路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

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【ファクトチェック・ニッポン!・10.26】:テレ朝・玉川徹氏の“電通発言”は放送メディア研究の対象として極めて興味深い

2022-11-17 07:02:20 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・10.26】:テレ朝・玉川徹氏の“電通発言”は放送メディア研究の対象として極めて興味深い

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・10.26】:テレ朝・玉川徹氏の“電通発言”は放送メディア研究の対象として極めて興味深い

 10月19日のテレビ朝日の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」。玉川徹氏は「謹慎の10日間、私は事実確認の大切さ、テレビで発言することの責任の重さを考え続けました」と語り、取材した内容を伝える形で番組に出演すると自身の今後について説明した。

<picture>テレビ朝日社員の玉川徹氏(C)日刊ゲンダイ</picture>

  テレビ朝日社員の玉川徹氏(C)日刊ゲンダイ

 これで玉川氏が国葬をめぐって誤った発言をしたとして騒ぎとなった問題は区切りをつけた形となった。この問題では、「謹慎では甘い」と降板を求める側と、その必要はないと主張する側とで二分する騒ぎとなった。顕著だったのは、前者は国葬に賛成する人たち、後者は国葬に反対する人たちという二項対立が貫徹されたことだ。

 例えば、国葬に反対する人でも玉川氏の発言に批判的な人がいてもいいし、その逆があってもいいと思うが、そうした状況は目立たなかった。

 私にとっては、そうした是非論はともかく、玉川氏の発言自体はメディア研究として極めて興味深いものだ。問題になった玉川氏の発言は短いものではないが焦点になったのは、「僕は演出側の人間ですからね、テレビのディレクターをやってきましたから。それはそういうふうに作りますよ、当然ながら。政治的意図がにおわないように、それは制作者としては考えますよ。当然これ、電通が入ってますからね」だろう。

 最後の「電通」の部分を除けば、国葬が強い政治的意図を、その意図を隠した形で演出されるという演出家としての認識を語ったものと読める。その認識に同感する人は多いだろうし、反発する人も冷静に受け止められる内容かと思う。

 ただ、放送メディアには、活字メディアとは異なる性質がある。それは発言者の声音だったり表情だったりといった放送の持つ特質だ。要は、「話し方」だ。特にテレビはそれによって極めて強い印象操作が可能となる。

 仮に玉川氏が穏やかな「話し方」でテレビディレクターとしての視点から国葬への認識を語っていたら、その後の状況は変わっていたようにも思う。それでも反発する人はいるだろうが、少なくとも内容は正確に伝わった気もする。加えて言えば、仮に「話し方」が穏やかであれば、「電通が入っています」といった、確認さえしていない内容を断定的に語る愚を犯すことはなかったようにも思う。

 ■コメンテーターは誕生当初から「話し方」が重視されていた

 実は、コメンテーターというのは、その誕生の当初から「話し方」が重視されていたという逸話がある。戦後にNHKがニュース解説を始める時のエピソードとして、GHQ=占領軍総司令部でNHKの指導・検閲にあたったフランク馬場氏が書き残したもので、それによると、人選に事実上の決定権を持っていたGHQは、新聞記者やNHKアナウンサーの音声をGHQで働いていたアメリカ人女性に聴いてもらって意見を求めたという。もちろん、彼女たちは日本語を理解しない。では、彼女らは何を判断したのか。それは「話し方」だった。

 玉川氏の人気が勢いのあるその「話し方」にあることも間違いなく、そういう意味では今回の騒動は必然だったのかもしれない。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。 tateiwa@infact.press

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース 政治・社会 【政治ニュース・連載・「ファクトチェック・ニッポン!」】  2022年10月26日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック・ニッポン!・10.19】:ひろゆき氏の沖縄に関する発言をファクトチェックする 同氏は認識や意見を語ることが多いが

2022-11-17 07:02:10 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・10.19】:ひろゆき氏の沖縄に関する発言をファクトチェックする 同氏は認識や意見を語ることが多いが

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・10.19】:ひろゆき氏の沖縄に関する発言をファクトチェックする 同氏は認識や意見を語ることが多いが

 実業家のひろゆき氏の沖縄に関する発信に批判が出ている。発信の真意はわからないが、これらをファクトチェックできないかとの依頼があったので試みてみたい。

<picture>ひろゆき氏(C)日刊ゲンダイ</picture>

     ひろゆき氏(C)日刊ゲンダイ

 報道によると、ひろゆき氏は抗議の市民が解散した後の米軍キャンプ・シュワブゲート前に行き、座り込みが3011日に達したことを示す掲示板を前に「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」などと投稿したという。これ自体はひろゆき氏が実際に確認した内容であり、事実だろう。批判は、それについてのひろゆき氏が書いた「0日にした方がよくない」に向かっているようだが、それは認識の問題だ。認識はファクトチェックの対象とはならない。座り込みは24時間続けなければ座り込みとは言えないとは私は思わない。しかし、それも個人の認識でしかなく、ファクトの問題ではない。

 もうひとつ、「普天間の周りってもともと何もなかった」と発言し、その後「普天間住民の90%以上の人は基地が出来てから移住してきた人」と修正した。その根拠は、「1945年当時の人口が9千人で、現在の人口は9万人」だとした。

 当然、現在、普天間基地周辺に住んでいる人の中には基地ができた後に住み始めた人はいるだろう。しかし、増えた人口の全てが外から来たとまで断言できるのか? そう考える根拠は示されていない。ちなみに、同じ1945年の日本の人口は7000万人余。現在は約1億2000万人余だが、その差の5000万人が日本の外から来たのか? そうではないだろう。よって、ファクトチェックの判定は誤りとなる可能性が高い。

 ■安倍元首相もひろゆき氏のような認識を共有していた

 もっとも、ひろゆき氏の発言は総じてファクトチェックには向かないという印象がある。それは、彼が事実ではなく、認識、意見を語るケースが多いからだ。意見はファクトチェックできない。それをファクトチェックの限界と評する人もいるが、それは仕方ない。

 また、沖縄に米軍基地が集中する状況を当然視する本土の人は多く、ひろゆき氏に特有な話ではない。だから、殊更大きく取り上げる必要はないとも思う。

 ひろゆき氏のような認識を共有していた有力政治家が安倍晋三元首相だったとも言える。私の手元には、その安倍氏が尊敬してやまない祖父の岸信介元首相の日米外交交渉での発言が記録された米政府の公式文書がある。1957年のもので、米公文書館に残されていた。

 そこで岸元首相は米国務長官に対して、米施政権下にあった沖縄であっても「日本人9000万人の問題である」とした上で、「もし(沖縄の)土地が軍事目的で求められるとなると、代わりに使える土地を見つけるのが困難となる」と懸念を示している。アメリカ側も、その懸念を理解すると応じざるを得なかったことが記録に残されている。

 残念ながら安倍氏はそうした岸元首相の姿を学ぶことなく亡くなってしまった。まして、ひろゆき氏にそれを学んでほしいなどと思うことは意味がないだろう。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。 tateiwa@infact.press

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース 政治・社会 【政治ニュース・連載・「ファクトチェック・ニッポン!」】  2022年10月19日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック・ニッポン!・10.12】:フジ「めざまし8」MTG途中、北朝鮮がミサイル発射 専門家らの発言から抱いた一つの懸念

2022-11-05 06:21:20 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・10.12】:フジ「めざまし8」MTG途中、北朝鮮がミサイル発射 専門家らの発言から抱いた一つの懸念

