Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ハーモニー派の衰退

2019-11-30 09:13:17 | 新音律

ハーモニーの不在」に関連して.日本人はハーモニーが苦手で,カラオケでハモることは想定外と言うけれど...

1950-60年代には,ダークダックス,デュークエイセス,ボニージャックスなど,コーラスグループが存在した.4人いたのでドミソを出してもまだ余裕だった.ぼくがハモることを認識させたのもこうしたグループの歌唱だった.

彼らはあちらの黒人霊歌やドゥワップの模倣から出発したが,日本語による日本人の歌を歌うことで,紅白にも進出した.しかし彼らのヒット曲は,ハーモニーが苦手な日本人に迎合すしたものが多かった.「山男の歌」も「おさななじみ」も,大部分は斉唱と,個々のメンバーによるリレー歌唱である.彼らの名誉のために加えると,リサイタルではちゃんとハモる曲も歌っていた...と思う.

芸能史に詳しいわけではないので,間違っているかもしれないが,斉唱+リレー歌唱の系譜は SMAP,嵐へ,また AKB48 などの大グループ歌唱へと繋がった.
ハモリ派には,タイムファイブ,ゴスペラーズ,男女混成のサーカスなどがあるが,衰退気味.
ソロ+バックコーラスという系譜もあり,Ink Spots 辺りが元祖かもしれない.マヒナスターズ,クールファイブ,東京ロマンチカ,ロスインディオス等々,日本では歌謡ムードコーラスとして人気が出たが,しかし,あまりハーモニー の妙味は感じられない.

正統ハモリ派・タイムファイブが結成五十年を越えたそうだ.


楽器の演奏となるとハーモニーと無縁ではいられない.ピアノを習い始めればすぐ両手で弾きたくなるが,その時がハーモニー開眼の時だろう.歌謡曲にもバックのオーケストラがちゃんとハーモニーをつけて,音楽らしくしている.
自分的には,ギターを始めて友達にいいとこを見せたいが為に覚えたコードがハーモニー実践につながった.義務教育の音楽の授業はお付き合いにすぎなかった.音楽も(美術も,たぶん文学なども)自発的に始めなければ意味がない...なんちゃって.
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イラストレーター 安西水丸

2019-11-29 09:09:01 | 新音律
奥田元宋・小由女美術館.ぼくは安西さんの仕事が好きだが,J子はどうだろう...と思ったが,ぼくよりずっと時間をかけて見ていた.

油彩画はあくまで実物を見てもらうのが前提で描かれるが,イラストは印刷で見られるのが前提だ.イラストレータとしては原画を見られるのが嬉しいことかどうかはわからない.しかし見る方には,油彩画の実物とはちがった面白さが発見できる.

安西さんの場合は,たいていは黒のペリカンインクで輪郭をとり,黒い部分は絵の上に黒のぱんトーンを貼る.スミ版ができたところに透明のアセテートをのせ.その上からカッターで切り抜いた色のパントーンを貼るという手順である.パントーンって色見本のことかと思っていた.この場合は彩色というもっと積極的な意味もあるのだ.
輪郭とちょっとずれて貼ったりするのは,故意? 偶然?
ぼくがCDケースに描く絵に使う分には,ダイソーで売っている透明折り紙を切り貼りすれば良さそう..

初めて見た「青の時代」はつげ義春みたい.平松洋子「ひさしぶりの海苔弁」文芸春秋の表紙の海苔の絵が黒く塗ってあるだけでほんとに小さかったので笑ってしまった.数枚の「二色」展出品作は,イラストではなく出品のために描いたのだろうか?

「あんな絵で商売になるのかよ」などと言う人もいるだろう.安西さんは,純粋の絵描きとしてではなく,イラストレータとしてちゃんと商売になったのだから,日本の文化のレベルは高い.

図録は「ぼくの仕事」「ぼくと3人の作家(嵐山光三郎・村上春樹・和田誠)」「ぼくの来た道」「ぼくのイラストレーション」の構成.展覧会もこれに準じていた.



ところで,安西さんに限らず,イラストレータさん一般に質問なんだけど...
上のは
   村上春樹・安西水丸「ランゲルハンス島の午後」新潮文庫(1986)
からの一枚.無音の世界.暖房のきいた部屋だが,なんだか寒いなぁと感じられて,好きな一枚だ.
本として見開きに印刷されると,原画はこのように「のど」で二分される宿命にある.描く人はそれを計算に入れているのだろうか,それが知りたい.
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ジャズの「ノリ」を科学する

2019-11-28 09:07:07 | ジャズ
井上裕章,アルテスパブリッシング (2019/11).

