Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

プリンセス・トヨトミ

2010-10-31 09:37:58 | 読書
万城目学の「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」に続く作品.なんだかんだ言ってこの三作は全部読んでいる.
もっとも,あるレベル以上の話題作を図書館で借りて読むのは,出版からある程度月日が経たないと難しい.これも文芸春秋からの初版は 2009 年 3 月であった.

*****このことは誰も知らない。五月末日の木曜日、午後四時のことである。大阪が全停止した。長く閉ざされた扉を開ける“鍵”となったのは、東京から来た会計検査院の三人の調査官と、大阪の商店街に生まれ育った二人の少年少女だった―。前代未聞、驚天動地のエンターテインメント、始動。*****

上記の帯 CM では何も分からない.そこで以下にねたばらし.

日本の中に大阪国という独立国がある.この国の王女がトヨトミ家の末裔.しかし日本国天皇と違って,この王女は自分が王女であることを知らない (この設定が良い).このことは長く大阪に住んでいるものには公然の秘密である.この大阪国が年間 5 億の日本国の国家予算を使っている.ここに会計検査院の手が伸びる.

悪玉側の組織としては,会計検査院より仕分け人のほうが適切と思うが,この小説が書かれた時点では,仕分けは今ほど話題になっていなかったのだ.光陰矢の如し.

大阪の商店街に生まれ育った二人の少年少女は橋場茶子と真田大輔,会計検査院側のリーダーの名が松平...というしかけにも,しばらく読み進んでから気がついた.蜂須賀とか,長宗我部とか,ちょい役にも意味ありげな名前.旭・ゲーンズブールという才媛の苗字の横文字を訳すと,やはり徳川ゆかりの名前とかんけいするのだろうか.
真田少年は女子になりたがって,セーラー服で登校していじめにあうあたり,本筋とは関係なくて,何なの? という感じがしないでもない.

かなり強引なストーリーだが,読み出したら ほかにやるべきことがあるのに止められず.期末試験の時期になると (ミステリではなく) 探偵小説を読み出した高校時代を思い出してしまった.
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アンナ・マグダレーナ・バッハ「バッハの思い出」

2010-10-29 10:35:10 | 読書
山下肇訳 講談社学術文庫 (1997).

アンナ・マグダレーナは大バッハの二度目の奥さん.恥ずかしながら,ぼくはアンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳の やさしいメヌエットから判断して,このひとはバッハの娘だと勝手に思い込んでいた.15 歳年下なので,娘みたいな感じもあったとは思うが.
Wikipedia によれば,この本は1925 年の初版が匿名で発表されたので,この奥さん著と誤解されたが,書かれたのはアンナ・マグダレーナの死後である.

日本で翻訳が出たのは 1950 年で,訳者は当時は大学教養学部のドイツ語の先生だった.この方のお名前を記憶しているところを見ると,あるいは教わったのかもしれないが,ろくに勉強しなかったのでそこは覚えていない.
山下先生がアンナ・マグダレーナ本人の著作であるとしたのがけしからん...という人もいるらしいが,あとがきを読めば,訳者のこの問題に対する真摯な姿勢は解るはず.

でも出版者は,著者あとがきのほかに 音楽史を専門とする人のあとがきを加え,著者も改変しなくちゃいけないな.奥付を見たら 2003 年で 8 刷.けっこう売れているのに,講談社の怠慢 !

「...なのでございます」という調子の日本語訳は,終戦間もない時代,と言うより古き良き昭和の時代を思わせる.というより,18 世紀・バッハの時代も跳び越え,源氏物語の現代語訳みたい.バッハが彼女をひざの上に抱えて鍵盤に向かうラブラブ場面など,いかにも当事者の口から出ているように生々しく,作者の筆力はなかなかなもの.

いっそフォントも戦前のものを使い,やぼったいカバーは銅板画にかえたらいかが.

キルンベルガーだの,ゴールドベルクだのという,聞き覚えのある人物も,当然のことながら続々登場.
雇い主との軋轢.たくさん子供を作っても次々に死んだり,大きくなったら非行に走るのがいたり,バッハ家も火の車だったんだな.マグダレーナの晩年は子供たちとも行き来がなくなったようで,このあたりは現代的.

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もろこし銀侠伝

2010-10-27 08:02:10 | 読書
秋梨 惟高 創元推理文庫 (2010/09).

カバーデザインからして中身が面白いだろう,と 新幹線車中で読むべく購入.

大学を退職して残念なことのひとつは,学生が買ってくる少年ジャンプの類いを研究室で拾い読みできなくなったこと,と 思い当たった.この本の内容が,バトル漫画を思わせるものがあったため.
中国武侠小説というジャンルらしいが,ありがたいことに,本格ミステリの味付けもされている.登場人物がみな漢字の名前で分かりにくく,はて誰だっけ とページをめくり返すあたりは,欧米のミステリを読むのと似ている.

嘘かまことか 判断できない史実らしきもの.年齢何百年とかいう登場人物.一瞬に三人を倒すトンデモ武術...
得体が知れないなりに一貫している記述が好きなので,面白く読んだ.

