Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

太宰治「おさん」

2024-11-18 12:58:01 | 読書

また青空朗読で太宰治「おさん」.

どうしようもない夫と健気な妻の組み合わせは「ヴィヨンの妻」と同じ.おさんの名は,浄瑠璃「心中天の網島」の貞淑な妻から,らしい.
この夫は妻と3人の子どもを残し,どこかの女と心中する.

1947(昭和22)年10月号「改造」に発表.太宰の玉川上水での情死は翌 1948 年6月13日.情死は予定の行動だった?

小説のラスト(妻の一人称)を引用すると
*****気の持ち方を、軽くくるりと変えるのが真の革命で、それさえ出来たら、何のむずかしい問題もない筈です。自分の妻に対する気持一つ変える事が出来ず、革命の十字架もすさまじいと、三人の子供を連れて、夫の死骸を引取りに諏訪へ行く汽車の中で、悲しみとか怒りとかいう思いよりも、あきれかえった馬鹿々々しさに身悶みもだえしました。*****

本文中で「革命」を示唆するのは,ラジオから流れるラ・マルセイエーズを聞いてダメ夫が涙する場面.でも,妻も読者もなんのことか解らない.

とにかく自己を客観視し,妻の眼をとおしてクールに自己自身の卑怯ぶりを描いているのは確かだが,ここまで解っているのになぜ?

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太宰治「ヴィヨンの妻」

2024-11-17 16:44:46 | 読書

有名作品を青空朗読で初読,ではなく,初聴.

梗概*****
大谷は外で飲み歩き何日も家に帰らないことが多く借金を重ね、その妻である「私」と幼い子供に貧乏暮らしをさせていた。
彼は入り浸っている小料理屋の金を勝手に持ち出す.「私」は小料理屋で働くことになり,大谷は店に顔を出し続ける.そして私は次第に幸せを感じるようになる。
*****

大谷の正体が,一応の詩人・文筆家らしいことを読者は,大谷が書いた文章を掲載した電車広告を「私」が見ることで知る.文章のテーマは15世紀のフランスの詩人フランソワ・ヴィヨン.
ヴィヨンが犯罪的放蕩詩人という点で大谷と共通する.そこで作者は大谷の妻のことを「ヴィヨンの妻」に喩え,タイトルとしたらしい.

意外に明るい結末でほっとした.
ぼくの時代すでに「走れメロス」は教科書に出ていた.太宰とはああいう作風と摺り込まれたと思う.「ああいう作風」と大きく離れてはいないと思った.

カットは新潮社公式文豪グッズのひとつだそうだ.550 円!

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江戸川乱歩「一人の芭蕉の問題」「一人二役」

2024-11-17 11:25:24 | 読書

また青空朗読より,江戸川乱歩の2作.

「一人の芭蕉の問題」は 1947 年の評論.1935 年ごろの甲賀三郎と木々高太郎との探偵小説芸術論争とやらがまくらにされている (この論争はぼくにはよく解らない).
この「…芭蕉…」では乱歩は次のように言う.

*****私は一應普通文學と探偵小説とを分けて考へてゐる。人生の機微に觸れんとする時には探偵小説に之を求めないで、普通文學に親しむ。探偵小説に求むる所のものは普通文學に求め得ない所のものである。これを假りに謎と論理の興味と名づける。探偵小説に求むる所は謎と論理の興味であつて、人生の諸相そのものではない。探偵小説にも人生がなくてはならない。しかしそれは謎と論理の興味を妨げない範圍に於てゞある。*****

ここでは芭蕉は最後のページに登場する.芭蕉がその業績で俳諧を文学と認めさせたように,誰か優れた探偵小説家が出て、探偵小説を文学と認知させてくれ!ということ.
今では書店でのミステリの存在感は俳句をはるかに凌駕しているが,これは乱歩の期待に沿ったものだろうか?