帯の惹句がこの本を的確に紹介している.
***** チャーリー・パーカー「後ノリ革命」の秘密をあざやかに解明!
「ノリ」の感覚を数値化・分析した画期的なジャズ研究! *****

フリーソフト Audacity を用いて,オーディオ波形にイコライザ処理を施す.低音域の抽出からベースの波形が,中音域の抽出からサックスの波形ができる.そこから,4分音符一拍に8分音符をふたつ入れる時,ベース音に対してソリストが出す音のタイミングを求めていく.

図では下の3行のどれかが楽譜どおりのタイミングだが,ホーン・プレイヤーはそうは吹かない.(Davis-cool 型につけた青字は 16 トンが書き入れたものだが) ひとつ目の8分音符は頭からの「遅れ値」を持つ.2つ目の音符との時間が「ハネ値」である.遅れ値とハネ値の和が裏拍値である.ふたつの音符の時間関係は図に示してある.また,(遅れ値,ハネ値,裏拍値)がプレイヤーず代表する「型」の後に書いてある.



このようにまとめる以前には膨大なデータがあり,それらを本書では横軸を遅れ値,縦軸をハネ値として散布図として示している.

本書の目次は
第1章 ジャズのリズムをヴィジュアル化してみる
第2章 パーカーの後ノリ革命──スウィングからビバップへ
第3章 レスター・ヤングからチャーリー・パーカーへ
第4章 ファッツ・ナヴァロとマイルス・デイヴィス──ビバップからクールへ
第5章 パーカーとヤングの遺産──ハード・バップへ
第6章 モダン・ジャズの巨匠たちの8分音符
第7章 ビハインド・ザ・ビートの巨匠──デクスター・ゴードンとエロール・ガーナー
第8章 ドラムスとベースの微妙な関係
全体の印象は,遅れとハネから見た演奏論である.

第1章でベースの時刻を基準としてタイミングを測ったことに多少抵抗を感じたが,第8章を読んで納得した.その前の第7章では,デクスター・ゴードンとエロル・ガーナーは,いろんな「ノリ」を使い分けていることが示される.

上の図は第5章からの引用.著者はコールマン・ホーキンスの「ノリ」をスイング時代の典型とし,チャーリー・パーカーの「後ノリ」レスター・ヤングの「裏ノリ」がジャズに大きな影響を与えたと説く.他に図に示されているのはファッツ・ナヴァロと「クールの誕生」時代のマイルズである.第6章に登場するのはロリンズ,モブレー,コルトレーンなどのホーン奏者が中心だが,チャーリー・クリスチャン,ウェス・モンゴメリなどのギター奏者もいる.

P値による検定が少しだけ記述されているが,むしろ散布図に縦横2方向のヒストグラムを付け加え,遅れ値とハネ値の標準偏差を計算し誤差棒として示したほうが良さそう.

自分の演奏も測定にかけてみたい...とは思ったが,すごく大変なことになりそう.それでも,遅れとハネに注意して聴いたり演ったりできるようになれば,本書のおかげだろう.
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ナマケネコ

2019-11-27 09:29:33 | お絵かき
ジャングルの珍新種ナマケネコ.
CDケースに内側からアクリル絵の具.
下がお手本にした純正ナマケモノ.猫は手足が短すぎて怠け者生活は不可能だな.
 

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あのころ、天皇は神だった

2019-11-26 09:24:07 | 読書
ジュリー・オオツカ, 小竹由美子 訳,フィルムアート社 (2018/9).

今頃になって,太平洋戦争中に在米の日本人が強制収容所に抑留されていたことが知られるようになった.ぼくが初めて痛切に認識したのはミリキタニの個展の時だったと思う.

この本では母と男女ふたりの小学生年齢のこどもが,抑留される.父親はその前に連行されている.普通の扱いなら,父親もふくめた一家揃っての抑留となるはずだが,何かあるらしい.

「強制退去命令十九号」「列車」「あのころ、天皇は神だった」「よその家の裏庭で」「告白」
の5章で構成される.長大な訳者あとがきは,移民の歴史から始め,著者のファミリー・ヒストリーに及ぶ.

「強制退去...」で母が,こどもたちが学校に行っている間に,愛犬を殺す場面でびっくりした.
収容所に犬を連れて行くことも,置いて行くこともできなかったのだ.
片目の視力を失い,歩くこともままならないシロに,おにぎりと卵と鮭を食べさせる.犬は女主人の求めならどんなことでもした.「死んだフリをしなさい」というと,横になって目を閉じたので,大きなシャベルの刃をはっしとばかりにいたの頭にうちおろした...
この本で血を見る場面はここだけ.この章は主として連行前日.