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・10.12】:フジ「めざまし8」MTG途中、北朝鮮がミサイル発射 専門家らの発言から抱いた一つの懸念

 NHKを辞めて、行ったアメリカから帰ってきて毎日放送でコメンテーターを始めたのは2017年10月。つまり、コメンテーターなる立場になって5年が経ったわけだ。その最初の10月4日はフジテレビの「めざまし8」。前日に送られてきた内容では、メインは岸田首相の所信表明演説だった。

 「経済再生の優先」を表明したとされる内容はチェックしていたが、特に目立った内容も感じられない演説だった。例えば電気料金の高騰への対応から「前例のない思い切った対策」を講じると述べていたが、具体例がないため、「思い切った」という言葉が伝わってこない。それくらいのことも理解できないのかと驚いた。

 所信表明演説は各省庁と調整して原稿は作られる。それにどれだけ首相の色を出すかが問われるわけだが、災害対策や外交安全保障については恐らく省庁の挙げてきた内容のままだろう。具体性に乏しい内容だった。妙に具体的だったのは、「公正取引委員会等の執行体制の強化」という点だ。企業間の競争を活発化させるために公的な介入を強化するという……「これが新しい資本主義か?」とも思ってみた。

 そうしたことを考えながら迎えた当日の打ち合わせで異変が起きた。(北)朝鮮が弾道ミサイルを発射。そして番組内容は一気に変わる。これは情報番組の強みでもあるのだろうが、番組は(北)朝鮮一色となった。

<picture>金正恩書記長(C)ロイター</picture>

        金正恩書記長(C)ロイター

 専門家やフジテレビの解説委員が加わって話が進む。専門家の発言は、(北)朝鮮に対して厳しい姿勢をとるよう日本政府に求める内容だ。

 そうした話を聞きながら、やはり一つの懸念を感じずにはいられなかった。金正恩政権の判断の中で、どれだけ日本が意識されているのか、だ。

 小欄でこれまで何度か触れているが、私は過去に2度、訪朝している。その都度、(北)朝鮮に強硬な姿勢で臨むべきとする人々から批判されるが、やはり行かねばわからないことがある。その一つに、対日政策担当者の位置づけの変化がある。

(北)朝鮮にとって日本は重視すべき国だった。それは対日政策担当者の政府内での一定の発言力から推測できた。金日成、金正日政権時は特にそうだったのだろう。それ故に金丸訪朝も、小泉訪朝も実現した。単なる敵対国家なら、そうはならない。また、エリート外交官を養成する平壌外国語大学には日本語学科があり、そこで日本語や日本の政治を学んで政府に入った人間が対日政策担当者となっていた。

 ところが、私の2度の訪朝で、彼らの位置づけが低くなっていることを知った。驚いたことに、平壌外国語大学で日本語学科が廃止になっていた。

 ■いたずらに強硬論を振りかざしてきた結果だが…

 米朝首脳会談に慌てた安倍元首相はそれまでの交渉に応じない姿勢を変えて、「無条件での日朝首脳会談」を言い出し、岸田首相もそれを踏襲している。しかし、それをお膳立てする役割の(北)朝鮮側の人間の地位が下がっている状況への考察はない。いたずらに強硬論を振りかざしてきた結果だが、そこに変化は見られない。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。 tateiwa@infact.press

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース 政治・社会 【政治ニュース・連載・「ファクトチェック・ニッポン!」】  2022年10月12日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック・ニッポン!・10.05】:国葬当日はフジ「めざまし8」に出演 語ったことは従来の繰り返し、プロセスの重要性だ

2022-11-05 06:21:10 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・10.05】:国葬当日はフジ「めざまし8」に出演 語ったことは従来の繰り返し、プロセスの重要性だ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・10.05】:国葬当日はフジ「めざまし8」に出演 語ったことは従来の繰り返し、プロセスの重要性だ

  9月26日の昼前、国葬の前日にフジテレビ系の「めざまし8」の担当者から電話が入った。翌日の番組に出演してほしいとの話だった。私は木曜日の出演なので緊急出演ということになる。

<picture>安倍元首相の国葬(C)JMPA</picture>

        安倍元首相の国葬(C)JMPA

 当日の火曜日は、三浦瑠麗さんが総合解説、元栄太一郎さんがコメンテーターということで、世間的には安倍元首相に近いと見られている識者だ。あえて詮索はしなかったが、元首相に批判的な私を出すことで番組のバランスを考えたのだろう。趣旨を理解して急きょ、上京となった。

 ただ当日、私が番組で語ったことは、小欄で書いていることの繰り返しだった。それは、プロセスの重要さだ。日刊ゲンダイの読者は納得しないだろうが、私は安倍氏の国葬だから反対という考えではない。安倍氏を批判する人は国葬を認めないし、反対に安倍氏を支持する人は賛成する。

 私が首相としての安倍氏に対して高く評価していないことは小論でも書いてきた。岸田首相は国葬で、安倍氏によって「我が国の安全は一層保てるようになった」「歴史は(政権の)長さよりも、達成した事績によって記憶する」と述べたが、私は同意しない。それでも、同意する人がいることも事実だ。だから、プロセスが大事になる。

 そもそも民主主義とは、得られる結果を評価する言葉ではなく、プロセスの重要性を指す言葉だ。決定への人々の参加、それが民主主義だ。それをするのが国会だ。選挙で選ばれた代表が、有権者の負託に応えて決定に参加する。

 自公が過半数だから国会決議の結果は同じだと言う人はいる。繰り返すが、民主主義とは結果ではなく、プロセスだ。良い政治といった抽象論を語っているわけではない。もちろん、憲法に違反するような議決は認められない。あくまで憲法の枠内で、国会の決議をもって物事を進めるべきだ。

 国葬を支持する人で法的に問題ないと主張する人は多い。しかしそもそも、国葬に関する明確な法律があるわけではない。それは、国葬を是とするための理屈にしか思えない。

 今回は弔問外交が話題となった。それは岸田政権にとっては苦肉の策だろう。平たく言えば「硬いこと言うな、外交の役に立っている」ということか。同時に、G7の首脳が一人として来なかったこともニュースで取り上げられている。それは安倍元首相との関係で語られるケースが多いが、私は正直、違和感を覚える。外交はそこまでナイーブではない。G7首脳が来日するか、しないかの判断は、安倍氏への思いではなく、あくまで日本に来る意味があるか、ないかだろう。この時期に他の何かを差し置いて日本に首脳が行く意味があるのか? それだけだ。ハリス米副大統領が訪日の後に朝鮮半島の非武装地帯に向かったという事実が、それを物語っている。外交経験の浅い副大統領に東アジアを知ってもらう意味があるとの判断だろう。

「のど元過ぎれば」ではなく、国会で検証と国葬のための規則作りをするべきだ。併せて、国葬の遠因となった旧統一教会についても国会で検証する。当然のことだ。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。 tateiwa@infact.press

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース・連載・「ファクトチェック・ニッポン!」】  2022年10月05日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック・ニッポン!・09.28】:米バイデン大統領の国連演説から読み解く 露プーチン大統領への痛烈メッセージ

2022-10-05 06:28:40 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・09.28】:米バイデン大統領の国連演説から読み解く 露プーチン大統領への痛烈メッセージ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・09.28】:米バイデン大統領の国連演説から読み解く 露プーチン大統領への痛烈メッセージ

