【時論・09.10】:自らの責任と向き合え/兵庫県知事尋問と進退
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時論・09.10】:自らの責任と向き合え/兵庫県知事尋問と進退
斎藤元彦兵庫県知事のパワハラ疑惑などを告発する文書を配布した元県幹部の男性が公益通報者として保護されず、懲戒処分を受けた問題で、県議会調査特別委員会(百条委員会)は斎藤氏や元副知事、専門家らの証人尋問をした。斎藤氏は2回目の尋問。「文書は誹謗(ひぼう)中傷性が高く、処分の手続きなどに瑕疵(かし)はないと考える」と述べた。
しかし公益通報の専門家2人はそろって違法性を指摘。これまでの尋問などを通じ、斎藤氏が文書を入手してすぐ元副知事ら側近を集め、匿名だった告発者を徹底的に調査するよう指示するなど詳しい経緯が明らかになり、処分ありきで自身への告発つぶしに突き進んだ疑いが強まった。
百条委は企業などから贈答品を受け取ったとされる「おねだり」疑惑も含めて年内に調査報告書をまとめるが、斎藤氏の責任を問う声は日増しに高まっている。日本維新の会は当初、3年前の知事選で推薦した斎藤氏を擁護したが、辞職と出直し選挙を申し入れた。やはり推薦した県議会最大会派の自民党も近く辞職を申し入れる見通しだ。他の会派も同調する。
県の対応によって公益通報制度が大きく揺らぎ、男性は「死をもって抗議する」というメッセージを残して亡くなった。衝撃と混乱は収まらない。斎藤氏は自らの責任と正面から向き合うべきだ。身を引く決断をする以外に道はないだろう。
男性は3月、パワハラなど7項目の疑惑を列挙した告発文書を報道機関などに配布し、4月に入って県の公益通報窓口に通報した。斎藤氏は文書を3月20日に知人から手に入れ、翌日には元副知事らに告発者の特定を指示。25日に元副知事らが男性を追及し文書の作成を認めさせた。
27日の記者会見で、斎藤氏は「うそ八百」「公務員として失格」と激しく非難。5月、停職3カ月の懲戒処分にした。人事課が調査し「誹謗中傷」と判断したから問題ないと言う。だがトップの意向が影響したのは否定できないだろう。
告発者を不利益な扱いから守る公益通報者保護法は、保護強化のため2020年に改正。改定された消費者庁の指針は「通報者の探索を防ぐ措置を徹底することが重要」と指摘。「事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる」と定める。
だが告発された当人の斎藤氏自ら「犯人捜し」を指示した。「真実相当性がない」とし、公益通報に当たらないと繰り返すが、百条委の全職員アンケートで4割以上がパワハラを見聞きしたと回答。尋問でも告発と符合する証言が相次いだ。
人事課が調査を尽くしたのか疑問が残る。百条委で専門家は「通報者保護法に違反する」とし、斎藤氏の公務員失格発言について「いわば公開パワハラ。許されない」と述べた。また、もう一人も、処分が無効となる可能性が高いと見解を示した。斎藤氏はなお「訴訟になっても耐えられる」と強気の姿勢を崩していないが、説得力に乏しいと言わざるを得ない。
斎藤氏のこれまでの言動からは公益通報の視点がすっぽり抜け落ちているが、それは制度に通報者保護の実効性がまだ備わっていないことの裏返しだ。官公庁でも企業でも通報したことで不利益を被る例は後を絶たない。制度の立て直しを急ぐ必要がある。
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