「列車」は連行中.「あのころ...」は収容所生活.
本の原題は When the Emperor was divine で,あとがきによれば,これを「あのころ,天皇は...」と訳したという.訳者も感じたことらしいが,この本では天皇信仰が大きな意味を持っているとは思えない.

日本で空襲の下を逃げ回ったことを考えれば,かろうじてにせよ,衣食足りた収容所は良かったんじゃないの,というのはぼくの世代が思うこと.「よその家の...」のよその家とは,戦後帰ってきた自分の家.そこの生活は針のむしろ.近所には戦争から帰ってこない男たち,帰って来ても負傷したり,拷問を経験していたり.母親には仕事がない.
戦争が終わった日本では,おおっぴらに電灯を点けて暮らせるのがとても嬉しかったが,この「よその家」では夜は明かりが漏れないようにひっそりとしていないと,レンガが投げ込まれたりする.

やっと帰ってきた一家の父親は廃人同様.最後の「告白」は一人称.この父親のように身に覚えがないままに逮捕・抑留・尋問・拷問された日系人たちのやけっぱちな自白? その内容は性犯罪・スパイ活動・テロ・武装蜂起...

この母子3人には名前がないのだが,読み終えるまでそれを意識しなかった.
同じ著者の「屋根裏の仏さま」も読んでみようか.
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ハーモニーの不在 「わらべうたは死なず」より

2019-11-25 08:43:32 | 新音律
この本「わらべうたは死なず」における小出氏の調査では,日本のわらべうたにハモっている例は皆無.こどもには自分のと違う高さの音が聞こえると,歌うのを躊躇する傾向がある.

丹羽謙次作詞作曲の「あの青い空のように」は交互に歌い出すところから始まり,フレーズの最後の音をのばして相手の音との重なりを作るように出来ている.しかしこどもたちは相手が歌い出すと自分は歌うのをやめてしまう.輪唱「かえるのうた」を歌うこどもたちは必死の形相で,相手の声が聞くまいと声を振り絞っているという.

 マーシャル諸島の日本人学校のこどもたちは,誰が教えたわけでもないのに,複数で歌うと必ずハモっていた,というのは小学校教諭小出さんの同僚の経験談.

小出氏は,日本人には和声の概念がない,と説く.入学式・卒業式では合唱を求めたがるが,これが斉唱だったら本能でできるから,練習時間も少なくて済むし,感情や思いもストレートに込められるだろう.

音楽教育者としても有名なコダーイは「誰もが自然な方法で育てられるべきであろう.ハンガリー音楽から国際的な音楽に至る道はやさしいことだが,その逆は困難であるか,またはあり得ない」と言っている.明治以降の我が国の音楽教育は洋楽の「ドレミ...」が出発点になっている*が,小出氏はこれは誤りであると主張する.この本には低学年のカリキュラムを日本民謡のテトラコルドから始める提案がなされている.

みわたせば,幼稚園・小学校低学年から英語教育を! という傾向があるが,これにもドレミ教育と同じ/あるいは似たような問題が感じられる.

* 拙著「音律と音階の科学」には,ハモることを重視すればドレミ..に到達することが記載されている.
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鰐淵の滝

2019-11-24 08:41:00 | エトセト等
東広島市福富町上戸野.西条からは375で福富ダムの手前左.公園になっていて,かってはここに茶店があったと記憶しているが,今では駐車場が無駄に広く感じられる.登った小山をまた回り込むように下ると,昼なお暗いなかに立派な滝が現れる.落差数メートル.水はきれいとは言えない.民家が点在する中にそこそこの滝があるのは,このあたりではよくあること.

15分も滞在すれば全貌を把握できる.公園はよく手入れされていて,東屋もある.

国道に沿って流れている造賀川が,この小山をまわって蛇行したついでに出来たような滝だが,駐車場の片隅に「わにぶちの滝の伝説」の看板がある.大蛇が夜な夜な娘に会いに来て,退治されてしまうといったストーリー.
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わらべうたは死なず

2019-11-23 08:04:44 | 新音律
小出英樹「わらべうたは死なず どっこい生きている日本人の音楽性-千葉県船橋市のわらべうた調査から」ブイツーソリューション発行・星雲社発売 (2018/11).