 プーチン露大統領の「新たに予備役30万人動員令へ」が大きく報じられている。ウクライナ軍が被占領地の一部を奪還するなど攻勢を強めているとの報道と相まって、ロシアの強硬な姿勢に警戒するという論調だ。30万人は自衛隊の総員数をはるかに上回る規模だけに、懸念は当然かもしれない。

<picture>国連で演説するバイデン米大統領(C)ロイター</picture>

  国連で演説するバイデン米大統領(C)ロイター

 報道ではアメリカが強く反発したということになっている。プーチン氏の演説の後に行われたバイデン米大統領の演説も紹介され、ロシアとの対決姿勢を強める米側の姿勢と米ロ対決が更に激化するとの観測が紹介されている。恐らく、激化する状況は間違いない。しかし、少なくともアメリカ側の姿勢は報道とは違うようだ。

 小欄ではウクライナ情勢をバイデン氏の発言を通じて見てきた。今回もそれを踏襲する。注目したいのはロシアとの対決姿勢を強める姿勢とされた9月21日の国連演説だ。翻訳は筆者による。

 まず、「国連安保理の常任理事国が隣国に侵攻し、主権国家を地球上から消そうとしている。ロシアは恥ずかしげもなく国連憲章の核となる精神を踏みにじった」とロシアを批判。そして「今、再び、ロシアは戦闘に参加させる兵士を招集している」と語っている。しかし、その日のプーチン氏の発表にある「30万人招集」について触れたのはこの部分だけだ。また冒頭の言葉も、国連演説の導入としての形式的な意味合いともとれる。この後もロシアの批判を展開しウクライナに対してこれまでに250億ドルにのぼる軍事的及び人道的な支援を実施してきたと述べた。しかし、特にこれまでと大きく変わるところはなく、むしろ、抽象的な発言に終始した演説との印象が強い。

 ■A4で11枚のうち冒頭の2枚だけ

 否、注目すべきはその演説の長さかもしれない。演説の字おこしをA4判で印刷して出すと全部で11枚になった。そのうちロシアについて語ったのは冒頭の2枚ほどでしかない。実際には演説の多くは気候変動対策などに費やされている。

 大統領の演説は本人の意向を踏まえて補佐官らがアイデアを出し、専属のスピーチライターが文字化。それを大統領が承認して演説となる。もちろん、国務長官ら関係閣僚には説明がなされる。それ故、演説そのものが強いメッセージを持つ。この場合はどうだろうか? 私はこの少ない言葉こそがプーチン氏とその側近へのメッセージなのだと感じた。

 この後に行われたグテーレス事務総長との会談時に記者に「彼(プーチン氏)の決定についてコメントはないか」と問われても、「Nope(ない)」と一言で切り捨てている。つまり、アメリカはロシア軍の苦境も、それによる増員も織り込み済みだということだろう。更に言えば、新たに投入されるロシア兵も厳しい状況に置かれるということを示唆しているともいえる。

 プーチン氏及び側近からは、こうしたバイデン氏の対応はどう見えるのだろうか? 推測だが、反発されるより脅威に感じるのではないか。そこに、無視することによって逆に「敵」に圧力をかけるというバイデン政権の戦略を見ることも可能だろう。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。 tateiwa@infact.press

立岩陽一郎
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【ファクトチェック・ニッポン!・09.21】:石破発言を拡散する人が見落としていること 民主主義とは結果ではなく「プロセス」にある

2022-10-05 06:28:30 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・09.21】:石破発言を拡散する人が見落としていること 民主主義とは結果ではなく「プロセス」にある

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・09.21】:石破発言を拡散する人が見落としていること 民主主義とは結果ではなく「プロセス」にある

 自民党石破茂元幹事長が発言を訂正し謝罪した。その発言は、「イギリスでは女王の国葬でも議会で決議している」というものだった。

<picture>石破茂元幹事長(C)日刊ゲンダイ</picture>

    石破茂元幹事長(C)日刊ゲンダイ

 TBSが、「この石破氏の発言についてNPO法人インファクトがイギリス議会に確認したところ『エリザベス女王の国葬に関し、議会の議決がなされた事実はなかった』ということです」と報じている。「インファクト」とは私が編集長を務めるオンライン・メディアだ。

 これを、安倍氏を支持する人々が拡散している。一方、安倍氏の国葬に反対する人からは、立岩は安倍氏の国葬に反対していたのではないか? との疑問の声が届いている。

 ■事実より「立ち位置」が優先される国

 まず、明確にしておきたいのは、ファクトチェックとは立ち位置によらず発言の事実を確認する作業であること。また、発言者を批判するものでもないこと。これらが日本では理解されていない。この国では、事実より立ち位置が優先される部分が極めて強いからだろう。

 ファクトチェックについて「事実を積み上げても真実は見えない」と批判する人もいるが、私はそう考えない。米ワシントン・ポスト紙の編集長だった故ベン・ブラッドレー氏は、「事実は時に不都合だが、長い目で見れば嘘より安全だ」と語っている。その言葉は今も同紙編集局に大書されている。それは、伝説的編集長とも称される氏の長い経験から出た言葉だろう。私のささやかな取材の経験とも符合する。

 ただし、石破氏発言のファクトチェックは誤解されている。少し説明しておきたい。この取材をインファクトのファクトチェッカーである田島輔氏が私にもってきた案件は、「英国でも女王の国葬は議会の同意が不要ではないか」というものだった。

 私は、「要不要ではなく、素直に石破氏の発言にある女王の国葬について議会で決議したか否かを調べて欲しい」と指示した。慣習法の国で法的な部分を確認するのは難しいとの判断と、ファクトチェックが政治的に利用されかねないとの懸念を抱いたからだ。

 事実の確認に徹して欲しいと念を押し、田島氏がそれに従って努力してくれた結果が前掲だ。しかし、実はインファクトの調べは、そこでは終わっていない。

 ■仮に英国で安倍元首相の国葬を行うなら?

 英議会は国葬について、「一般に君主に限られるが、在位中の君主の命令と資金を拠出する議会の議決によって、例外的に著名な人物にも拡大することができる」と説明した。首相も「例外的」な対応ということになる。つまり、仮に英国で安倍元首相の国葬を行うならば議会の議決が必要だということだ。石破氏の訂正を拡散する人は、そこを見落とすべきではない。

 自公が過半数を占める国会で審議をすれば結果は同じではないかとの指摘はある。それでも国会で審議して決議することに意味がある。民主主義とは得られた結果ではなく、そのプロセスにあるからだ。今回のファクトチェックは、その重要さをあらためて示すものとなったと言える。加えて、日本の民主主義についても疑問を呈するものとなったと言えるだろう。

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【ファクトチェック・ニッポン!・09.14】:岸田政権の国葬強行に、責任ある野党は何をしなければならないのか?

2022-10-05 06:28:20 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・09.14】:岸田政権の国葬強行に、責任ある野党は何をしなければならないのか?

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・09.14】:岸田政権の国葬強行に、責任ある野党は何をしなければならないのか?

