こちらの記事の続きです。『モーツァルト』は家族の葛藤の物語でもあります。ウィーンへと旅立っていったヴォルフガングを心配しながらザルツブルクで待つ姉ナンネールと父レオポルトの姿は、ヴォルフガングが無邪気であればあるほど切ないものがありました。「魔笛」の成功で喝采を浴びるモーツァルトの姿に危うさを感じたレオポルトは、モーツァルトを戒めてザルツブルクへと帰っていってしまいます。レオポルトはヴォルフガングに愛情を注ぎ込んだのに、自分のありったけを注ぎ込んだのに親子はすれ違ったまま、レオポルトは息を引き取り永遠のお別れをすることとなりました。家族はむずかしいです、家族だからこそむずかしいです。レオポルトのやり方は必ずしも正解ではなかったのかもしれませんが、わたしたちが今モーツァルトの楽曲を耳にすることができるのは、レオポルトあってこそだと思いたい。いやきっとそうに違いないと思います。
2018年8月19日_2018年『モーツァルト』_大千穐楽https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/889dd3a4c35650fbc7b1f12056fdb5f7
「2014年公演のプログラムより モーツァルト~父と子の肖像~
こうなると、父レオポルトがどんな人物だったのかを知りたくなるのも当然だ。彼の父、つまりアマデウスの父方の祖父は南ドイツの町アウグスブルクで製本業を営んでいた。この職人の家に長男として生まれたレオポルトは幼いころから頭がよく、当地の厳格な教育で知られたイエスズ会系の学校に学び、将来は聖職者の道を歩むことを決め、周りもそれを期待した。しかし大学への進学を目前にした17歳のとき、父が他界。そうなると家業と残された母や弟や妹の生活が長男の肩に重くのしかかったのだ。レオポルトはやむなく高等学校を退学した。
しかし1年半後彼は再び聖職者の道を歩むべく、家族を捨てるようにして、ザルツブルクに向った。大学にも入学し、これで人生はうまく運ぶかに思われた。しかしかねてから宗教界に対して批判的だった彼は大学を中退し、ザルツブルク大聖堂参事の貴族の侍僕となった。やがて宮廷楽団のヴァイオリン奏者にとりたてられ、その後宮廷音楽家としての出世街道を歩んだのである。これで彼の博学ぶりの源がわかっていただけただろう。またイエスズ会系の学校は音楽や演劇などの教育にも熱心で、レオポルトは郷里にいてすでにオルガンやヴァイオリンなどをしっかりと学んでいたのである。
出世街道を歩んでいたレオポルトにとって大きな転機になったのが、息子の誕生であった。息子の才能に驚き、それを「神からの賜物」としてその才能を開花させ、世に知らしめることが自分の責務だと確信したのだ。それにしても神から授けられたこの奇跡を、神が望まれたように育てることは容易ではない。これまでのキャリアをここで止め、これからは息子のため、いや神のご意志のために、これからのキャリアをも犠牲にしなくてはならなかったからだ。
息子の才能は、父の存在をこれほどまでに揺さぶるほどに確かなものだった。息子の成長に関心を向けた瞬間に、視界からあらゆるものが消えてしまった。自分という存在が消え、息子という、この神が与えた奇跡の中に吸い込まれていってしまうのではないかという恐怖をレオポルト自身は感じたのかもしれない。しかしこの転機がもたらした人生の「亀裂」がいかに危機的であり、はかり知れず深いものであったことを、彼は後に痛いほど思い知らされる。」
自分の庇護のもとにあれば人生は間違いないというレオポルトのもとを離れていこうとするヴォルフガング。その背中を押すのがヴァルトシュテッテン男爵夫人の「星から降る金」。節目節目でヴォルフガングの前に現れるヴァルトシュテッテン男爵夫人の微笑みの裏にあるものはなんだったのか気になります。
ヴォルフガングに失望したレオポルトはナンネールの子供を「わたしはもう一人天才を育てることができます」といってコロレド大司教に引き合わせますが、ヴォルフガングの才能に気づいていたコロレド大司教は全く相手にしません。これまた切ない場面でした。