短編 3 つと中編ひとつ.やはり最後の中編が充実している.自分が水滸伝に詳しければ もっと面白かったかも.
カバーデザインのように,最初の短編ではおじいさんと女の子がホームズ役とワトソン役で,これがなかなか良いのだが,残念ながらこのコンビはこれだけ.著者もこの点をあとがきで謝罪している.
この 2 編では,ミステリのトリックも,こうしたシチュエーションだからこそ成り立つものであった.
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学童保育所でジャズ

2010-10-25 08:26:19 | ジャズ
先週のことだが,ジャズ研 OB 氏が「主任」をつとめる学童保育所で,学生さん達とジャズをやった.
vo,vln,vib,kb,b,ds という編成.
「ドレミのうた」「Cute」「崖の上のポニョ」「線路はつづくよどこまでも」「星に願いを」.
最後に主任氏が登場し,「On a slow boat to China」. スキャットを交えた英語の唄に,子ども達はあっけにとられた様子だった.氏への認識が改たまったものと思われる.

ひとしきり演奏した後で,紙コップ,ストロー,割り箸,ポリ容器,輪ゴム等 手近なものを使った楽器作り教室.



ライブで使われた楽器を試すのも,写真のように人気であった.

会場の保育所はもと焼き肉屋で,このように内側から「びばーちぇ」と内側から貼ってある.
この,「びばーちぇ」を紹介した中国新聞の記事がアッブされていました.
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協和音を荒っぽく説明すれば...

2010-10-23 08:53:36 | 新音律
拙著「音律と音階の科学」などは,二つの楽音の協和を,不協和曲線に基づいて説明している.
二つの単音(単一周波数の音)の音高が一致すれば違和感がないが,少し離れると違和感が増し,十分離れれば違和感が消える...という前提から出発し,楽音の周波数スペクトルのデータを使ってごちゃごちゃ計算すると,完全4度,完全5度,長3度,長6度などが協和することが導かれる.

もっと仮定を単純化すると,「音高が一致するふたつの単音以外は,聴いて違和感がある」ということになる.逆に言えば,どこかで同じ音が鳴っていれば,高さが違う音を同時に鳴らしても親しみを感じる.
例えば,楽音のドと楽音のソが協和するのは,楽音ドにミが含まれているからだ.



この図はピアノでドレミファソラシドを弾いたときのソノグラム = 周波数スペクトルの時間変化を表示するもの.横軸が時間,縦軸が周波数.左端を上下方向に見ると,ドというキーを押し下げたとき,266Hzがいちばん低い周波数成分として出ている.これがドの音である.しかし,その他に,2倍波すなわち2x266Hz,3倍波すなわち3x266Hz,4倍波すなわち4x266Hz...が上方向にずらずらと並んでいる.

その隣の縦列はレの周波数スペクトルで,やや大きい間隔で縦に並ぶ.その右はミだが,間隔はもっと広がる.

ドの各周波数成分の位置を横方向の点線で示してある.
これで見ると,ドの下から5番目とミの下から4番目は 縦方向に同じ位置にある.ここを赤丸で囲む.
隣の,ファの3番目はドの4番目と同じ位置にある.ここも赤丸で囲む.
おっと,ファの6番目もドの8番目と同じ位置にある.ここも赤丸で囲む.
エトセトラ.

要するに,レ,ミ,ファ,ソ...のうち赤丸の数が多い音ほど,ドと同時に弾いたときの響きが良い,すなわち協和度が高いことになる.
もっと詳しく言うと,赤丸の位置が低いほど協和する.
この図では,ドと協和する音を順位づけると,オクターブ上のドがいちばん良く,ソ,ファと続き,ミとラが同列となる.

このようにうまいこと赤丸が描けるのは,じつはミ,ファ,ソ,ラの最低音の,ドの最低音にたいする周波数比が単純だからである.平均律ではじつはずれているのだが,ご覧のようにスペクトルにも幅があるので誤摩化される.
しかし12音平均律で音階を作るからうまく赤丸が描けるのであって,例えば16音平均律などでは赤丸はひとつも描けない.

もともとの周波数音の他に,その2倍波,3倍波,4倍波,...が生じるのは,ピアノだけでなく,多くの管楽器・弦楽器の音に共通している.2倍波3倍波4倍波...がないと音楽の音としてはつまらない.ただし,打楽器の音にはまた別な規則性があり,ガムランのような音楽には,この説明は通用しない.

長文失礼いたしました.
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100 円雨傘 -> 五月三十五日

2010-10-21 10:50:09 | エトセト等
大阪に来ている.
起きたら雨なので,通勤途中で100円雨傘を購入.大阪に来るたびに...というのは大げさだが,何本傘を買ったかわからない.

思い出すのは,エーリッヒ・ケストナーの「五月三十五日」.子供向きだが,ドイツらしからぬ能天気文学.おじさんと主人公の少年が,ローラースケートを履いた 人間語を話す馬ネグロ・カバロに一緒に南洋目指して旅に出て,途中「なまけものの国」「過去の国」「さかさの国」などで珍妙な体験を重ねる という内容.

