【余禄】:「木の下闇茂りあひて…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【余禄】:「木の下闇茂りあひて…
「木(こ)の下闇茂りあひて、夜(よ)る行(ゆく)がごとし。雲端(うんたん)につちふる心地して」。薄暗い山道を歩き、山形・尾花沢(おばなざわ)に向かう「奥の細道」の記述である。芭蕉が心細い気持ちを示した表現は唐の詩人、杜甫(とほ)の詩を踏まえている
▲つちふるは砂漠から舞い上がった黄砂が空から降ることで、杜甫は長安の都で「雲端に霾(つちふ)る」と詠んだ。黄砂が堆積(たいせき)した黄土高原では日常の光景だったろう▲昔から日本にも飛来した。「霾(つちふる)」は春の季語だ。「黄塵万丈(こうじんばんじょう)」が誇張ともいえない大陸と、細かな砂粒になる日本とで実態は異なるが、季節感は共有されてきた
▲日本各地で黄砂が観測され、空がかすんだ。「霾晦(よなぐもり)」の季語が当てはまる光景だ。黄砂でなく、「沙塵暴(さじんぼう)」と呼ぶ北京では視界が1キロ未満になった。それよりはましだが、花粉症に似た症状が出たり、洗濯物や車に積もったりするから迷惑には違いない。汚染物質の影響も懸念される
▲近隣トラブルの軽重は親しさの度合いに相関するという。昨今の日中関係を考えれば、眉をひそめる人が増えても不思議ではない。ただ、黄砂に似た現象はサハラ砂漠周辺など世界各地にある。土壌を豊かにし、海のプランクトンを育む地球の生態系の一部ともいわれる
▲中国が世界気象機関(WMO)に黄砂の観測情報を提供するようになって予測の精度が上がったそうだ。日中の共同研究も進められてきた。黄砂とどう付き合っていくか。温暖化と同様に国際協調が欠かせない。
<ジンギスカン走りし日より霾れり>有馬朗人
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【余録】 2023年04月14日 02:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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