《社説②・12.05》:基礎年金底上げ 負担増の議論 腰を据えて
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.05》:基礎年金底上げ 負担増の議論 腰を据えて
年明けの通常国会の焦点の一つとなる公的年金制度改革のメニューが出そろった。本丸は、基礎年金(国民年金)の給付水準の底上げである。
公的年金制度は2階建てになっている。1階部分が基礎年金で、20歳以上60歳未満の全ての人に加入義務がある。保険料は定額だ。
その上の2階部分が厚生年金で会社員らが加入する。保険料は報酬に比例し、労使が折半する。
国民年金は未納者のほか免除や猶予を受ける人も多い。財政は苦しく、将来給付水準が目減りしていくのは確実だ。自営業者やフリーランスなど老後に国民年金しか受け取れない人もいる。底上げは待ったなしの課題である。
厚生労働省が打ち出したのは、厚生年金の財源の一部を基礎年金に振り分ける案だ。
これは社会保険の枠組みを大きく崩す上、兆円単位の安定財源が必要になってくる。政府も国会も腰を据えて、負担増の議論と向き合わなくてはならない。
公的年金の原資は、現役世代の保険料と公費だ。少子高齢化で現役世代が減る一方、高齢者は増え給付の総額は膨らんでいる。このため物価や賃金に応じて給付を抑える「マクロ経済スライド」という仕組みが発動されている。
財政が堅調な厚生年金は、減額調整が2026年度に終わる。基礎年金では57年度まで続き、給付水準が3割目減りする。そこで厚生年金の積立金を基礎年金に回して終了時期を36年度に合わせる、というのが今回の案だ。
基礎年金は全ての国民が受け取るので、厚生年金受給者の大半も給付が手厚くなる―。厚労省はこう説明する。
しかし厚生年金の減額調整は、10年延びる。この間、給付の総額が増えるとしても、厚生年金の給付は抑制されることになる。
そもそも厚生年金と国民年金は歴史的な成り立ちが異なり、財政も別だ。会社員らの保険料で国民年金の目減りを穴埋めするのは、負担と給付のバランスを崩し、社会保険の趣旨をゆがめる。
公的医療保険でも、会社員らの保険料が高齢者医療に流用されてきた。現役世代に安易に負担を求めるやり方を続けてよいのか。
厚生年金の財源を振り向ける必要性と、その場合の負担と給付の見通しについて、まずは詳細な説明が求められる。
基礎年金の財源の半分は国庫だ。底上げに伴う追加負担分は、70年度には2・6兆円に上る。財源論の先送りは許されない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月05日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。