【卓上四季・05.01】:型通り
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季・05.01】:型通り
昨年まで最年少名人獲得の記録を保持した谷川浩司さんは対局中、めったに膝を崩さないことで知られる。「正座をしないと、いい将棋が指せません」。理由を尋ねた作家高田宏さんにそう答えたそうだ
▼身心一如(しんしんいちにょ)というものだろう。身体のかたちの取り方一つで深い思想に達するような感覚があるとは高田さんの実感である
▼曹洞宗の開祖道元禅師の教えに「坐禅(ざぜん)は則(すなわ)ち大安楽の法門なり」という1行がある。修行によって心身一体化の境地に達すれば、人の力を最大限に発揮できるという(「道元を語る」かまくら春秋社)
▼解剖学者養老孟司さんによると、「型」とは身体の扱いや所作のことであり、いつの間にか動き出して終わっているような意識レベルのこと。谷川さんの棋力も「型」に根ざしたものだったのかもしれない
▼曹洞宗大本山の一つ、総持寺の祖院は石川県輪島市にある。能登半島地震で国の有形文化財が半壊するなど大きな被害があった。門前町の商店街も被災。2007年の地震からの完全復興を宣言してから3年足らず。地域の落胆と絶望は計り知れない
▼道元が日常の行動を細かく定めたのは心身の分かち難さを理解していたからだ。型の完成には鍛錬が不可欠。内実を伴わなければ「型通り」に終わるもの。それは、発生から4カ月を経てなお倒壊家屋の解体すらままならぬ被災地の復興支援にも言えることである。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2024年05月01日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます