Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

火山のふもとで

2025-02-20 10:17:10 | 読書
新潮文庫 (2025/1).

Amazon の紹介*****
大事なことは、聞き逃してしまうほど平凡な言葉で語られる――
日本語の美しさを限界まで引き出した、鮮烈なデビュー作が待望の文庫化!

ぼくが入社した村井設計事務所は、ひと夏の間、北浅間にある「夏の家」へ移動する。そこでは稀有な感性をもつ先生のもと、国立現代図書館の設計コンペに向けての作業が行われていた。もの静かだけれど情熱的な先生の下で働く喜びと、胸に秘めた恋。そして大詰めに迫った中で訪れる劇的な結末。ただ夏が過ぎても物語は終わらなかった。かけがえのない記憶と生命の瞬きを綴る鮮烈なデビュー作。
*****

著者は1958年東京生まれ.学生時代に文学界新人賞に応募した作品が活字になるが,新潮社に編集者として就職し休筆.その後 2012 本作を発表.
この文庫版は絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられている...とのこと.この経緯は著者の「文庫本へのあとがき」に書いてある.「「先生」と表記される存在と吉村順三氏は異なっている」という断り書きもある.
青栗村は北軽井沢,棚坂軽便鉄道は草軽軽便鉄道,そして野宮春枝は野上弥生子 ?

作品は「教養小説」とでも言うべきか.建築に関する記述は特に力が入っている.16 トンの我が家も「建築家」に設計してもらったので,なるほどと思われる部分もしきり.図面を挿入してほしいところもあるが,そうはいかないのでしょう.
スウェーデンの建築家グンナール・アストルンド 1885-1940 設計の「森の火葬場」銘板の言葉の引用があった.当初の「今日はあなた,明日はわたし」が「今日はわたし,明日はあなた」に入れ替えられたとか.

建築場面ばかりでなく,家具などの什器,火山 = 浅間山,野鳥その他の動植物という自然から料理の記述まで,蘊蓄の連続である.こうしたことをうざったいと感じる読者には不向き.

語り手「ぼく」は若い女性は名前で呼び捨て,それ以外は名字を「さん」付けで書く.彼が積極的ではないが,後ろ向きではないのに好感.Amazon のレビューには「いつまでも読んでいたい」という賛辞.
ストーリーは途中でなんとなく見当がつく.ばらして価値が下がる作品ではないが....

カバー装画 牡丹靖佳.
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乃井探偵社は今日も倫理観ゼロ

2025-02-15 15:30:17 | 読書
安萬純一「乃井探偵社は今日も倫理観ゼロ」論創社 (論創ノベルス 2024/6)
ひさびさにエンタメ小説を図書館で借用.
この出版社の翻訳ミステリはよく読むが,オリジナルは初めて.このシリーズは 2022 発足とのこと.
カバーは冒頭に現れる競技パルクールのイメージ写真.

Amazon の紹介*****鮎川哲也賞受賞作家の最新作! 「警察より先に犯人を探して」 ――娘を殺された母から乃井探偵社に依頼が入る。 高額な成功報酬と引き換えに女探偵3人は危険な調査を引き受ける。 探偵の真下初音には無謀な依頼を成し遂げたい理由があった。 報酬代わりに所長の乃井冬子から自分の出自を聞くのだ。 事情を察する滝上ゆかり。3人の周囲に出没する公安刑事。 すべての謎が絡み合うとき、初音に命の危機が訪れる――。 スリルとサスペンスに満ちた連続殺人、その衝撃のラスト!*****

「倫理観ゼロ」を標榜し,確かに捜査のためなら警官を脅したり法律に違反したりはするが,想定の範囲.アンチヒーロー (ならぬアンチヒロイン) というほどではない.
女3人の探偵社のいちばん歳下 初音が事実上のヒロイン.運動神経抜群で格闘技の天才.彼女の出生の秘密と生い立ちが,メインの無差別殺人 ? の犯人探しにからむ.犯人の動機がもっともらしい.
一気読みしてしまった.
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不吉な港

2025-02-13 09:13:58 | 読書
結城信一「不吉な港」新潮社 (1983/10)
結城信一 1916-1984 による,銅版画家 駒井哲郎 1920-1976 をモデルとした小説.トップ画像の下半分は本書にも登場する
ロオトレアモン,青柳瑞穂訳「マルドロオルの歌」木馬社(1952)
中の,駒井による銅版画.
この場合の青柳瑞穂のように,駒井以外の人物は岡鹿之助をはじめ,ほとんど実名で登場しているらしく,1940-50 年代の画壇を垣間見ることができる.