 安倍元首相の国葬について実のところ、好き嫌いの問題なのかもしれない。やりたければやればいいとも思う。むしろ、問題なのはそのプロセスだろう。国会での議論もなく、内閣が独断で決めて国会に事後説明する手法だ。その内閣の説明も、怪しい。

<picture>岸田首相は国葬を強行(C)日刊ゲンダイ</picture>

  岸田首相は国葬を強行(C)日刊ゲンダイ

 国葬(儀)の判断根拠は岸田首相によれば、

 ①総理在任期間が憲政史上最長の8年8カ月であること
 ②経済や外交での実績
 ③各国が弔意を表明
 ④選挙運動中の非業の死の4点を挙げた。

 まず①と②について、9月9日に行われた閉会中審査で、立憲民主党の泉代表が、それなら当時の「最長」でノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作氏はなぜ国葬ではなかったのかと問うた。岸田首相は「そのときどき、その都度、政府が総合的に判断」と答弁したが、これでは議論にならない。国の政策には一貫性が必要だ。それが変わる時はその説明が求められる。それを「そのときどき、その都度」変わるものだと言い放ってしまえば、そもそも国会での議論など必要なくなってしまう。 

 ③に関して、弔問外交を語る人がいる。諸外国から首脳級が来るので、外交の場として使えるという説明だ。しかし、首脳級が来るという状況にはなく、仮に実務者による秘密外交ならメディアが集中する場を使うことはしない。無理のある説明だ。

 ④については素朴に考えて良い。なぜ安倍晋三元首相は銃で撃たれ死亡したのか? 例えば、元首相が「暗殺」されたと表現する識者がいる。「暗殺」とは何か? 「政治的に影響力を持つ人間を、政治的、思想的立場の相違に基づく動機によって殺害すること」というのが一般的だろう。今回の事件についてファクトチェックをするならば安倍元首相が「政治的に影響力をもつ人間」であることは間違いない。しかし「政治的、思想的立場の総意に基づく動機」はどうだろうか? これは容疑者の供述とかけ離れたものだ。

 逆にこう問いたい。仮に、安倍元首相が旧統一教会と全く関係を持たず、選挙における票の差配などをしていなかったとして、それでも今回の事件は起きたのか? そう考える人は極めて少数だろう。つまり、旧統一教会と関係のあった自民党国会議員の筆頭に元首相がいなければ、少なくとも元首相が狙われることはなかったと考えるのが自然だ。

 岸田政権は国葬を強行するだろう。その手法はまさに安倍元首相のそれで、結果的にこの政権を葬る儀式となるかもしれない。しかしそれで終わらないかもしれない。日本の民主主義を葬り去る儀式にもなり得るからだ。なぜなら民主主義とは、決定にあたって、それによって影響を受ける人びとが参加するシステムだからだ。その場が国民の代議機関である国会だ。有権者が選んだ議員の国会での議論を経ずに重要な決定が行われる国を民主国家とは呼ばない。責任ある野党は何をしなければいけないのか? これを真剣に考えなければいけない。普通に考えれば、非民主的に決まった儀式とは関わりを持たないということだろう。

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立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース・連載・「ファクトチェック・ニッポン!」】  2022年09月14日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック・ニッポン!・07.20】:安倍元首相の国葬について冷静な議論を求めたい。その場は国会であるはずだ

2022-10-05 06:28:10 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・07.20】:安倍元首相の国葬について冷静な議論を求めたい。その場は国会であるはずだ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・07.20】:安倍元首相の国葬について冷静な議論を求めたい。その場は国会であるはずだ

 安倍晋三元首相について政府は国葬を行うことを決めたという。岸田首相は、「憲政史上最長の8年8カ月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって、厳しい内外情勢に直面する我が国のために内閣総理大臣の重責を担ったこと、東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績をさまざまな分野で残されたことなど、そのご功績は誠にすばらしいものであります」と語った。

<picture>安倍晋三元首相の通夜に出席した岸田文雄首相(14日)/(C)日刊ゲンダイ</picture>

 安倍晋三元首相の通夜に出席した岸田文雄首相(14日)/(C)日刊ゲンダイ

 ■ミスリードな岸田発言

 また、「外国首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けており、また、民主主義の根幹たる選挙が行われている中、突然の蛮行により逝去されたものであり、国の内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられています」とも強調している。

 小論では、安倍元首相は当初は外交を動かすために長期政権を目指したが、途中から主客転倒し、長期政権の維持のために外交を利用する形になったと指摘してきた。G7などの首脳外交の場では、その場を経験している首脳が新参の首脳に気を配るシーンがよく見られる。古株である安倍元首相がその役割を担い、それが各国の首脳に感謝されたことは想像に難くない。

 ところで、この岸田首相の発言は前段と後段を分けて考えることが可能だ。仮に「ご功績」の評価を認めたとしても、安倍元首相が数十年後に天寿を全うして世を去ったとしたら現首脳を含め「国の内外から幅広い哀悼、追悼の意」が寄せられる状況にはならなかったと思うからだ。

 つまり、この国葬は、安倍元首相が非業の死を遂げたことによって実施される運びとなったと考えるのが自然だ。これについて岸田首相は、「国葬儀を執り行うことで、安倍元総理を追悼するとともに、我が国は、暴力に屈せず民主主義を断固として守り抜くという決意を示してまいります」と語っている。

これは、かなりミスリードな発言だ。前回も指摘したが、少なくとも容疑者の供述を見る限り、事件は旧統一教会と安倍氏の関係の密なことを信じた逆恨みによる犯行であり、安倍氏の言論を封じようとしたものではない。従って、民主主義うんぬんを持ち出して事件を語るのは、少なくとも現段階では事実に基づいたものとは言えない。

 産経新聞の報道によると、日本維新の会松井一郎代表は、国葬について「反対ではないが、賛成する人ばかりではない」と述べたという。「『反安倍』はたくさんいる。批判が遺族に向かないことを祈っている」とし、「礼節を尽くすべき元首相だと思うが、その結果、遺族の負担にもなるということはよく考えてもらいたい」と語ったという。

 松井氏は国葬に反対の立場ではなく、記事も「反安倍」の存在を批判したいニュアンスを感じる。しかし、松井氏の発言そのものは、政治的な立場を離れて多くの人と懸念を共有している気がする。声高に賛否のいずれかを叫ぶよりも、冷静な議論を求めたい。その場は国会であるはずだ。それがなければ、元首相は国会軽視の代名詞になってしまうのではないか。

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース・連載・「ファクトチェック・ニッポン!」】  2022年07月20日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【漂流するメディア・09.25】:NHKは教訓にしていない…40代記者の過労死で、佐戸未和さんの両親は不信感を隠さなかった

2022-09-25 12:03:30 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【漂流するメディア・09.25】:NHKは教訓にしていない…40代記者の過労死で、佐戸未和さんの両親は不信感を隠さなかった

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【漂流するメディア・09.25】:NHKは教訓にしていない…40代記者の過労死で、佐戸未和さんの両親は不信感を隠さなかった

 9月2日、NHKが40代の男性記者が過労死したことを発表した。NHKは、「公共メディアをともに支える職員が亡くなり、再び労災認定を受けたことは痛恨の極みであり、大変重く受け止めています」などとするコメントを発表した。報道によると、死亡した男性は東京都を取材する都庁クラブのキャップで、参院選や東京オリンピック・パラリンピックの取材指揮にあたっていたという。

 「再び」という言葉が、2013年に同じ都庁クラブで記者が過労死していることを指すことは日刊ゲンダイの「ファクトチェック・ニッポン」で書いた。今回は、その点をさらに詳細に書いておきたい。なぜなら、NHKの「大変重く受け止めています」というコメントが、一般の人が感じるよりはるかに軽いものだと言わざるを得ないからだ。