さて「一人二役」は 1925 年の乱歩の小説.後年はもっぱらエログロ変格小説と少年探偵団の乱歩だがこの頃は「2銭銅貨」などの,歴史に残る本格物を次々と書いていた.
妻との生活に飽きた放蕩高等遊民 T は,別な男Sとして妻の前に現れ,ついには T を社会的に抹殺し S として妻と幸福な新生活を始める.男は妻を騙しおおせたと信じているが,妻は実は最初からお見通しだったというストーリー.

T は一度も妻と同衾したことがなかった? 小説の前提ではそうではない.さすれば別人として妻を騙しおおせることなど不可能に決まっているから,結末は意外でもなんでもない.独身男の考えること?もしかしたら乱歩は執筆時独身だった?調べたら既婚だった.
あるいは,当時の読者は礼儀?として書かれたことをそのまま受け入れたのだろうか?

ぼくはこの小説は謎と論理の探偵小説としては大愚作と思う.でも普通小説の素材と見たらどうだろう.T の視点からは S すなわち自分自身に対する嫉妬など,おもしろく書かれている.妻の視点から見たら,馬鹿みたいな夫にどこまで付き合うか,どこで知っていると勘付かせるか…人生の機微に触れることばかりのはずである.「妻と夫はお釈迦さまと悟空のようなもの」で,あっさり終わりはもったいない.
でもこの素材で普通小説を書くことは,乱歩にはできなかったのだな!

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陰翳礼讃

2024-11-13 12:42:33 | 読書

病室の友,青空朗読.試しに長いのもと思って,2時間強の谷崎潤一郎「陰翳礼讃」.何度も寝落ちしては聴き返した.

この作家は苦手で小説もほとんど読んだことがない.「陰翳…」も聴く前には,小説か評論かエッセイか,知らないつもりだったが,聴き出したら聞いたことがあることばかりと思ってしまった.あちこちで原文が引用されてるせいだろう.
でも,達意の文章で,聴いただけでよくわかった.リズムがよく,確かに朗読向き!

和洋の比較例としてトイレと浴室が優先して取り上げられる.でもトイレという言葉は,当然だが使われない.西洋式腰掛便器はもちろん蚊帳の外.しかし陶磁器(プラスチック)と肉体に囲まれた陰空間で動作するウオッシュレットは,執筆が現代だったら礼賛の対象になりそう!

 

もう一編.太宰治「メリイクリスマス」が収穫だった.戦争をはさんで再会した母娘,と思ったら,母は広島空襲で亡くなっていた.原爆という字が出てこないところが太宰らしい? それとも 1947 年という発表の時点では,広島 イコール 原爆 という短絡が今ほど一般的ではなかった?

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青空朗読

2024-11-09 19:47:17 | 読書

青空文庫は著作権の切れた作品(2018年までは作者の死後50年、現在は死後70年が経過した作品)を収集し,それらを電子書籍としてネットで公開するサービスである校正や編集はボランティアによって担われている.

仰臥位で読書もままならないとき,朗読は強い味方.青空朗読は青空文庫の朗読を提供するサイト.プロのアナウンサーによる社会貢献活動としてスタート.最近は朗読を学ぶ一般も作品(録音?)を提供している.

昨日は

伊丹万作「我が妻の記」著者は伊丹十三の父.J 子と一緒に聴いた.

久生十蘭「黄泉から」戦時中フランスで過ごした男と,彼を慕っていたがニューギニアで命を落とした従姉妹.いかにも男に都合のいいストーリー.でもニューギニアの雪のシーンやラストなど,上手い!

野村胡堂「銭形平次捕物控 江戸阿保宮」金持ちが江戸中から美女を拐かしてハーレムを作るはなし.もっとスケールが大きいはなしにできたのに…

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いよいよ長期戦

2024-11-07 17:50:00 | 読書
イレウスで入院したが,8度台の熱が引かない.イレウスにしてはおかしいと,コロナやインフルエンザを疑ったがどちらも陰性.造影CTの結果,結論は肺炎.救急車で搬送中嘔吐した吐瀉物が気道から肺へ入った可能性を指摘された.言うなれば誤嚥性肺炎だそうだ.

