく迷子になって自分の部屋に戻れない.その自分の部屋も不等辺四角形だったり.この本は,タイトル中の「四次元」の文字も示しているように,こうした迷路建築がテーマである.

著者の文章は面白いが,図面は下手くそで,各章に挿入されたイメージ図 (旅館の平面図) はさっぱりわからない.まあ四次元を二次元のペーパー上に再現するのが不可能なのは解るけれど.
ピントが合っているのにボケた感じがする写真は悪くない.

著者は子どものときから風呂嫌いで,「わざわざ服を脱いだのに,あがってからまた着るのが,強制労働キャンプ的な徒労感が漂う」というところに激しく共感した.それもあって「いくぶん自嘲的な気分で書きすすめていたこの温泉紀行だった」,しかし「出来上がってみると,少々枯れた具合が,今の自分にぴったり」だそうだ.

別府温泉の「地獄蒸し」で自炊ができる「貸間旅館」が面白そう.露天風呂の底に落ち葉が溜まってチクチクするとか,サルと混浴してサルのウンチを見つけてしまうところとかが印象に残る.

旅館の名前はアルファベットの頭文字だが,ネットでたやすく同定できそう.ちなみに表紙カバーは伊豆長岡 N 荘こと南山荘.
古書で購入.でも単行本刊行もまだ 2011 年なので,大部分の建築はまだ残存していると期待する.
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チップス先生,さようなら

2016-02-28 08:55:27 | 読書
ジェイムズ ヒルトン, 白石 朗 訳 (2016/1).

高校時代,授業で先生が何箇所か抜き出して紹介してくれた.ちっとも面白くなかったという記憶にもかかわらず,新潮文庫から新訳が出ていたのを見たら,手が出てしまった.
菊池重三郎訳「チップス先生さようなら」にはその昔あんちょことしてお世話になった.同じ新潮文庫なのに,この新訳の解説 (杉江松恋) で旧・菊池訳に深く言及しないのは,いかがなものであろうか.菊池訳の刊行は原作の約20年後で,同時代とは行かないまでも,当時の空気は伝えていたはずだ.

原題のコンマに忠実に,「先生」と「さようなら」の間に新訳では読点が入った.

Amazon の内容(「BOOK」データベースより)*****
霧深い夕暮れ、煖炉の前に座って回想にふけるチップス先生の胸に、ブルックフィールド校での六十余年の楽しい思い出が去来する―。腕白だが礼儀正しい学生たちとの愉快な毎日、美しく聡明だった亡き妻、大戦当時の緊迫した明け暮れ…。厳格な反面、ユーモアに満ちた英国人気質の愛すべき老教師と、イギリスの代表的なパブリック・スクールの生活を描いて絶賛された不朽の名作。*****

やり手の若い新任校長と喧嘩する場面がある.この校長の言うところは,現代日本の文科省の文系学科廃止論を思わせる.若くて聡明な妻のおかげで学校の人気ものになる.この妻と生まれたばかりの赤ん坊は死んでしまう.しかしこのあたりの記述はさらりとしていて,総じてチップス先生の楽しい回顧録である.
16 トンなどは,思い出すのは思い出したくないことばかりである.もっと齢を重ねれば悟りの境地に達し (ボケもまじって) 楽しい思い出ばかり...ということになるのだろうか.

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でべらと春キャベツのサラダ

2016-02-27 07:59:00 | エトセト等


デベラカレイというが,分類上はヒラメらしい.干物は尾道の街頭ばかりでなく,当地のスーパーでも見かける.

でべらは炙ってすりこぎで叩いて身をほぐしてちぎる.
キャベツはちぎって塩で揉んで,しばらくおく.この後ざっと洗う.
キャベツ・でべらを少量の油 (ゴマ油でもオリーブ油でも...) で和える.

写真で見るとまずそうだが,意外にいける.

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異類婚姻譚

2016-02-26 09:03:42 | 読書
本谷 有希子の芥川賞受賞作.図の単行本には3作が収録されているそうだが,実は文藝春秋上で表題の受賞作を読んだだけ.