<picture>佐戸未和さんの遺影(写真)立岩陽一郎</picture>

 佐戸未和さんの遺影(写真)立岩陽一郎

 佐戸未和さん。2013年7月に、31歳の若さで亡くなった。都内の自宅で携帯を握りしめたまま倒れているところを、連絡がとれないと駆け付けた婚約者が発見。既に死亡していた。

 男性記者の過労死を知らせる報道資料には、「NHKでは、2013年7月に亡くなった佐戸未和さんが長時間労働による労災と認定されたことを受けて、業務の体制の進め方、勤務制度の見直しなどを行ってきましたが、再び職員が亡くなり、労災を受けるという事態になりました」と書かれている。

 さらに、「深く反省し、これまでの健康確保の施策を速やかに再検討していきます。さらに、外部の有識者を加えた検討会も設け、働く一人ひとりの健康をいっそう留意して再発防止を徹底していきます」とも。

 私は佐戸さんのご両親に連絡をとり、台風14号の影響で多少暑さが和らいだ9月15日にご自宅で話をうかがった。

 ご両親は、男性記者の家族のことを気遣いつつ、NHKへの不信感を隠さなかった。

 「ご家族のことを思うと胸が張り裂けそうになる。結局、NHKは未和のことを教訓になどしていない。そう思わざるを得ません」

 ご両親がそう思うのには理由がある。そもそも佐戸未和さんが過労死した事実をNHKは長く伏せていた。それは表に公表するか否かというレベルではなく、局内でも事実は伏せられていた。事実上のかん口令がしかれていた。

 当時、NHKにいた私もその事実を知らなかった。ご両親は未和さんの過労死の事実を共有して教訓にして欲しいと願っていたが、そうはなっていなかった。不審に思ったご両親の指摘で死の4年後に公表したが、その際、NHKはご遺族の希望で公表を控えていたとの言い訳をしているが、そうした事実はない。

 ◆過労死の調査報告書がないまま「働き方改革」を実施したNHK

  NHKはご両親に対して、未和さんの過労死をきっかけに「働き方改革」を実施したと説明している。それが前掲の「業務の体制の進め方、勤務制度の見直しなどを行ってきました」にあたる部分だ。これは事実だが、未和さんの死を教訓にしたという部分については怪しい、と少なくともご両親は感じている。

<picture>NHK(C)日刊ゲンダイ</picture>

  NHK(C)日刊ゲンダイ

 例えば、未和さんの死の2年後に出された「働き方改革」に関するNHKの内部文書がある。2015年10月の「報道局働き方プロジェクトNEWS 第1号」だ。そこには「休暇の取得の推進」、「泊まり体制の見直し」といった取り組みが書かれている。しかし未和さんのことには一言も触れられていない。

 私もその疑問を共有している。なぜなら、未和さんの過労死についてNHKはまともな調査をしているとは思えないからだ。普通、調査をすればその調査結果をまとめる。そして問題を洗い出し、改善すべき点を確認する。それがあって初めて「改革」に着手できる。

 ところが、NHKは未和さんの過労死について調査報告書、あるいはそれに類するものを作成していない。私の情報開示請求に「存在しない」と回答している。それをご両親に伝えた時、ご両親は私の言葉を信じなかった。父親の守さんは日本を代表する一流企業で海外支店長まで務めた人だ。いくらなんでも、「教訓にして働き方改革をする」と言っているのに、調査の結果をまとめた報告書がないということがあり得るのか?その後、自らNHKの幹部にそれを問い質している。2021年10月4日のことだ。ご両親がそれを克明に記録している。NHK側の回答だ。

「(未和さんの部署の関係者から)ヒアリングをしているんですけど、報告書という形でまとまったものは、結論としては存在しません」

 なぜ報告書をまとめなかったのか? それについては次のように話している。

「当時、他の記者も同じような働き方をしていたということで、未和さんに関して特別に、勤務管理が特別なことをした、というよりも、組織として、記者の労務管理が不十分だったということの認識だった」

 つまり、同じ働き方をしていた他の記者は死亡していないので、特別な事情は見当たらず、このため調査の結果をまとめることはしなかったという説明だ。

 当然、ご両親は納得していない。次のように指摘している。

「(未和さんの)労災の認定がされたときにも、その結果は聞いていらっしゃると思うんですが、その時点で、労災であれば当然企業責任が問われるわけですから、そこであらためてきちんと調査をして、当時の状況とかですね、過労死に至る経緯であるとかですね、相当詳しい調査をするのが普通の企業だと思うんですね。その結果は当然、普通の企業であれば社長であれ会長であれ、当然経営陣には報告されるし、NHKの中でも経営委員会なり執行部にも、『社内で労災が起こった』と報告されるはずなので、そのための調査リポートが作られると思うのですが、『それがない』と言うこと自体が私には信じられない」

 これに対して、NHK側は「(関係者への)ヒアリングはかなりしていて、調査はした」と応えている。このため、ご両親は再度以下のように質問している。

「普通ならヒアリングをすれば、当然調査記録として残しますよね。(報告書を作らないとは)理屈としておかしいですよ。誰が調査をしたのですか?」

 続けざまに以下の様に問うている。

「誰が誰に(ヒアリングを)したのですか? 何月何日に誰が誰にヒアリングをして、その結果はどうだったのか? それを何人にしたのか? そのヒアリング結果を踏まえて、どう結論づけられたのか?」

 NHKの担当者は沈黙するばかりだ。ご両親はそのショックを、「『調査報告書を作っていません』なんていうことを聞くとは夢にも思っていませんでした」との言葉で伝えている。

 ◆NHKでは10年間で91人が在職中に死亡している

 これがNHKの言う「大変重く受け止めています」の実態なのだろうか。ご両親ならずとも、憤りを通り越して呆れるほかない。

<picture>NHK過労死問題巡る動き(C)共同通信社</picture>

  NHK過労死問題巡る動き(C)共同通信社

 なぜ調査報告書を作らず、また作ることを拒否するのか? 実は、未和さんの過労死をめぐってNHK側は誰一人責任をとっていない。責任をとるどころか、直属の上司は地域の報道統括という要職に栄転しているし、さらに上の職員も栄転している。

 では、本当に誰にも責任はなかったのか? 未和さんが命を落とした2013年の7月の状況を見てみよう。7月21日に参議院選挙の投開票があり、日付が変わって22日の午前3時に帰宅している。そして問題の時間が迫る。

 まず、7月24日の午前3時頃に婚約者に電話をしている。それを最後に婚約者からの電話にもメールにも反応していない。そしてその日の夜、選挙取材の慰労会に未和さんは参加していない。しかし、誰も未和さんの安否を気遣っていない。実は7月25日に、婚約者が未和さんの職場に電話をして安否を問い合わせている。しかし、職場の人間は誰一人、未和さんの安否の確認をしていない。婚約者は東北在住だった。このため、この日の夜に自ら駆けつけて倒れている未和さんを発見している。それが当時の状況だ。

 ご両親は、NHKが早く動いてくれていれば未和さんは死ななくてすんだのではないかと思っているし、私もそう思う。

 調査報告書が作られないことについてご両親は、「5年後、10年後、あるいは20年後、私たちが亡くなったと、NHKの中で『そういえば20年前に佐戸未和という記者が亡くなった、過労死で。当時の経緯とか、顛末はどうだったのだろうか?』と振り返った時に、何が残るのか?」とNHKに問うている。これに対してNHK側は、「報告書がないという事実は弁解できない」と認めつつ、報告書を作るとは言っていない。

