【社説】:藤井聡太新名人 群抜く進化、棋界に輝く
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:藤井聡太新名人 群抜く進化、棋界に輝く
まぎれもない、異次元の才能には驚くほかない。
将棋界で最も歴史のある名人戦で、挑戦者の藤井聡太六冠が渡辺明名人を破って、初めてタイトルを獲得した。
20歳10カ月での名人就位は、谷川浩司17世名人の21歳2カ月の最年少記録を40年ぶりに更新した。七冠制覇も、羽生善治九段が成し遂げた25歳4カ月を大幅に上回った。まさに快挙ずくめである。
破竹の勢いを感じさせる。どこまで強くなるのか、想像もつかない。名人獲得をお祝いするとともに、さらなる高みを目指してもらいたい。
棋界には名人を含め、竜王、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖の八つのタイトル戦がある。藤井七冠が保持していないのは既に王座だけになった。
タイトルを防衛する一方で、10月に予定される永瀬拓矢王座への挑戦権も得られれば、前人未到の八冠全ての制覇も現実味を帯びてくる。
才能はプロ入り当初から大きな注目を集めてきた。最年少の14歳2カ月でデビューすると、あれよあれよという間に29連勝した。
17歳11カ月で初タイトルとなる棋聖を獲得し、以降も着実に実力を伸ばしてきた。タイトル戦の通算成績は53勝13敗。名だたる棋士との対戦で8割超えは、すさまじい勝率と言える。
過去の棋譜を集め、自分で駒を動かし、研究を重ねた昭和以前の時代は遠くなりつつある。今は、人工知能(AI)を駆使して膨大なデータを生かす戦法の分析が主流だ。その結果、棋士の実力も大きく底上げされている。藤井七冠もAI抜きには、ここまでたどり着けなかったかもしれない。
藤井七冠の持ち味は、尻上がりに優位を築いていく終盤の強みという。まずい手が見当たらないのに「いつの間にか負かされてしまう」。一流の棋士でさえ嘆く指し回しは、幼い頃から取り組んできた、詰め将棋のたまものだろう。
最近は序盤の指し手も進化している。ただでさえ隙のない棋力を、さらに充実させているようだ。
当初は分の悪い相手もいた。豊島将之九段にはプロ入り直後に6連敗した。しかし、初勝利を挙げて以降は16勝5敗としている。谷川17世名人が「進化は他の棋士の倍以上。全ての変化を読み切ろうとするすごみさえ感じる」と藤井七冠の強さを称賛するのもうなずける。
名人位獲得後の会見で、藤井七冠は「名人は特別の重みのある称号。それにふさわしい将棋を指していきたい」と述べた。いつもの慎重かつ丁寧な言い回しには、20歳にして既に王者の風格さえ感じさせる。
とはいえ、他の棋士もこのまま黙ってはいられまい。巻き返しの方策を練り、雪辱を期してほしい。知力を尽くした戦いが進めば、棋界はさらに盛り上がることだろう。
将棋を始めたばかりの6歳の誕生日には「しょうぎのめいじんになる」と書いた。ラジオに出演した小学4年の時には「名人をこす」と誓っている。
夢をかなえた藤井七冠が次に目指すものは何だろう。棋界にどんな足跡を残していくのか、わくわくする。私たちはまさに歴史の目撃者になっている。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月04日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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