《社説①・12.16》:サ高住での不正 背後の構造的問題に目を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.16》:サ高住での不正 背後の構造的問題に目を
飯山市のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に暮らしていた70代男性が、預金8千万円余を元所長らに横領されたとして運営会社などを提訴した。
男性は2017~21年に入居。認知症で意思疎通が難しく、近くに親族もおらず、複数の預金口座の通帳などを施設に預けていた。
運営会社は請求棄却を求めて争う方針だが、元所長は横領をおおむね認めているという。県は立ち入り検査を行う方針だ。
この問題の背後に、支援や介護の必要な高齢者の住まいを巡る国の政策の貧弱さがある。構造的な課題にも目を凝らしたい。
高齢になって自宅での暮らしが難しくなった時、住み替え先の候補として挙がるのが、サ高住と有料老人ホームだ。
サ高住はおおむね60歳以上向けの民間の賃貸住宅。バリアフリー構造で、「安否確認」と「生活相談」を提供する。基本的には自立や要介護度の低い人が対象だ。
有料老人ホームも多くは民間の運営で、サービスや費用は個々に異なる。介護付き有料ホームもあるが、要介護度が重くなると退去を求められる施設もある。
中重度の要介護者の「終(つい)のすみか」として本来想定されるのは、特別養護老人ホームだ。介護保険施設で職員の配置も手厚い。
だが入所待機者が多い上、厚生労働省は15年度に入所を「要介護3以上」に限った。介護保険財政の抑制のため、要介護度の低い人は在宅へ―との方針だ。
ところが地域の在宅介護の基盤は細っている。サービスの公定価格である介護報酬は低めに抑えられ、現場は低賃金による人手不足に苦しんでいる。今春には訪問介護の基本報酬が切り下げられ、事業者の撤退に拍車がかかった。
在宅では暮らせず、特養には入りたくても入れない。サ高住や有料ホームが、そうした要介護者の“受け皿”となっている側面がある。やむを得ず施設側が認知症の入居者らの財産管理をするケースも少なくない。
施設側の財産管理を外部がチェックする仕組みはない。認知症や身寄りのない高齢者の財産管理や意思決定支援として成年後見制度があるが、周知は進んでいない。
今回、問題が発覚したのは市地域包括支援センターの的確な対処によるところが大きい。日常的に高齢者と関わるケアワーカーや支援センター、行政の対応が鍵になる。現場の人手不足の解消とサービス基盤の立て直しが急がれる。厚労省の責任は重い。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月16日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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