 頑なとも言えるNHKの態度の結果は、「ファクトチェック・ニッポン」にも書いたが、再度、それを書いておく。あるNHK職員から、未和さんの死は過労死ではないと言われたのだ。どういう意味か問うと、「彼女の死因は持病が原因だ。遺族からいろいろ言われてNHKが過労死の認定を受けられるようにした」と語った。

 この職員の話は全くもって事実ではない。労働基準監督署は未和さんの健康診断の結果などもすべて含めて検討した上で労災と認定している。また、NHKが佐戸さんの過労死認定のために尽力したという事実もない。すべてはご両親の努力の結果だった。私はこの話をご両親に伝えるかどうか迷った。それがご両親をどれだけ悲しませるか、当然、私にもわかる。しかし、隠すべき話ではないと、ご両親に伝えた。私はその時のご両親の苦痛にゆがむ表情を忘れることはできない。父親の守さんは絞り出すようにこう言った。

 「NHKは未和の死から何の教訓も得ていない。教訓を得ようともしていない」

 それを物語るような9月2日のNHKの発表だ。9年間で2件の過労死が発生したNHK。だが、それだけで終わらないかもしれない。

 NHKがまとめた「NHK労働者の在職死の件数」という資料がある。日本共産党の求めに応じてNHKが2018年3月14日現在でまとめたものだ。それによると、2008年6人、2009年12人、2010年11人、2011年7人、2012年10人、2013年11人、2014年7人、2015年9人、2016年11人、2017年7人となっている。2017年までの10年間で、実に91人が在職中に死亡している。この中に、家族が申請すれば過労死と認定されたケースがないと言い切れるだろうか。

 私は未和さんの遺影に手を合わせる時、必ず3つのことを祈る。1つは未和さんの安らかな眠り。そして残されたご家族のこと。そして、NHKがまともなメディアになること。今回遺影に手を合わせた際は、さらに男性記者とご家族の無念さを思い、彼の安らかな眠りとご家族のことを祈った。その祈りの数はさらに増えるのではないか。その懸念を抱かざるを得ない。

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース・連載・「漂流するメディア」】  2022年09月25日  12:03:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック・ニッポン!・07.13】:安倍元首相はファクトチェックの対象としては極めて重要な政治家だった

2022-07-20 06:07:40 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・07.13】:安倍元首相はファクトチェックの対象としては極めて重要な政治家だった

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・07.13】:安倍元首相はファクトチェックの対象としては極めて重要な政治家だった

 世界で報じられた安倍晋三元首相の死。米バイデン大統領も哀悼の意を示したが、私の留学時代の米国の恩師からもメールが来たのには驚いた。太平洋の向こうでも大々的に報じられたということだ。

 まず元首相の死を悼みたい。一方で、明確にしておかなければいけない点は、容疑者の供述からすると、これはテロではない。また、言論に対する暴力という外形的な事実はあるものの、それを狙ったものではない。それが逆に事件の怖さでもあるが、言論に対する挑戦という見立てで昭和初期の政治家暗殺と並べて報じるメディアには違和感を覚える。もちろん、供述通りかどうかは今後の捜査を待つしかないが、少なくとも現時点では、事件をテロと呼ぶことには抑制的である必要がある。

 安倍氏はファクトチェックの対象としては、極めて重要な政治家だった。それは、政治信条うんぬんとは関係ない。必ずしも事実に対して誠実だった政治家ではないからだ。以前も小欄で書いた通り、私の最初のファクトチェックは2017年の解散総選挙時に安倍氏が語った「(消費税)2%の引き上げで5兆円強の税収があります」だった。調べてみたら、前の年の税収を税率で割って1%当たりの税収を計算して、それを2乗にしただけのことだった。政府は「推計値」と抗弁したが、「推計」にもあたらない値だった。

 普天間基地の辺野古移設についても、「辺野古移設が唯一の解決策」という政府の方針をあたかも事実かのように強調したのは安倍氏だった。それは菅氏、そして今の岸田首相に引き継がれた。前回の総選挙時にそれは「事実」ではないと指摘すると、岸田首相は「辺野古移設が唯一の解決策という方針」と言い換えた。方針が正しい。

 CNNの報道で「安倍氏は長期政権を確立する中で多くのことを成し遂げた」という説明があった。インド太平洋地域のパートナーシップという、後にクアッドにつながる構想は安倍氏が提案したものだという。

 ■対米自立と対米追従

 安倍氏は外交で成果を出すには長期政権でなければならないと主張していたとされる。一方で、本当に外交的な成果があったかどうかには疑問もある。長期政権で外交を動かすとの狙いは、いつしか狙いと結果が逆になっていたのではないか。外交の場で華々しい姿を見せることが選挙で有利な状況を生み出すものとなったとの印象は強い。

 拉致問題は政権の最優先課題だとされた。もちろん、安倍氏が拉致問題に特別な思いで取り組んできたことは間違いない。しかし、解決を目指すなら外交を動かす必要があったが、(北)朝鮮に対して圧力一辺倒だった。訪朝時に会った(北)朝鮮の政府関係者は、「安倍さんは本気ではない」とみていた。

 疑問の多い政治家だった。例えば安倍氏は本音では親米政治家ではないと私はみている。尊敬する祖父、岸信介氏が目指したのは対米自立だったからだ。対米追従とも揶揄された安倍氏の本音はどこにあったのか。そうした点も含めて語ってほしい点は多々あった。今は、ご冥福を祈るしかない。

※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。
 tateiwa@infact.press

立岩陽一郎
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【ファクトチェック・ニッポン!・07.06】:「見ていないものについては言えない」と語る姿に本物のジャーナリストを見た

2022-07-20 06:07:30 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・07.06】:「見ていないものについては言えない」と語る姿に本物のジャーナリストを見た

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・07.06】:「見ていないものについては言えない」と語る姿に本物のジャーナリストを見た

 有力地方紙の京都新聞社で記者が自社の大株主らを刑事告発した。その詳細は既にさまざま報じられている。

 告発されたのは、大株主で相談役の白石浩子氏とその息子で取締役の京大氏。浩子氏には、去年までの約2年間で5700万円余りが京大氏から支払われていた疑いがある。浩子氏には勤務実態がないにもかかわらず約16億円の報酬を受けていたと第三者委員会が認定している。

<picture>京都新聞HDの元相談役らの告発状を京都地検に提出し、記者会見した同紙社員の日比野敏陽さん(左)ら(6月29日、京都市)/(C)共同通信社</picture>

 京都新聞HDの元相談役らの告発状を京都地検に提出し、記者会見した同紙社員の日比野敏陽さん(左)ら(6月29日、京都市)/(C)共同通信社

 告発した記者の一人が京都新聞の論説委員、日比野敏陽氏だ。記者会見で、「(京都新聞は)『我らは正義を守る、我らは自由を守る、我らは真実を守る』との社是を掲げている。この社是は『何なのか?』ということになる」と語った。新聞を愛するからこそ、内部から声を上げる必要性があるとも話した。

 日比野氏は友人だ。しかし、否、だからこそ連絡を取らなかった。告発が断腸の思いでの行動であることが想像できるからだ。私は以前、NHKの会長に退陣要求を出したことがあったが、心身がボロボロになった。友人が故に安易な発言も控えていた。