山口祐一郎さんコロレド大司教、市村正親さんレオポルト、山崎育三郎さんヴォルフガング
(東宝公式FBより転用しています)。

憲ちゃんアマデと大切な宝石箱
(劇団ひまわりの公式ツィッターより転用しています)。
終始冷ややかな表情に徹していたアマデが最後にヴォルフガングに慈愛の表情をみせて、ヴォルフガングが胸に羽ペンを刺すとヴォルフガングの膝に崩れ落ちて共に旅立っていく姿は鮮烈でした。
2018年8月19日_2018年『モーツァルト』_大千穐楽https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/889dd3a4c35650fbc7b1f12056fdb5f7
「2014年公演のプログラムより モーツァルト~父と子の肖像~
こうなると、父レオポルトがどんな人物だったのかを知りたくなるのも当然だ。彼の父、つまりアマデウスの父方の祖父は南ドイツの町アウグスブルクで製本業を営んでいた。この職人の家に長男として生まれたレオポルトは幼いころから頭がよく、当地の厳格な教育で知られたイエスズ会系の学校に学び、将来は聖職者の道を歩むことを決め、周りもそれを期待した。しかし大学への進学を目前にした17歳のとき、父が他界。そうなると家業と残された母や弟や妹の生活が長男の肩に重くのしかかったのだ。レオポルトはやむなく高等学校を退学した。
しかし1年半後彼は再び聖職者の道を歩むべく、家族を捨てるようにして、ザルツブルクに向った。大学にも入学し、これで人生はうまく運ぶかに思われた。しかしかねてから宗教界に対して批判的だった彼は大学を中退し、ザルツブルク大聖堂参事の貴族の侍僕となった。やがて宮廷楽団のヴァイオリン奏者にとりたてられ、その後宮廷音楽家としての出世街道を歩んだのである。これで彼の博学ぶりの源がわかっていただけただろう。またイエスズ会系の学校は音楽や演劇などの教育にも熱心で、レオポルトは郷里にいてすでにオルガンやヴァイオリンなどをしっかりと学んでいたのである。
出世街道を歩んでいたレオポルトにとって大きな転機になったのが、息子の誕生であった。息子の才能に驚き、それを「神からの賜物」としてその才能を開花させ、世に知らしめることが自分の責務だと確信したのだ。それにしても神から授けられたこの奇跡を、神が望まれたように育てることは容易ではない。これまでのキャリアをここで止め、これからは息子のため、いや神のご意志のために、これからのキャリアをも犠牲にしなくてはならなかったからだ。
息子の才能は、父の存在をこれほどまでに揺さぶるほどに確かなものだった。息子の成長に関心を向けた瞬間に、視界からあらゆるものが消えてしまった。自分という存在が消え、息子という、この神が与えた奇跡の中に吸い込まれていってしまうのではないかという恐怖をレオポルト自身は感じたのかもしれない。しかしこの転機がもたらした人生の「亀裂」がいかに危機的であり、はかり知れず深いものであったことを、彼は後に痛いほど思い知らされる。」
自分の庇護のもとにあれば人生は間違いないというレオポルトのもとを離れていこうとするヴォルフガング。その背中を押すのがヴァルトシュテッテン男爵夫人の「星から降る金」。節目節目でヴォルフガングの前に現れるヴァルトシュテッテン男爵夫人の微笑みの裏にあるものはなんだったのか気になります。
ヴォルフガングに失望したレオポルトはナンネールの子供を「わたしはもう一人天才を育てることができます」といってコロレド大司教に引き合わせますが、ヴォルフガングの才能に気づいていたコロレド大司教は全く相手にしません。これまた切ない場面でした。
山口祐一郎さんコロレド大司教、市村正親さんレオポルト、山崎育三郎さんヴォルフガング
(東宝公式FBより転用しています)。

憲ちゃんアマデと大切な宝石箱
(劇団ひまわりの公式ツィッターより転用しています)。
終始冷ややかな表情に徹していたアマデが最後にヴォルフガングに慈愛の表情をみせて、ヴォルフガングが胸に羽ペンを刺すとヴォルフガングの膝に崩れ落ちて共に旅立っていく姿は鮮烈でした。