肺炎が引き起こした炎症の指標は血液中の CRP で 0.3 mg/dl 以下が標準.隔日測定で,30 - 19  - 21 と,異常に高い値が2回目からは横這い.肺炎は時間がかかるから,覚悟しなさいと言われる.

これは入院1週間の最初の食事.真っ黒に見えるのは多分ほうれん草のベチャベチャ煮.白いのは芋のクタクタ煮.どちらも意外にからくて豆腐に絡めた.
美味しゅうございました!
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俳句 銀座百点より

2024-10-31 20:17:38 | 読書

銀座百点 2024 年 11 月号 銀座俳句 高橋睦郎 選 秀逸の第 2 句

 敗戦日あつあつ飯に生玉子 北区 大友盛男

高橋さん曰く「飢えを生き抜いた原点を忘れず,令和不況の今日を乗り越えたいものです,ね」.
NHK 朗読の世界.吉本ばなな「キッチン」の後は,夏目漱石の「坊ちゃん」 (1906) である.ラスト近く,坊ちゃんが野だいこの顔面に生卵を数個叩きつける場面がある.この小説を初めて読んだのは中学時代.1950 年代初頭,敗戦から数年であった.真っ先に感じたのは「卵がもったいない !!」だった.でも小説自体は面白かった.
それだけです.

 

銀座俳句の次のベージは百点対談.石田 千 (ゲスト) x 嵐山光三郎 (ホスト).石田さんは東海大学文化社会学部文芸創作学科の教授だそうで,学生による俳句を披露.

 高橋や佐藤と鈴木とキャンプ行く
 夏近しあしたも洗濯乾くかな

嵐山 : うーん... でも,どちらもいい句ですね (笑).
石田 : 記憶には残りますよね.

嵐山さんの「一句作ってみて,2分で作れちゃうでしょ」に応えた石田さん

 白焼の串目やさしき竹葉亭

竹葉亭本店にて,でした.

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ゴキブリ・マイウェイ

2024-10-30 20:34:21 | 読書

大崎遥花「ゴキブリ・マイウェイ この生物に秘められし謎を追う」山と渓谷社 (2023/12) .

アイドルみたいな著者名と不思議なブックデザイン,それと出版社に釣られて,図書館で手にとり,そのまま借り出した.
対象が台所でお目にかかるお馴染みの種類ではないことには,ちょっとがっかりしたが,読み始めたらやめられなかった.以下の出版社の「商品詳細」と「内容」に,ぼくが追記することはあまりない.

 

*****「クチキゴキブリのメスとオスは、互いの翅を食い合うらしい」
類を見ない不思議な現象に惹かれた著者が、採集・飼育・繁殖方法など、わからないことだらけのこの生物に秘められた謎を体当たりで追いかける。
沖縄・やんばるでの採集、トライ&エラーの飼育、予算がない中でのDIYな実験、そして翅の食い合いの意義とは -- 行動生態学の基本と最前線をわかりやすく解説します。
また、そもそも研究とは何のために行うのか、学会を活用するには? 論文はどうやって書かれているのか、といった一般読者は知らないけれど興味深い研究の現場、研究世界の歩き方についても語ります。

本文に収録した超細密で美しいイラストは、著者による作画。研究対象である生き物と、それに生涯をささげる研究者、研究という営みの魅力が詰まった一冊です。


内容 第1章/やんばるの地に降り立つ 第2章/謎の行動、翅の食い合い 第3章/三度の飯より研究 第4章/クチキゴキブリ採集記 第5章/実験セットを構築せよ! 第6章/戦場でありフェス、それが学会 第7章/翅は本当に食われているのか? 第8章/論文、それは我らの生きた証 第9章/ゴキブリの不可思議 第10章/研究者という生き物*****

 

学会・論文といった研究生活を物理系と比較するとおもしろい.物理系では卒業論文・修士論文などに学術的な期待はないし,学生が学会に行っても聴く一方のことが多い.誤解を恐れずに言えば,この分野には量子論・相対論のような基礎は必要がないので,情熱があれば誰でも活躍できそうだ.萩野恭子さんに感じたのと似た羨望を感じた.

