路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説①】:3・11から12年 つながりが生きる力に

2023-03-12 06:59:30 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【社説①】:3・11から12年 つながりが生きる力に

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:3・11から12年 つながりが生きる力に 

 福島から娘たちを避難させた選択は間違いではなかったと、無事に成人して安堵(あんど)している。その一方、自分たちだけが逃げ出したような負い目から逃れられない−。
 
 
 東京電力福島第一原発事故からの十二年は、今は京都市に住む団体職員の高木久美子さん(56)=写真=にとって、葛藤の渦の中で過ごした時間でもありました。
 
 事故が起きた二〇一一年三月十一日、原発から五十キロのいわき市に家族五人で暮らしていた高木さんは、同居する実母と小学生の二人の娘を出身地の秋田に避難させ、夫婦はいわきに残りました。
 
 でも夫は娘たちの長期避難に反対でした。娘たちは九カ月後、いわきに戻りますが、高木さんは放射線量を気にしてばかりの生活に疲れてしまい、震災翌年に娘二人を連れて京都に移ります。
 
 災害救助法に基づいて福島県が原発避難者に無償提供し、京都市が用意した公営住宅でした。京都に知る人がいなくても娘たちの命と健康を守りたい一心でした。
 
 つらかったのは国や東電が福島の人々を、避難指示区域の「内」か「外」かで選別したことです。
 
 高木さんら区域「外」の人に母子避難が多いのは、東電からわずかな賠償しかなく、夫は妻子の避難生活を支えるため地元に残って働かざるを得ないためです。いわきの夫と二重生活になった高木さんも仕事を必死で探しました。

 ◆自主避難の葛藤の中で

 京都では放射線の心配から解放されましたが、夫との別れが待っていました。
 
 「一緒に避難を」と説得しましたが、夫は「そこには四十歳すぎの男に仕事はない」。夫婦の溝は埋まらず、避難の翌年、離婚に至ります。父親と会えないことは娘たちを不安定にし、不登校になった次女は「お父さんに会いたい」と言って泣きました。
 
 いわきの家は夫婦で働いて建てた家でした。家を出るときに持ってきた家族写真には、娘たちと若い母親の自分が写っています。撮ったのは夫…。家族と離れる夫のつらさも、今なら分かりますが、原発事故は思いやりも正気も奪い、多くの家族に苦悩と離散をもたらしました。
 
 「事故さえなかったら、今も家族は一緒だった」。高木さんの胸には、抜けない悔恨のとげが刺さったままです。
 
 国と東電は原発事故の痛みや犠牲の多くを被災者個人に押しつけてきました。「反省」を口にはしますが、責任逃れの言葉の陰に隠れてしまっています。
 
 原発事故避難者の取材をしていると、区域外避難者の離婚をよく耳にします。しかし、国と東電は自己責任で避難した人たちを「自主避難者」と呼び、まともな賠償をしてきませんでした。あちらこちらで発せられる家族の痛みなど聞こえないかのようです。
 
 京都に来てからの高木さんは行動する人に変わりました。
 
 一三年、京都府に自主避難した人たち五十七世帯百七十四人が国と東電に計八億四千万円余の損害賠償を求めた集団訴訟の原告に加わりました。一八年春、京都地裁は国と東電の責任を認め、一部原告を除いた百十人に計約一億一千万円の賠償を命じました。国の賠償基準を超える内容で、審理は大阪高裁で続いています。
 
 原発賠償裁判で勝ち取った判決は、国が昨年、九年ぶりに着手した原発賠償基準(中間指針)の見直しにつながりました。
 
 ただ、避難指示区域外の避難者も賠償の増額対象ですが、その額はごくわずかです。区域内賠償の増額に主眼が置かれ、「区域内外で格差が広がる恐れ」を指摘する専門家もいます。
 
 国は被災者を分断するような政策はやめ、区域外の人々にもまともな賠償をすべきでしょう。

◆寄り添い合う仲間得て

 高木さんは「風評被害をまき散らすな」と非難され、福島では放射線被害を語れませんでした。避難先での生活費が続かず福島に戻った母子も見てきました。
 
 原発事故で失った多くのものを私たちは忘れてはなりません。だからこそ、原発事故の問題を福島に閉じ込めず、広く問いかける必要があるのです。そのためには人と人とのつながりを太く、強くしたい。それが、原発事故の被災者にとって未曽有の核災害を乗り越え、生きる力になるはずです。
 
 寄り添い合える仲間を得て、京都に根を下ろして生きると決めた高木さん。表情に明るさが戻り、力を込めてこう語るのです。「次世代に対する責任として福島の人の分まで京都で声を上げたい」と。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2023年03月10日  07:42:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。


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