【記者コラム・等身大の中国】:親子引き裂く教育差別 中国・出稼ぎ世帯の苦境 河津啓介・中国総局長
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【記者コラム・等身大の中国】:親子引き裂く教育差別 中国・出稼ぎ世帯の苦境 河津啓介・中国総局長
中国は都市と農村の格差が大きい。しかも、都市に移り住んでも、農村出身者であることが「身分」のようにつきまとう。
「農民工」と呼ばれる出稼ぎの非正規労働者とその家族は、同じ街で暮らす都市出身者に劣る待遇を強いられる。そんな理不尽な社会構造が、何気ない都会の日常から垣間見えることがある。
中国の都市部では、保護者が登下校時に小学生を送迎するのが一般的だ。ある日の午後、北京市内の小学校に足を運ぶと、正門前で親や祖父母が下校時間になるのを待ち構えていた。校舎を出た児童たちが親の姿を見つけると、笑顔で駆け寄り抱きついていた。
そんな心温まる光景は、都会で働く農民工の多くには望むべくもない「特権」と言える。農村にいる我が子と会えるのは、年に1度の春節(旧正月)の時ぐらいだ。
◆都市と農村に戸籍の壁
出稼ぎ世帯の子どもの7割近くが父親や母親と離ればなれに暮らすというデータがある。支援団体「北京三知」のまとめによると、2020年時点の出稼ぎ世帯の児童数は1億3800万人。そのうち両親または父母の一方と同居していない人数は9409万に上る。その大半が農村に残された「留守児童」(6693万人)とされる。
親子のだんらんが奪われる原因は、1958年に導入された戸籍制度にある。都市の人口過密や農地の荒廃を防ぐため、農村から都市への移住が厳しく制限された。今も北京市のような大都市ほど、出稼ぎ世帯が医療や教育など公共サービスを受けたり、都市部の戸籍を取得したりするのに大きな困難が伴う。
農村に戸籍がある出稼ぎ世帯の子女が、都市部で公立小中学校に入る際は、親の公的社会保険の納付状況、居住年数や持ち家の有無、学歴などが問われる。高校や大学の受験にも高いハードルがある。
安定した職や住居を持つホワイトカラーと異なり、建設作業員や配達員のような非正規労働に従事する農民工が、これらの要件を満たすのは極めて難しい。やむなく子どもを農村の実家や親類に預けるしかなくなってしまう。
◆終わらぬ留守児童の悲劇
痛ましいのは、農村に取り残された留守児童が性的虐待のような事件の被害者になったり、保護者の目が届かずに事故で死傷…
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