裏帯の文章*****
エヴァ・マリアとは神が 仕組んだ出逢いなのです。 日本人の心に戦争の傷手が薄らいだ頃、新進画家 は巴里へ旅立った。彼はその街で恋の虜になる。 帰国後、彼女からの愛の 手紙は固く封じられて、 友に預けられたーーーー。 数々の国際賞を受賞して〈銅版画の詩人〉と講わ れた画家の、愛に揺れる心と制作への苦悩。酒におぼれ、デカダンスに陥 ってゆく青春を、時代を共有した作者が、自らの軌跡を重ねて、その肖像を生々と彫り上げる*****

上記は最後の 1/4 ほどの梗概にすぎない.たしかに小説も,主人公は愛に敗れ酒におぼれデカダンスに陥っておしまいという転落譚に読める.
駒井の帰国は 1956 で,しかしその後は 1959 日本版画協会賞,ブリヂストン美術館賞を受賞.後には東京藝術大学講師で教鞭をとった.著者が駒井の死後数年を経た時点で,若い頃の交友を描いたと言うところだろう. 後記には亡友への鎮魂歌とある.

古書を購入.贅沢ではないがシックな造本.装何 山下清澄.

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ご冗談でしょう、ファインマンさん

2025-02-12 11:06:18 | 読書
R. P. ファインマン, 大貫 昌子 訳「ご冗談でしょう、ファインマンさん 上」岩波書店 (岩波現代文庫 2025/1)

カバーの紹介*****常識なんてなんのその。物理に、ボンゴに、金庫やぶり、時には夜遊びも……。好奇心のおもむくまま、気の向くまま、どんなことでも本気で愉しむ。それがファインマン流の生き方。稀代のノーベル賞学者がユーモアたっぷりに語る、冒険譚のような痛快自叙伝。ベスト/ロングセラーを読みやすい文字に改版する。解説=橋本幸士*****

単行本は 1986.勤めていた高エネルギー研で話題になったが,敢えて ? 読まなかった.文庫入りは 2000.41 刷まで数えたところで今回の改版.
物理屋の必読書みたいに言うのは間違いだが,おもしろかった.「好奇心のおもむくまま,気の向くま,どんなことでも本気で愉しむ」ヒトはたくさんいると思うが,ノーベル章をもらうヒトは他にいないと言うことだろう.

夜遊び・ガールハントなどは詳しく書いてあるが,配偶者との馴れ初めなどは省略.
手紙の検閲,徴兵のための身体検査など,同時代の日本の違いを思い知らされる.
原爆実験でロスアラモスが湧きかえっていたとき,ひとりボブ・ウィルソンが「とんでもないものを造っちまった」とふさぎこんだそうだ.

プリンストン高騰科学研究所の偉大な頭脳の大家達を,なんの義務もなく林の中のきれいな建物にゆったりすわっていればいい気の毒な連中と言っている.実際の活動やチャレンジがなければ,何のアイデアも浮かんでこない.このとき一種の罪悪感やめいった気持ちがじわじわとしのびこんでくる... こうした感情は,偉大でない頭脳の持ち主が定年後,きたない建物にすわっていても湧いてくるものだ.でも多くの場合,同じようなタイミングで体調が悪くなり,それがうまい具合に死につながるのかもしれない.

今のところ読んだのは上巻だけだが,解説 (橋本幸士) が下巻の予告も兼ねている.16 とんは自分を物理屋と思っていないので,これを純正物理屋のひとりの感想と思って読んだ.
下巻では,日本人の物理屋と話したけれど意味がなかったとか言っているらしい.
橋下さんの SNS はおもしろい.

