【検証 万博の現在地】:<1>建設費 輪をかけ膨張…大屋根整備、人件費も高騰
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【検証 万博の現在地】:<1>建設費 輪をかけ膨張…大屋根整備、人件費も高騰
3月25日、名古屋市の大同大学で建築を教える准教授の米澤隆(41)は研究室にこもり、図面を見ながら頭を悩ませていた。
手がけるのは、2025年大阪・関西万博会場内のトイレだ。日本国際博覧会協会(万博協会)が、42歳以下の若手建築家を対象に設計委託先を公募した20施設の一つ。便器は60あり、奥行き13メートル、幅40メートルの敷地に、鉄骨や鋼板で約20の部屋を組み立てる。万博閉幕後を見据え、分解して再利用しやすいデザインにした。
2025年大阪・関西万博の費用には、厳しい視線が向けられている。
会場建設費は昨年11月、当初の1・9倍の2350億円に膨らむことが決まった。増額は2回目だ。このうち3分の2の約1570億円は、国と大阪府・大阪市が公金で支出するため、国民負担が増す。残る3分の1は経済界が負担する。
運営費も今年2月、当初の809億円から4割増の1160億円に増額された。運営主体の日本国際博覧会協会(万博協会)が入場料収入で大半を賄う計画だが、赤字になれば国や府・市が公金で穴埋めする事態も想定される。
市の人工島・夢洲に整備される会場施設で特に批判が集中したのが、万博のシンボル・環状の大屋根(リング)だ。建設費は344億円で、1周約2キロの世界最大級の木造建築物となる。政府が国会で「日よけになる」と説明すると、野党から「世界一高い日傘」などと指摘された。
万博を誘致していた当時、会場の計画は現在と全く違っていた。多様性を表現するため中心は設けず、パビリオンが幾何学模様のように入り組んで配置されていた。会場内5か所に「空」と名付けた大広場を設け、屋根のついた通路で結ぶ予定だった。これが20年12月に策定された基本計画で、リングに変更された。
会場デザインプロデューサーで建築家の藤本壮介(52)は「当時、米国ではトランプ大統領が就任していた。『非中心』という言葉は『分断』を象徴することになりかねない。(リングによって)多様なものがつながるというメッセージを打ち出したかった」と説明する。
以前の屋根の建設費は180億円で、リングへの変更で164億円増額された。会場建設費全体でも1250億円から600億円増えた。1回目の増額だ。
会場計画の変更は経済産業省や府などの出向者らでつくる万博協会の一部の幹部らで検討された。理事には書面で同意が求められ、事前に理事会で議論された形跡は確認できない。ある協会幹部は「20年中に計画を公表するため、承認を急いだ」と説明する。
万博協会理事で関西経済連合会会長の松本正義(79)は昨年11月の記者会見で、リングについて「なんでこんなもん作るんやと思った。経済界が『イエス』と言ったかは記憶にない」と不満を漏らした。
費用膨張の背景には、こうした万博協会の閉鎖体質や説明不足があるとの見方は強い。増額を繰り返した結果、会場内に設けるトイレの予定価格も引き上げられないような切迫した状況を招いた。
費用を適正に管理するため、経済産業省は今年1月、監査法人の代表や弁護士ら7人でつくる第三者委員会を設置した。万博協会も運営費をチェックする内部組織を作った。
万博相の自見英子は2月の国会答弁で、「無用な国民負担を生じさせないよう、不断の見直しに全身全霊で努める」と強調した。
会場建設費2350億円のうち、契約済みは2月末時点で1628億円。予備費の130億円を除くと、残りは592億円で、既に交わした契約を変更して行う追加工事が多くなる見通しだ。実際、昨年11月末から今年2月末までに会場建設費関連で支出が決まった120億円のうち、85%の102億円が植栽や舗装などの追加工事だった。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社会 【話題・2025大阪・関西万博・連載「検証 万博の現在地」】 2024年04月09日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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