Amazon 内容(「BOOK」データベースより)から,表題作に関連する部分だけを抜き出すと*****
子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。「夫婦」という形式への違和を軽妙洒脱に描いた... *****

「異類婚姻譚」は,鶴の恩返しみたいに,ヒトがヒト以外の生物と結婚生活をおくる話と理解しているが,最後の 1.5 ページまでそういう気配はない.
そこに至る以前に「私」の顔が「旦那」と似てくるのは,異類婚姻譚とは違うような気もするし,反面 異類婚姻譚であるための布石のようにも思える.この小説とは関係ないが,十年二十年と同じものを食べていれば,身体の化学的組成はほとんど同じになるはずだから,外見はさておき中身は似るだろう.
「旦那」という (代) 名詞 ? は,若い女性には違和感がないらしい.この旦那はかなり気色悪いが.「私」はさしてそれを気にしない.配偶者のすることなど,多寡が知れていると見くびる感じ方は,よくわかる.

というわけで,「譚」的ラストはかなり唐突.そこまでの展開がかなりリアルなので,「旦那」不在後,警察に届けなくていいんだろうか,とか,「私」の生活費はどうなるんだろう,とか,つまらぬことが気になってしまう.

もうひとつの受賞作「死んでいない者」に比べ話題性はある.
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異モードへの引越し,移旋 !

2016-02-25 09:02:22 | 新音律


Caro mio ben をいろいろなモードで演奏するサイトを初訪問.
実は似たようなことを企てたことがあるのだが,これは弦楽五重奏で,楽譜も完備.脱帽です !!

後編は
http://youtu.be/HoVjQ9RrN8I

でも,何でカロ・ミオ・ベンなんだろう.

粗雑な解説 : ドレミファ...とドを先頭に並べれば長調で,ラシドレ...と並べれば短調.ではレやミから始めればどうなるかというデモンストレーションです.
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もったいなくない

2016-02-24 09:21:32 | エトセト等


アマゾンから届いたプリンターのインクと,そのダンボール.
インクの箱は 12 x 10.5 x 7 cm^3,ダンボールは 24 x 31 x 17 cm^3 で,容積はインク箱 14 個分強... そんなこと,気にしないのがアメリカ的.
理由があるのかもしれないが.
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死んでいない者

2016-02-23 10:54:54 | 読書
第154回芥川賞受賞作.
この,猪熊弦一郎をカバーにした単行本ではなく,文藝春秋3月号で読んだ.

Amazonにある単行本の内容紹介*****
秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。
子ども、孫、ひ孫たち30人あまり。
一人ひとりが死に思いをめぐらせ、互いを思い、家族の記憶が広がってゆく。
生の断片が重なり合って永遠の時間がたちがある奇跡の一夜。*****

最後の一行は誇大広告.
登場人物が多すぎて混乱する.ミステリーなら彼らの関係を示す系図がつくところだが,そういうサービスをしない,あるいは勝手に混乱しろと言うところが芥川賞に値するのだろう.
結局記憶に残るのは,最後に近く水の中に寝そべる知花ちゃんとか,数人で温泉に入る場面とか,要するに「小説的」な場面である.
「死んでいない者」ってどういう意味だろうか.死んでこの世にいない者? まだ死んでいなくい (これから死ぬ) 者?

月刊誌では芥川賞の選評が読める.島田雅彦の「自分の葬式の一部始終を観察できる人は現実にはいないはずだが,それを小説で試みたら,このようになると思う」と,山田詠美「それにしても未成年がこんなに酒飲んで良いの? 私に言われたかないだろうけど」に共感した.ちなみに島田の文章のタイトルは「悪政下の文学」である.

16トンも子供の頃はこうした大家族の一員だったのだが,そこからスピンアウトしてしまった.
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太宰治の辞書

2016-02-22 08:37:04 | 読書
北村 薫,新潮社 (2015/3).

このシリーズの最初の一冊は1989年刊行で,当時著者は「覆面作家」だった.内容から,女性に違いないなどと,ネットで噂された.
シリーズ全体が一種の成長小説だが,これは 19 年ぶり,「私」は結婚し,中学生の息子がいる.でも彼女の家庭はあまりのぞけない.