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Mac を断捨離?

2025-02-11 11:30:00 | 読書
Facebook より Mac へ, アカウントが信頼性に関するコミュニティ規定に違反しているから一時停止,180日以内に異議申し立てしろときたもんだ.
FB は Mac と,iPhone - iPad の2箇所で使ってきたが,先週 Mac 上で動かなくなったので,入れ直した.その際入れたメアドが iPhone 系と違ったことが原因らしい.
異議申し立て受付には,セルフィー動画で本人確認が必要だそうだが,Mac mini にはカメラがない.iPhone を外付けカメラとしてみたが,うまく固定できない… 面倒くさい!

実は FB を最初に設定したときのメアドは古くなっている.異議申し立てが通った後もごたごたしそうだ.

Mac で FB が使えなくても iPhone 系で使えればいいのではないか?
そもそも Mathematica のライセンスは切れたままだし,Tex もこれからは使いそうもない.Mac (と言うより PC と言うもの) の存在感は薄れつつある.

この際 Mac を断捨離の方向に舵を切ろうか⁉︎
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いわしバターを自分で

2025-02-08 10:51:51 | 読書
改めて,昨日カバーを紹介した
平松洋子「イワシバターを自分で」文藝春秋 (文春文庫 2022/3)
について.図書館で借用.

見返しに 文春文庫 平松洋子の本 のリスト.「いわしバター...」刊行時に 11 冊で,就中9冊が「xxx を yyy で」というタイトル.挿画は本書の下田昌克で3代目.上の「たわしと私」の絵がなかなか良い.
本書は5部構成.初出 週刊文春とある.
今も連載中だろうか.毎週書くのはたいへんだろうな.ネタを求めていたら,エンゲル係数が上がってしまうだろうな....
II だけが「コロナ禍の日々」というサブタイトル付きの日記調だが,とくに社会を見る目で書かれている.他でも無関係なエッセイの最後にやっと食にまつわることが出てくるケースが散見される.

V では「xxx を yyy で」の yyy に青森,伊東,谷川岳などの地名があてはまる.「とんかつ茶づけを新宿で」を読んで作りたくなった.他に,ほや飯,蘇 (日本版チーズ) にも興味津々.クッキングパパのパセリカレーにはあまり食指が動かない.
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オイルサーディン

2025-02-06 17:03:18 | 読書
平松洋子「イワシバターを自分で」文藝春秋 (文春文庫 2022/3)

この本については後日.ここは表紙の鰯オイルサーディンの缶詰からの連想である.

大学に入ってワンダーフォーゲル部に入った.無線旅行の類をやるつもりだったら,甘かった.大学によるとは思うが,ここはガチの体育系であった.
一日中 キスリングと称する横長のザック (このごろ全く見かけない !) を背負って,山を歩いて,テントに泊まる.このとき,頭と足を交互にして,
   頭..........足
   足..........頭
   頭..........足
   .....
という要領で,つまりサーディン缶のように,1畳に 4-5 人の密度で寝るのだった.特に合宿ではテントそのものの数が少なかったせいもあるかもしれない.でも当時のテントは雨で濡れたりすると重量倍増で,パーティで複数張り持ち歩きたくない代物であった.


今考えると,ワンゲルは明らかに自分向きではなかったが,いつでもやめられると思っているうちに最後まで在籍することになった.先輩・4先生を頂点とするヒエラルキーも,大学にいる間だけと思えばそれなりに面白かった.

同じ学科(原子力工学)の同級生とは大学紛争 (闘争?) の挙句 気まずくなり,いまだに辛うじて付き合いがあるのはワンゲルの友達である.