「生態学会 (の集まり) はモンベルが正装」だそうだ.ヤマケイとの関連はこのあたりにあるのかな?

トップ画像右は著者による点描画で,上になった個体が下の翅を食べ始めたところ.食べられる方の個体も気持ち良さそうにしている,そうだ.実験装置のイラストも楽しい.物理実験装置はガムテープとアルミフォイルで出来ていたりする.似たようなものだと感じた.

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おもしろそうな本だけど...

2024-10-28 20:58:45 | 読書

読書週間だそうだ.
定年したら本を読んで暮らすのだ,と思っていたが,実際に定年したら資力も視力も衰えてしまった.新聞を見ると,日に数冊は面白そうな本がある.
個人経営の書店がかくれたブームらしい.自分が本屋になって,採算を気にしなくていいとしたら (尚且つ読まなくてもいいとしたら),どんな本を仕入れるか...
10/26(土)の朝日新聞 (この地方では朝刊のみ) から拾ってみると,

第1面最下段は本の広告の指定席.上の画像は右端のふたつだが,青土社では「ロボット倫理学」が気にかかる.現代の図書なら「AI 倫理学」と言った方が通りがいいと思うが,ロボットと具体化するのはなぜだろう.学術書かな ?  SF や漫画は相手にされているのだろうか.カレル・チヤペックは ?  鉄腕アトムの倫理は ?  訳者の名前がないのはなぜ ?
青土社本は高いが,みすず本の定価はその倍くらいする.ぼくの興味は,イタリア発ベストセラーだという「カテリーナの微笑」.

土曜日は読書欄が全部で3面強.政治姿勢は別として,朝日新聞の文化面は充実していると思う.この日は「ケストナーの戦争日記 1941-1945」をとりあげている.1945 年の分は文庫化されていて,昨年 12 月にこのプログに書いた

「不思議な絵をさがせ」の書評は「横尾忠則さんによるアート作品です」と断わり書きがあり,鏡文字で印刷されていた.当ブログの画像では作品を非アート化してみた.スマホの画面でこれを拡大すれば読めるかどうか,自信はない.本としては,ぼくが好む方向ではある.
他には「わたしのくつしたはどこ」と「ナースの卯月に視えるもの」が気になった.前者は「お話としかけが視覚障がいについての理解を助ける絵本」だそうだ.後者は文庫本,買ってもいいかな.

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ふたり展でプチ・コンサート

2024-10-26 08:48:04 | 読書

下岸 御夫妻のふたり展でプチ・コンサートの予定.

イレウスを発症しないように,今からお粥と離乳食にしようか...でもそれでは体力が低下して演奏ができないか...

このフライヤーのイラストは5月に AI で作ったものの使い回し.5ヶ月経ったので AI 君もお利口になったことだろう,別な絵を...と交渉したが,相手は無愛想になっていて,無料では細かい注文は相手にしてくれなくなっていた.注文が殺到しているのだろう.

じつはヒトサマの絵を利用したフライヤーも作ったのだが,ネットに公開するのは憚られる.自分で描けばいいのだが,そんな暇があるならヴァイブを練習した方がいいかも.

バンドの名称 : 前回はキラキラ食堂で演奏したので,キラキラトリオとしたが,ちょっと恥ずかしいかな.新名称のひとつの案はイラストの連想から "Three Old Kittens 歳とった3匹の子猫".下の動画,マザーグースの Three Little Kittens をひねったつもり.Three Blind Mice (そういうジャズレーベルがあった) の歌詞は気色悪いがこちらはそうでもない.でも最後はネズミの臭いで終わるのね...

10/28(日)追記 バンド名は Three Aged Kittens になりました.

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