図書館で借りたが,購入して本棚に置くことにした.
著者の千葉県船橋市の小学校での1991年と2014年のわらべうたの調査に基づいた本.実は1961年の小泉文夫による先行研究があるのだが,この調査でわかったことは,時代や環境が変わっても,わらべうたが,戦後もこどもたちの中で脈々と生き続けていることであった.

現代の子供たちの歌は,日本の伝統的な音階 (民謡音階など) に従うものが87%に達するのに対し,学校音楽やテレビの影響下にあるはずの洋楽音階に従うものは13%にすぎない.

著者はこどもたちが覚えやすいメロディは日本語のイントネーションと裏表と考えているようだ.しかし,21世紀のこどもたちが,「ずいずいずっころばし」や「あぶくたったにーたった」をどうして覚えたか,というような社会科学的考察は希薄.

本書は第1部「分析・考察編」第2部「楽譜編」という構成.わらべうたには音高・リズムが頻繁に変化し,歌詞が加わったり省略されたりするが,第2部では約80曲が「比較総譜」という形でいろいろなバージョンが示されている.


最近の最大の変化はこどもの声が低くなったこと.例えば「そうだ村の村長さん」は1991年から2014年の間に長3度低くなっている.しかし小泉の調査と比べると,1961年と1991年とでは大きな違いはない.
服部公一「子どもの声が低くなる!-現代ニッポン音楽事情」 ちくま新書 (1999/12)
という本もあった.
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僕の呪文と抽象絵画

2019-11-22 09:21:40 | 新音律
津高和一・架空通信忌運営委員会,神戸新聞総合出版センター (2006/1).
古本屋の店頭で100円.その前は奥の棚に500円の値がついていた.

津高 和一 (1911-1995) は洋画家で詩人.海外での評価が高いらしい.阪神・淡路大震災で自宅が倒壊し,妻と共にはりの下敷きになって亡くなった.架空通信忌は津高を偲んで2003年から定期的に行われている催し.

わが心の自叙伝,わが自庭展,わが心の眼,の3章+資料.
「...自叙伝」は神戸新聞に連載されたもの.農家に養子に入ってぐれたり,詩人として同人誌を出したり,何度も徴兵されたり,と,若い頃が中心.成功して世の中に認められる経緯は端折ってある.結婚の話など何も書いてない.「めしを食べ,糞をたれる,ただそれだけの行為...」など,表現は文学的だが生々しく直裁で,絵が抽象なのと対象的.

自庭展は,自宅の200坪の庭と邸宅という生活空間を1週間くらい開放して行われたのだそうだ.「わが自庭展」は展覧会の芳名録に肉付けしたような文章.
「わが心の眼」は詩を交えた,エッセイのような美術論.

この画家の作品もこの本に収録されてはいるが,モノクロで小さい.本自体B6, 150ページのペーパーバックで,この内容ならハードカバー・部分カラー印刷が良かったのにと思う.下のは画家自身が「自分の造形らしいものを表現し始めた」と言う,1951年の「母子像」

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鼻持ちならぬバシントン

2019-11-21 09:22:15 | 新音律
サキの長編.花輪 涼子 訳,彩流社 (2019/7).

ぼくの場合,原文で米英の文学作品に触れたのはほとんど受験時代だけだった.

サキ Saki はO.ヘンリーと並ぶ短編作家だが,O.ヘンリーの作風がヒューマンなのに対し,サキはブラック・ユーモアを感じさせた.そのサキの2つある長編のひとつの翻訳.
巻頭に「これは道徳的な物語ではない」という著者からの注記があるが,不道徳な物語でもない.

ロンドンの社交界という縁のない舞台だが,訳者のあとがきにあるように,母子の情愛と男女の恋愛の機微という永遠のテーマを扱っている.主人公のバカぶりが自分の若い時と重なり,つい感情移入してしまった.これはサキの短編では経験しなかったことだ.

同じくらいの長さの17章構成で,エピソードの積み重ねみたい.やっぱり短編作家なのかもしれない.第8章の「おとぎの国を作ったものの,そこの住人になりきれなかった」話など,本筋とはなんの関係もないのだが,読み終わった後存在感が残る.

訳者はまた「一文がとにかく長い.一段落が長い」と言っているが,受験英語に最適かもしれない.ミステリなら適当に読み飛ばせば良いのだが,行きどどいた文章で,丁寧に読まなければもったいないと感じさせる.

原題は The Unbearable Bassington.「鼻持ちならない」はちょっと柔らかすぎで,直訳の「我慢がならない」の方が当たっているのではないかな.
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