北海道・知床半島沖の観光船「KAZU 1(カズワン)」沈没事故は、23日で発生から8カ月となった。乗員乗客26人のうち、20人の死亡が確認され、6人がいまだ行方不明のままだ。国土交通省では5月に有識者14人からなる事故対策検討委員会を立ち上げ、22日までに10回の討議を積み重ねてきた。

 そんな中、今年7月、岩手県宮古市では市が運営する観光遊覧船「宮古うみねこ丸」が就航した。業務最優先事項として「安全」を掲げている。

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 宮古うみねこ丸は今年7月17日、宮古市が運営管理する観光遊覧船として就航した。今年4月23日の北海道知床沖で沈没した観光遊覧船「KAZU 1」と同じ総重量19トンの新造船だ。

浄土ヶ浜周辺海域を巡る遊覧船「宮古うみねこ丸」(宮古市提供)

  宮古うみねこ丸のホームページ(HP)には「安全方針」として「安全は全てに優先する」「安全なくして事業の繁栄、継続はあり得ない」「法令遵守の徹底」が掲げられ「運航の安全に関する情報については積極的に公表する」としている。

 市産業振興部観光課もてなし観光係の松浦宏隆係長は「平水区域での航程30分の遊覧船ですが、意思統一しているのは危険を察知する天候では絶対に運休にするということ」と話し「お客さまの命が第一なので勇気をもって欠航にします」と説明した。

 知床遊覧船事故対策検討委員会は5月から月1回のペースで今年は10回の討議が持たれた。宮古市観光課では国交省で検討委の討議結果が発表されるたびに全文書をその日のうちに回覧し、安全基準への対策は常に対応してきた。

 元々、浄土ヶ浜うみねこ丸として58年の歴史を持ち、昨年1月に終了した。同7月から新生「宮古うみねこ丸就航」に向けてクラウドファンディングを募り今年3月までに341件総額2135万5379円の寄付が集まった。横揺れに強いカタマラン(双胴船)タイプで新造した。

 浄土ケ浜うみねこ丸時代の事業者でもあるバス会社「岩手県北自動車」に業務委託。宮古営業所の佐々木隆文事業部長は「退役したベテラン船長が指導役となって、今も週1回は後進指導に来てくれている」と人材育成に力をいれる。安全面でも「緊急避難できる港は確保できているし、常に業務用無線だけではなく携帯電話や無線も用意。毎日、二重三重の連絡手段がとれるようにしている」と話す。

 さらに佐々木さんは「ないとは思うが万が一船内で火事が発生した場合、デッキ上部に避難できるように船内各所カメラを設置していて船長の待機する操舵(そうだ)室のモニターにつながっている」と説明し「船の点検も含め、常に緊張感を維持して運航している。それが遊覧船の使命と感じている」ときっぱりと言い切った。【寺沢卓】

 ◆<知床遊覧船事故の発生以降のできごと>

 ▼4月23日 北海道知床沖で小型旅客船「KAZU 1(カズワン)」が航行中に浸水し沈没。

 ▼5月11日 国交省が第1回・知床遊覧船事故対策検討委員会第1回を招集

 ▼7月14日 検討委が中間とりまとめを公表。「必要な対策」47項目を挙げる

 ▼8月10日 ウトロ港-知床岬間海域で携帯電話のエリア内でも電波受信できないことが発覚。

 ▼9月30日 日本小型船舶検査機構は小型旅客船への検査方法を改正。「船体ドアやハッチへ射水試験を実施して規定量以上の漏れのない確認」「航行区域の避難港設定から砂浜除外し港湾と漁港のみ」など8項目

 ▼11月1日 国交省は法定無線設備から携帯電話を一部を除き除外。