 出演する毎日放送の報道番組でこの問題が取り上げられた時も、最初はコメントはしなかった。しかし京都新聞社の「記者が個人による告発なのでコメントは特にない」とのコメントが伝えられた時には我慢できずに割って入り、日比野氏を知る人間として、「彼は常にマスメディア全体のことを考えている人であり、記者個人うんぬんで動く人ではない」と口にした。

 日比野氏について小欄で書いたことがある。東京の編集部長時代に当時の安倍首相の会見で、「仕組まれた質問にしか答えられないのか」と発言した時のものだ。全国紙、NHKとの事前にすり合わせた質疑が終わり、他の質問に応じずに官邸が会見を打ち切ろうとしたその時、めったに声を荒らげない日比野氏がそう声を荒らげた。この後、首相会見のあり方が変わる。

 本物のジャーナリストは主要メディアにはいないとの指摘がある。サラリーマンであってジャーナリストではないとの批判だ。しかし、実際には主要メディアにもジャーナリストはいる。確かに多くはないが、いる。日比野氏がその一人であることは間違いない。

 もう一人の本物のジャーナリストに最近会った。新田義貴氏。NHK時代の同僚だが、NHKを辞めてフリーランスで活動している。ウクライナにロシア軍が侵攻するとすぐに現地に入って取材。帰国後の6月末に関西に来てもらい同志社大と大阪芸大短期大学部で話してもらった。学生の問いに真摯に答えつつも、「見ていないものについては言えない」と語る姿に本物のジャーナリストを見た。

 その新田氏のウクライナ取材に同行した遠藤正雄氏はジャーナリストの中のジャーナリストということになるだろう。イラク戦争時に現地で奮闘していた姿を思い出す。現在、68歳。ウクライナ取材は遠藤氏の取材力、人脈、経験値があって可能だったと新田氏は語った。日本にこうした本物のジャーナリストがいることを誇りたい。もちろん、極めて少数ではある。

※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。
 tateiwa@infact.press

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【ファクトチェック・ニッポン!・06.29】:参院選「ファクトチェック」の主要な担い手は大学生 事実確認の取り組みに期待して

2022-07-20 06:07:20 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・06.29】:参院選「ファクトチェック」の主要な担い手は大学生 事実確認の取り組みに期待して

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・06.29】:参院選「ファクトチェック」の主要な担い手は大学生 事実確認の取り組みに期待して

 小欄のタイトルにもなっているファクトチェックという取り組みを始めたのは2017年。それから5年。少しはこの言葉も浸透してきたかとは思うが、まだ誤解されている面もある。ファクトチェックとは、政治家ら公人の発言やネット上で拡散している情報について事実かどうかを確認する作業だ。こう書けば、「それは理解している」と思う人は多いだろう。

<picture>早稲田大学(C)日刊ゲンダイ</picture>

     早稲田大学(C)日刊ゲンダイ

 しかし、実際にファクトチェックをやってもらうと理解が進んでいないことがわかる。まず、事実とは何か? という神学論争を始める人がいる。例えば、「事実を積み上げても真実は見えない」と言われることもある。だから、ファクトチェックなんて無駄な行為だと。

 ファクトチェックとは、発言を裏付ける根拠の有無を確認することだ。根拠があるのか? なければ事実として確認されていないと判定する。また、政治的な立ち位置から離れて判断することも大事だ。実はこれが理解されない。「ファクトチェックは政権監視のために行うべきだ」という意見をよく耳にする。これは間違いだ。ファクトチェックはあくまで事実の確認でしかない。その結果として政権を監視し批判することは可能だ。しかし、政権批判のためにファクトチェックを行うわけではない。もちろん、野党もファクトチェックの対象だ。

 ■「意見」は対象ではない

 加えて、どのような発言であっても、「意見」はファクトチェックの対象ではない。仮に政治家が「日本は世界で最も美しい国です」と語ったとして、これは意見でしかない。「美しくない点」をあげて、事実ではないと指摘することは可能だが、それはファクトチェックではない。意見はファクトではないからだ。

 ファクトチェックに最初に取り組んだのは2017年の解散総選挙。当時の安倍総理が「(消費税の)2%の引き上げにより、5兆円強の税収となります」と解散の理由を説明。素朴な疑問は、なぜ消費税を2%上げると「5兆円強」の税収となるのか? 研究者や財務省に確認した結果、単純に前の年の消費税額を税率で割って1%あたりの消費税収を2.7兆円と割り出し、それを倍にしただけの数字だった。つまり、消費税を2%引き上げたからといって「5兆円強の税収」とはならない。根拠がないと指摘した。

 その後、統一地方選、参院選、2021年の衆院選でもファクトチェックを行った。前回の衆院選では、ファクトチェックの主要な担い手は大学生だった。関西を拠点とする私のInFactには、同志社大学の学生が参加して与野党の党首らの発言などを対象にして10本のファクトチェック記事を出した。私たちとは別に早稲田大学も参加した。いわば、この選挙はファクトチェックで大学生が主要な役割を担った最初のケースとなった。

 今回の参院選でもInFactの主役は大学生だ。同志社大学に加えて、立命館大学の学生らも参加する。それを私たちファクトチェックの経験を積んだジャーナリストや弁護士がチェックして記事化する。ぜひ、学生の事実確認の取り組みに期待して欲しい。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。 tateiwa@infact.press

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【ファクトチェック・ニッポン!・06.22】:今回の選挙を「参議院」というものの機能を考える機会にしたい

2022-07-20 06:07:10 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・06.22】:今回の選挙を「参議院」というものの機能を考える機会にしたい

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・06.22】:今回の選挙を「参議院」というものの機能を考える機会にしたい

 7月10日に投開票が行われる参院選挙。ある地域で計画された党首討論が中止となったと耳にした。自民党が参加を拒否したのが理由だという。主催者側の関係者は、「自民党は失点さえなければ勝てると踏んでいるので、盛り上げたくないのでしょう」と話した。

<picture>国会議事堂(C)日刊ゲンダイ</picture>

         国会議事堂(C)日刊ゲンダイ

 昨今の情勢を見ると自民党がそう考えたとしても不思議ではない。仮に、その推測が本当だとして、自民党が悪いのか? そう思わせる我々有権者が悪いのか? 間違いなく後者だろう。

 こうした中で、政府の衆院議員選挙区画定審議会が、1票の格差を2倍未満に収めるための小選挙区の区割り見直し案を勧告した。これによって、東京、神奈川など5都県で10増、宮城、和歌山、山口など10の県で10減となる。

 もともと自民、公明両党が議員提案したものだが、後に減となる県が明らかになると自民党内から激しい反発が出たと報じられている。山口県、和歌山県などは有力議員の地元だけに、わかりやすい反応だ。

 衆議院選挙において1票の格差を2倍未満におさえることは重要だ。有力政治家のために制度があるわけではない。一方で、1票の格差を是正する中で、結果的に地方の衰退を加速させる恐れがあることも否定できない。

 私は、その部分を埋める役割を参議院に持たせるべきだと考えている。現状では、参議院にも1票の格差の是正を求める考え方となっている。最高裁もそれを命じている。本当にそれでいいのか? この点を考え直した方がいいというのが私見だ。

 ■アメリカではどうしてる?

