今は昔の 1960 年代に,NHK に「シャープさんフラットさん」というクイズ番組があった.
しかしその話題ではない.
やはり今は昔,小学校の音楽で,♯は半音上げる,♭は半音下げると教わったとき,それならふたつも記号は要らない,♯・♭のどちらかひとつあればこと足りるのではないかと思った.
ピアノではC♯とD♭は同じ鍵,同じ音である.しかし始めからそうだったわけではない.
ピタゴラス流に 5 度ずつ上げていくと (周波数を 1.5 倍していくと) G,D,A, ..., B, F#, C#, 等の音たちが現れ,5 度ずつ下げていくと (周波数を 1.5 で割っていくと) F♭,B♭,E♭,A♭, 等の音たちが現れる.下のように描くと,二方向に無限に続く螺旋となる. F# と G♭, C# と D♭,G# と A♭ などの対音の高さは近いとは言え,異なる.
平均律では 1.5 倍の代わりに 1.49831...倍する.こうすると螺旋は閉じて円になる.F# と G♭, C# と D♭,G# と A♭ などの対音の高さは一致し,異名同音となる.このように,平均律で「音」を表す限り,♯・♭はどちらかひとつあればこと足りる.
しかし♯・♭を臨時記号ではなく,調号を表す記号と考えると話が変わってくる.
上の図に現れている調性の中では,
♭五つのD♭ (変ニ長調) と#七つのC# (嬰ハ長調),
♭♯それぞれ六つずつのG♭ (変ト長調) とF# (嬰へ長調),
♭七つのC♭ (変ハ長調) と♯五つのB (嬰ロ長調),
は,実はそれぞれ同じである.
しかし,一番簡単なヘ長調を♯だけで表わそうとすると,
F G A(#なし) A# C D E (F)
となり A にすべて♯をつければいいというわけにいかない.逆にト長調を♭だけで表そうとすると
G(♭なし) A B C D E F G♭ G(♭なし)
となり,G にフラットをつけたりつけなかったりしなければならない (♯なし♭なしはナチュラル (本位) 記号を使うべきところだが,ウェブではうまくいかなかった...).
やはり♯・♭の二つがそろっていた方が便利なのだ.
これは楽譜がドレミファ... (ラシドレ...すなわた短調でもいいのだが)を前提としていて,そのために線と線間の音程が半音だったり全音だったりすることに原因がある.
もっと合理的 ? な楽譜を提案されたかたもおられる.特に現代音楽では
いまの楽譜の書き方には不満がつのる.しかしそうなると,キーボードの白鍵と黒鍵の配置にも文句をつけたくなりそう.
たぶん文化というものには♯・♭のような冗長性も必要なんだろう.