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ひよこ太陽

2025-02-04 17:08:26 | 読書
田中慎弥「ひよこ太陽」新潮社 (2019/5)

Amazon より
*****道理で女が出てゆくわけだ――。妄想に取り憑かれた作家の姿を描く新しい私小説。今日も死ななかった。あの帽子を見たために、今日も死なずにすんだ――。一緒に住んでいた女に出ていかれ、切り詰めた生活でひたすら小説を書く40代の男。書けない日々が続き、いつしか死への誘惑に取り憑かれた男に、ある日人探しの依頼が届くが……。虚実のあわいで佇む作家の日常を描く連作小説集。芥川賞作家の新境地作。*****

図書館で借用.2012 年の芥川賞作は途中でギブアップしたか,この作品は泉鏡花賞作というので読む気になった.
7篇からなる短編集と思って読み始めたが,同じ人物が繰り返し登場するので連作とわかった.
最初の 1-2 作は読みやすかったが,次第に泉鏡花っぽく,というよりやはり田中慎弥っぽくなる.

辛うじて生活できるレベルの作家が語り手なのが,なんだか胡散臭い.
「茹で卵を潰してマヨネーズと胡椒で和えたやつを,焼いたパンの上に塗って昼食」
「ビールとウイスキーと日本酒と焼酎は買い物かごに入れる.重みで,私は生きている実感を,別になくしていたわけでもないだろうが,取り戻した気分になる」
といった,本筋とは関係のない文章に頷いてしまう.
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クレア・キーガン「ほんのささやかなこと」

2025-01-29 11:11:23 | 読書
クレア・キーガン, 鴻巣 友季子 訳「ほんのささやかなこと」早川書房 (2024/10).

図書館で借用.いつも造本が良くてなるべく新しいのを,内容の予備知識なしに借りている.
扉をめくると献辞,もう一枚めくるとアイルランド共和国宣言抜粋.これらの意味するところは全7章のうちの第3章まではわからない.

献辞の対象は,アイルランドの母子収容施設と <マグダレン洗濯所> で苦難の時を過ごした女性と子供たち.この洗濯所は政府・教会と癒着して女性虐待を行なっていた.この作品では,この事態に立ち向かおうと決心する中年男が主人公.やや不幸な生い立ちだが,平凡な結婚をして5人の娘にめぐまれて,ささやかな石炭販売店を営んでいる.彼の決心がどんな悲劇をもたらすか...と思わせるところで,おしまい.
ストーリーを追うよりも,主人公の出自,日常生活,心の動き などの記述に重点がある.彼の不安とともに描かれる,幸せそうな一家のクリスマスイヴの場面が良い.
大きな活字で,A5 150 ページ.ノヴェラ (中編) というものらしい.ジョージ・オーウェル政治文学賞受賞作.長編小説の伝統が強いイギリスでノヴェラが評価されることは珍しいそうだ.

ほんのささやかなこと 原題 Small Things Like These の意味がいまいち ぼくにはわからない.
装画は原本と共通.
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夜に猫が身をひそめるところ-ミルリトン探偵局

2025-01-27 10:03:22 | 読書
吉田 音, 吉田 篤弘 (イラスト)「夜に猫が身をひそめるところ - ミルリトン探偵局」中央公論新社 (中公文庫 2025/1).

出版社の惹句*****青い16個のボタン、曲がった釘、漏斗、小さな赤い本……
黒猫シンクが持ち帰る“おみやげ”から、猫だけが行ける場所について推理する〈ミルリトン探偵局〉。
謎解きのルールは、解けそうな謎でも決して解かないこと。
人と人、時間と場所のすき間をくぐり抜け、猫がひもとく物語。

作家・吉田篤弘が別名義で著した幻のデビュー作を大幅改稿。
描き下ろしイラストと新規解説を新たに付す。*****

こうした一連の作品を「かまとと文学」と言いたい.遺憾ながら,ぼくのツボにはまる部分がある.ぼくと似たような固定ファンが知るのだろう.文庫のカバーもいい.
ついでながらクラフト・エヴィング商會も好きだ.

この「夜に猫が...」発表の経緯は「新規解説」に詳しい.もともとの設定は,「クラフトエヴィング商会」を主催する吉田夫妻の娘,13 才の女の子が書いたことになっているが,執筆は 2000 年頃,著者 38 才あたりのことらしい.
続編が出るらしいが,もういいかな.
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