今田氏がこの本の執筆を依頼されたのは 10 年以上前だったとのこと.
ジュニア新書は中高生向きと言う先入観があった.しかし原子力利用は現在の中高生が生まれる前に,彼らの先祖が決めたことであり,核のごみ問題はそのつけである.この本はおとなが読むべき本だろう.
目次*****
序 章 核のごみ問題とは?―高レベル放射性廃棄物の処分をめぐって
第1章 海外の取り組みから学ぶ―日本固有の事情を考えるために
第2章 地層処分の科学技術的な根拠はあるのか
第3章 国民的理解を得るにはどうすればよいか―原子力委員会からの審議依頼
第4章 行き詰まりを打開する具体策はあるのか―12の政策提言
第5章 少人数の討論によって理解を深める―Web 上の討論実験
第6章 受益圏と受苦圏の分離がもたらす不公正問題
第7章 リスクをどう受け止めるか―不確実性のもとでの意思決定
終 章 社会の叡智が問われている―エネルギー問題の将来を見据えて*****
原発は「トイレなきマンション」といわれるが,原発の敷地には「肥溜め」とも言うべきプールがあり,そこで使用済み燃料を冷却している.トップ画像右は昨年6月の時点でのその占有率で,いずれ満杯になる.じゅうぶん冷却した使用済み燃料はガラス固化体に加工して地層処分することになっているが,処分する場所が決まっていない.このガラス固化体 1t の放射能レベルがウラン鉱石レベル (1000GBq/鉱石750t) にまで減少するのは 10 万年後である.
「第3次世界大戦がいかなる兵器による戦いになるかは分かりませんが,第4次世界大戦は棍棒と石での戦いということになるでしょう」とアインシュタインが言ったそうだ.棍棒と石の時代に先祖帰りするかどうかは別として,未来の人類が「核のごみ」にどう対処するか,われわれには想像できないし責任も持てない.
とにかく原発への賛否は別として,核のごみはすでに存在し,増え続けている.この問題への対処をまじめに考えたのがこの本で,第3章の「審議依頼」の依頼先は,菅・岸田政権に目の敵にされている日本学術会議である.その回答が第4章の提言である.市民がこの問題に意見を述べるには,それに先立って勉強し議論すべきである.それを実践した第5章は本書でも読み応えのある部分である.
まともに考えれば肥溜めが満杯になってしまったら原発を止めるしかないわけで,特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定案が閣議決定された.この改訂案に対する抗議声明を原子力資料情報室が出している.「地域の分断を拡大・加速化させかねないきわめて無責任な内容だ」と言っているが,何が問題かは本書第6章に説明されている.
本書執筆陣の出身を見ると,文学部 (今田,聚楽),社会学部 (中澤) であって,理工系出身者ではない.16 トンも含め,理工系出身者はこういう社会的・政治的な問題は苦手かも.