カバーは高野文子さん.出版社が変わってもシリーズ共通に「私」が同じポーズで登場し,しかも成長し...というか,年を取っていく.

関係ないけど,イソジンのカバさんを使わせないとかいうごたごたはいただけない.



この「太宰治の辞書」には,正ちゃん・円紫さんも,いちおう登場する.「笑点」の落語家たちと円紫さんのギャップはどうだろう !

内容は三島由紀夫と太宰治の小説談義.盛大に原作を引用している.ミステリではない.
「私」は女盛りのはず (そういう感じはしないが...).いっぽう著者は一足先に老境に差し掛かったようだ.現在の著者の興味は,もはや日常の謎ミステリにはない,ということだろう.
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広島大学 修了・卒業制作 / 東広島美術館「生活を彩る陶-食の器-」

2016-02-21 08:33:11 | お絵かき


修了・卒業制作展のポスターはこちら.

終了も卒業も大半が女子学生.会場には論文のエッセンスらしいものもポスターで展示されていた.ただしわれわれが見た学内展は終了.学外展は広島県立美術館 地階 県民ギャラリー,2/23-28.

J 子は油彩画作家にインタビューしていた.

写真のクマちゃんだが,もうちょっと耳が前についているのが僕の好み.

シロトの作品は下手なのでプロの作品でないことが一目でわかる.学生の作品はうまいのだけれど,良い悪いは別として,やっぱりプロの作品とは違うと感じられるところが面白い.



東広島美術館・現代の造形-Life&Art-「生活を彩る陶-食の器-」にはしご.

ポスター右下は淺野 陽の大皿.この分野の先達らしいが,この方の作品群に比べると,他の現代作家のものは「乱暴力」不足で,正直に言ってつまらなく感じられた.
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絶対音感神話: 科学で解き明かすほんとうの姿

2016-02-20 09:59:08 | 新音律
宮崎 謙一,化学同人 (2014/7).

著者は新潟大学人文学部教授.専門は認知心理学と聴覚心理学.

Wikipedia によれば,「絶対音感(perfect pitch)とは、ある音(純音および楽音)を単独に聞いたときに,その音の高さ(音高)を記憶に基づいて絶対的に認識する能力である.狭義には,音高感と音名との対応付けが強く,ある楽音を聞いたときに即座に音名・階名表記で表現できる能力である」.
この本の対象は狭義の絶対音感である.音楽を学習する以前の乳幼児,あるいは民族音楽主流の地域の人々など,オクターブを12分割する西洋音楽以外の環境は蚊帳の外なのが残念.
著者は絶対音感は音楽とは無関係とする立場.音当て名人が優位に立てるのは音大入試の調音テストどまりだという.さらに読み進むうちに「絶対音感はある種の文明病」という気分にさえさせられる.

とても興味深いデータが満載.

仮性絶対音感というものがあって,これの持ち主は C とか A とか,特定の音高を記憶している.カラオケ愛好者は好きな歌ならいつも決まったピッチで歌えるというのを思い出す.何か音を与えられてドレミ...のどれかと聞かれると,覚えている音からたどって答えることができる.しかし時間がかかる.これに対して真性絶対音感の持ち主は瞬時に鸚鵡返しに回答するのだそうだ.

絶対音感の持ち主の相対音感が執拗に調べられている.例えば2つの音の音程を聞くとき,第1音を C としたときと比べ,第1音を F# のような変な音にすると,絶対音感者の正答率は極端に悪くなる.これらが示すのは,絶対音感を持たない人より相対音感は悪いという結果である.これを聞くと,絶対音感があるとジャズなどできないということになってしまう.

これは「固定ド」教育の弊害ということもできそうだ.
この本によれば絶対音感を持つ日本人は,絶対音感を持つ欧米人に比べると相対音感が悪いらしい.

以下は 16 トンの妄想.
固定ドすなわち固定階名ではなく,固定 C すなわち固定音名ならいいのでは,これが固定 C なら,Am と Cm, Dm, Em は同じ構造ということが理解しやすい.絶対音感をうまく使いこなせれば,ジャズにも役立つはず.
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