 ここで、別の国の例を見てみたい。100万余が2人を選ぶモンタナ州と約4000万人が2人を選ぶカリフォルニア州。これはアメリカの上院議員のケースだ。その1票の差は数倍などというレベルではない。桁が違う。

 アメリカも下院議員の区割りは国勢調査に基づいて目まぐるしく変わる。日本の衆院に近い下院では有権者の平等が重視されているからだ。しかし制度的に参院に近い上院では、人口の多少にかかわらず各州2人の選出だ。それを見直す動きがあるとは聞かない。民意をストレートに反映させる下院と、大所高所からものを考える上院とで議会を構成するという考えなのだろう。

 日本も、そうした衆参での役割分担を検討してもいいのではないか? 民意を反映させる衆院と民意から距離をおいて日本全体に目を向ける参院という役割分担を明確にしてはどうだろうか?

 今回の選挙を、各党の主張を見るだけでなく、参議院というものの機能を考える機会にしたい。例えば、疑惑を指摘され雲隠れする衆議院議員がいる。もちろん、国会議員の身分は守られねばならないが、例えば、参議院には衆議院議員の身分を剥奪する権限を与えることはあり得るかもしれない。もちろん、その前提として参議院議員は政党の枠組みを超えて日本全体を考える役割を担うといった規定も必要だろう。

 盛り上がりに欠けるとされる今回の選挙。ぜひ、そうした国会のあり方も含めて考える機会にしたい。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。 tateiwa@infact.press 

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース・連載・「ファクトチェック・ニッポン!」】  2022年06月22日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック・ニッポン!・06.15】:那覇軍港にオスプレイが3機飛来 なし崩し的に米軍の活動範囲が広がっている

2022-06-29 06:31:30 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック・ニッポン!・06.15】:那覇軍港にオスプレイが3機飛来 なし崩し的に米軍の活動範囲が広がっている

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック・ニッポン!・06.15】:那覇軍港にオスプレイが3機飛来 なし崩し的に米軍の活動範囲が広がっている

 6月に入り、再び沖縄に入った。雨天だったが、私には沖縄で欠かせないルーティンがある。那覇軍港周辺のジョギングだ。那覇市の中心部から500メートルと離れていない。周辺を走るコースだ。

<picture>(撮影)筆者</picture>

           (撮影)筆者

 6月7日、その軍港に巨大なコンクリートの壁が出現していた……と思ったら、米軍の輸送船「グアム」だった。共同利用が認められている海上保安庁の大型巡視船が小さく見える。

 周辺に迷彩色の米軍車両が並んでいる。これから積み込まれるのだろう。新たに運び込まれた車両は既に上陸し北部の海兵隊施設に運ばれているはずだ。この軍港にはこうした軍用車両以外にも、米軍関係者のための生活品などが運び込まれる。それらは米軍が契約した民間の大型貨物船で持ち込まれ、米軍施設内の店内で売られる。つまり沖縄の米軍のほか、米軍人の家族を含む関係者の生活を支える拠点が、那覇市の中心部の目と鼻の先に広がっている。

 その「壁」を横目にさらに走っていると、航空機3機が姿を現した。オスプレイ(写真)だ。地元の琉球新報(以下、新報)によると、前日の6日午前に飛来して着陸したという。新報の取材に対して、在沖米海兵隊は「船舶に積み込むため」と説明したというから、「グアム」に積み込むのだろう。

 オスプレイは垂直に離着陸ができる航空機だ。那覇市の中心部をかすめて飛び、軍港の真上で着陸したということか。この飛来を発見したのは新報の幹部だった。本人から、「屋上でたばこを吸っていたらオスプレイが那覇軍港に着陸したので、すぐに編集局に電話をした」との話を聞いた。新報の社屋は那覇市役所の道向かいで、商業施設や役所が集中する中心部だ。そこにオスプレイが飛んできて着陸したのだから、取材経験豊富な元記者が驚いたのも無理はない。

 新報によるとオスプレイの着陸は21年11月にもあり、これが2度目だという。そのたびに米軍は「5.15メモ」に準拠していると説明するという。「5.15メモ」は、沖縄の本土復帰時に米軍施設の使用目的を定めた取り決めだ。そこでは那覇軍港は「港湾施設および貯油所」とされている。新報によると、米海兵隊が当初示していたオスプレイの活動帯には、那覇軍港は含まれていなかったという。なし崩し的に米軍の活動範囲が広がっていると読むべきだ。那覇軍港は沖縄の空の玄関である那覇空港とも近い。那覇市が「市民県民をはじめ多くの観光客などの安全性を脅かすもので到底容認できない」と反発したのは当然だろう。

 私は米軍取材でオスプレイに何度か乗っている。水平飛行から垂直降下に切り替わる時に機体が揺れてヒヤリとしたことがある。事故も起きている。特殊な能力ゆえに危険性が指摘されている。那覇軍港の返還は既に日米間で合意しているが、代替地を求める米軍の要望が足かせとなって実現していない。しかし、沖縄県内には強襲揚陸艦や原子力潜水艦が接岸する米軍港が別にある。米軍の要望よりも優先すべきは、住民の安全なのは言うまでもない。

 ※コラムへの感想や意見は以下のアドレスへ。◎:tateiwa@infact.press

 

立岩陽一郎
 ■立岩陽一郎 ジャーナリスト

 NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

 元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース 政治・経済 【政治ニュース・連載・ファクトチェック・ニッポン!】  2022年06月15日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ファクトチェック】:上場企業社長「必ず1億円をもらう」 細田衆院議長の発言は誤り

2022-06-04 06:00:00 | 【報道=事実に裏打ちされた報道、ファクトチェック(事実検証)・フェイク(偽...

【ファクトチェック】:上場企業社長「必ず1億円をもらう」 細田衆院議長の発言は誤り

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ファクトチェック】:上場企業社長「必ず1億円をもらう」 細田衆院議長の発言は誤り

 細田博之衆院議長が5月10日、東京都内で開かれた自民党議員のパーティーのあいさつで国会議員の定数増を主張した際、上場企業の社長は役員報酬として「必ず1億円をもらう」と発言した。しかし、上場規定などには、社長の報酬を1億円以上とする内容はなく、この発言は誤りだ。細田氏は毎日新聞の指摘を受け、発言を事実上修正した。(ファクトチェックの判定基準)【賀有勇】

ファクトチェック誤り

 細田氏は「いったいいくら歳費をもらっていると思いますか。議長になってもね、毎月もらう歳費は100万円しかない。『しか』と言うと怒られちゃうけどそんなにもらっているのかと言うけど、会社の社長は1億円は必ずもらうんですよ。上場の会社は」と発言した。

衆院本会議に臨む細田博之衆院議長=国会内で2022年4月14日午後1時3分、竹内幹撮影

 この発言が報道されると、直後から疑問の声があがった。毎日新聞の読者窓口「愛読者センター」にも5月12日に「ファクトチェックでこの発言がいかにおかしいか明らかにしてほしい」と要望が寄せられていた。

 株式上場などの総合サービスを行っている日本取引所グループ(JPX)に問い合わせると、新規上場や上場維持のための規定に、社長の報酬を1億円以上と定める内容はないと回答した。

 一方、金融商品取引法は、年間1億円以上の報酬を受け取る上場企業の役員名と報酬額の開示を義務づけている。しかし、「1億円以上の報酬をもらえるのかどうかは各企業の判断」(金融庁)であるため、細田氏の発言のように上場企業の社長が「必ず1億円をもらう」ことを意味しているわけではなかった。

 毎日新聞の指摘を受け、細田氏の事務所は「ことばの弾みで言ってしまった。『1億円もらうこともある』という趣旨だった」と電話で記者に回答し、発言を事実上修正した。

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 元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【ファクトチェック】  2022年06月04日  06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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