【社説①】:五輪招致調査 不信の声にも耳傾けよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:五輪招致調査 不信の声にも耳傾けよ
2030年冬季五輪・パラリンピック招致を目指す札幌市は、先月実施した意向調査の詳しい結果を発表した。
市民対象の郵送調査を年代別に見ると、30代以上より20代以下の若年層の方で賛成派が目立ち、50%台の半ばから後半だった。
秋元克広市長はこの結果を踏まえ「未来を担う若い世代から賛同の声を得た」と招致活動をさらに促進する考えを示した。
だが、公費投入などに関する市民の疑問に、市は十分な説明を尽くしたとは言い難い。
見逃せないのは、設問設定が賛成の回答を誘導しているのではないかとの指摘が出ていることだ。
それでも回答者全体では賛成派が52%と半数をわずかに上回っただけだ。反対派も38%と4割近くおり、むしろ五輪招致への根強い不信感の表れとも言える。
札幌市はこうした声にも耳を傾け、丁寧な説明に努めるべきだ。
反対理由は「他の施策に注力してほしい」(20%)が最多で、「多額の予算が必要」(19%)、「災害や感染症など不測の事態への対応が不安」(13%)と続いた。
地元での五輪開催を待ち望む賛成派の声も理解はできる。
しかし、市民が暮らしを脅かすコロナ禍や今冬の大雪被害を念頭に、限られた予算の使途として招致より生活の安全安心の確保を求めている姿も無視はできない。
昨年の東京大会での経費の増大や、コロナ下でも国際オリンピック委員会(IOC)が開催可否を決める権限を握る構造があらわになったことも影響していよう。
調査では「運営費に原則税金は投入しない」といった市の考えや開催意義を前向きに記した質問を5問続けた上で、賛否を聞いた。
こうした調査では予断を排除するため、賛否や支持の有無を冒頭で尋ねるのが一般的だ。今回のやり方に、客観的な民意の反映なのか疑問視する専門家もいる。
北海道新聞社が今月、札幌市民を対象に実施した世論調査では反対派57%、賛成派42%だった。賛否とその理由だけを尋ねた。市は結果を謙虚に受け止めるべきだ。
30年大会に向けて米ソルトレークシティーとカナダ・バンクーバーなども準備を進める。両国の地元の世論調査では、いずれも札幌より高い支持率を得ている。
秋元市長は招致機運の醸成に向け全国的な運動を進める新組織の設置を発表した。だが大切なのは、まず五輪開催の「負の側面」も含めた実情を示すことだ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月17日 05:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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