なまけものの国では,住人は何もしなくて良い.結果として住人は男女問わずメタボ.
雨が降ると地面からにょきにょきと雨傘が生えてくる.この雨傘草は日光に当たるとしぼんでしまうのだ.

どこの怠け者が,このようなシステムを作る努力を払ったのか についても文中で触れてあった (ように思う).

ケストナーの本にはたいていワルター・トリヤーという人が挿絵を描いていて,とても良い.
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バッハの無限カノン

2010-10-19 08:31:35 | 新音律
Bach's Neverending Canon


らせんカノンということもある.1単位8小節毎にキーが,全音ずつ上がって,6単位1周期という構成.
バッハの「音楽の捧げもの」のなかの「雑多なカノン」には,こういう変な曲がたくさん入っている.この前読んだ「反音楽史」によれば,捧げられたのが馬鹿殿様で,こうした仕掛けには全然興味を示さなかったらしい.

この YouTube は,シェパード・トーン(無限音階)を意識している.全音ずつ上がって行ったら,最後は1オクターブ上がるはずなのだが,そうはならず,ちゃんともとにもどる部分がある...ということを,ぼくは YouTube 画面の下の英文を読んで聞き直し,はじめて認識した.

平均律ではのっぺりしてしまうが,古典音律で演奏すれば,単位毎に微妙に表情が変化するのだろう.

とくに下の2声の演奏が難しそう.
キーが単位毎にCDE... と上がって行くのだが,ジャズではC(G)D(A)E...などして,つなぎをごまかすかな,と思って眺めたら,原曲もそうなっているようだ.
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のぼうの城

2010-10-17 17:42:42 | 読書
和田竜著 小学館文庫 上下 (2010.10).

2007 年単行のベストセラーの文庫化.映画化中.

秀吉が北条氏の小田原城を包囲したとき,その支城のひとつ忍城を石田三成が攻める.「のぼう」はでくのぼうの略で,城方の大将.城主と秀吉の間には北條を裏切るという密約があったのだが,のぼうはこれを無視し,決戦となる.三成の総攻撃に勝利し,水攻めも失敗させる.城は落ちないが,本家・小田原が落城してしまう.

史実だというが (史実にどの程度忠実かは不明),知らなかったな.

劇画的.ちゃんと女性も登場するし,おもしろい.
松田哲夫の解説にあるように,主人公はとらえどころのないキャラクターだが,その内面は一度も明らかにしない...という描き方だ.

カバーイラスト (オノ・ナツメ) は,書き文字とともに購買欲をそそる.しかしこの横顔は,上巻と下巻で別人らしいが,どちらも主人公のイメージからは遠いように思う.

こういう本はすぐ読める.速読術というのは,こういうものには不要だが,学術書にも有効なんだろうか.
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二紀展@国立新美術館

2010-10-15 21:09:54 | お絵かき
現場に来て,J 子の絵が,思っていたのと違うのがわかった.あちらは寒色系,こちらは暖色系.
応募のとき 2 点出すのが不文律で,入選するとしてもたいていどちらか 出来の良いほう.本人が出来が悪いと思ったほうが入選してしまった.世の中,そんなもんでしょう.

去年までは上段で,見上げなければならなかったが,ことしは下段に出世?



「コーラスライン B」拡大図.



J 子の先生の難波英子氏は女流画家奨励佐伯賞を受賞された.

ついでに「没後 120 年ゴッホ展」を見た.
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チューバはうたう - mit Tuba

2010-10-12 09:31:14 | 読書
瀬川 深,筑摩書房(2008/03).

図書館で借用.「チューバはうたう」の他二編.
表題作はシカラムータ・大熊ワタルに捧ぐ」とある.
ヒロイン現在 26 歳は中学時代に部活で,柄が大きいという理由でチューバを押し付けられてから,この楽器にのめり込んで行く.
よくある青春部活小説とは違うおとなの小説.ヒロインには世間的でいう恋人らしき男もいる.「おまえさぁ,チューバって,そんなに面白いの?」が,この男の投げかける痛切な疑問だ.ピアノ ギター フルート バイオリンなどのポピュラーな楽器ではなく,なぜチューバなのか,なぜオーケストラやブラスバンドに入らないのか,ヒロインのチューバに対する思い入れとこだわりが,ほとんど全編独白で語られ,それでいて読んだら離せない.
ストーリーは最後の1/3あたりで急展開し,感動のクライマックスもあるが,結末は不明.

ただし,楽器をやらない人がこの小説に共感するかどうかは疑問.

チューバ吹きは身近にいないが,ベーシストならけっこう知っている.音楽を下から支えるというだけでなく,ベーシストにはクラシックとかジャズとかいう境界を問題にしない人が多い.チューバとベースは近いものがあるようだ.

2007年第23回太宰治賞受賞作.

小説に出て来る,Muzucanti aurii の CD を探したが失敗.著者のブログによれば,このグループは Fanfare Ciocarlia その他をモデルとした創作とのこと.
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