【社説①】:多死社会 故人を円滑に葬送できるよう
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:多死社会 故人を円滑に葬送できるよう
高齢化が進む日本は、出生数より死亡者数が圧倒的に多い「多死社会」を迎えている。故人を大切にしながら、円滑に葬送ができる環境を整えていくことが重要だ。
2023年の全国の死亡者は159万人を超え、過去最多を更新した。00年の1・65倍に上る。50年頃まで、年160万人を上回る高水準で推移する見通しだ。
これに伴い、亡くなった人をすぐに火葬できない「火葬待ち」が深刻になっている。日本では死亡者の大半が火葬されるが、施設の整備が追いついていない。
墓園事業者を中心に作る公益社団法人「全日本墓園協会」が、火葬場などに聞いた調査では、火葬待ちの最大日数は「6~8日」が約3割で、最も多かった。
かつて、これほど待つことは少なかったという。多死社会に対応できているとは言えまい。
火葬を待つ間は、遺体を安置できる斎場などを活用することになるが、料金が1日あたり数万円かかるケースもある。
地元の市町村に公営の火葬場がない場合は、他の自治体や民間が運営する火葬場に頼るしかない。ただ、他の自治体では、地元住民より料金が割高で、利用時間が制限されることが少なくない。
自治体などによる斎場や火葬場の新設、更新が急がれるものの、「迷惑施設」として周辺住民から反対されることが多いという。
火葬が滞るようでは、故人の尊厳を損なうだけでなく、遺族の金銭的、心理的な負担も増すことになる。自治体は、施設の新設や拡充について、住民に丁寧に説明して理解を得ていく必要がある。
高齢者の死亡数が増えたのは、戦後の第1次ベビーブーム期に生まれた世代が高齢化したことが大きな要因だ。高度成長期に地方から都市部に移り住んだ人も多く、特に首都圏などで目立つ。
そうした自治体では、近隣自治体との広域連携で、火葬場を整備するなどの動きが出ている。
1990年代以降、共同で斎場兼火葬場を運営する千葉県の船橋など4市は、2019年に2か所目の施設を作った。公営の火葬場を持たない埼玉県の朝霞や志木など4市は、共同で整備する意向だ。そうした流れを加速させたい。
既存施設の運用を効率化することも課題となる。横浜市は1日の火葬炉の利用回数を増やしたり、従来は縁起が悪いとされてきた「友引」の日にも稼働させたりしている。地域の実情に合わせて、工夫を重ねてもらいたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年03月31日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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