たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

雪組『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』-オンデマンド配信

2021年05月09日 23時14分10秒 | 宝塚
雪組『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』(6)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/bd6ac6467d2c5062ab5d834091a6a748

2020年3月22日(日)、東京宝塚劇場公演千穐楽

 指揮は西野淳先生、2月21日(金)に初日を迎えたものの2日間で中止、その後いったん再開できたものの数日で中止を余儀なくされ、予定されていたライブビューイングは中止、劇団は退団者のいる千穐楽だけは無観客でも上演し、スカイステージで配信しようとしていました。結果的に有観客で配信を行ったことに対して暴挙とまで書いた新聞もあった東京宝塚劇場千穐楽公演、だいもん(望海風斗さん)の退団を記念してオンデマンド配信で配信中。

 三つ揃えのスーツにコートを着ただいもん、かっこいい。薔薇の花を敷きつめてもふられるトップスター、たしかに。同じくオンデマンド配信中の大劇場公演終演後の突撃インタビューでは、デボラ@真彩希帆ちゃんに、話があるとか言わないで事前になになにの件について、ってちゃんと言ってほしい、その気になっちゃうじゃないって。だいもん主演の2015年雪組『アル・カポネ』もオンデマンド配信で視聴しましたが、禁酒法時代がよく似合います。顔立ちとドラマティックな歌声に、なにかを背負いながら生きる役があっているのかな。

 銃の音が飛び交い、パトカーのサイレンが鳴り響くかっこいいオープニングで物語の世界観へといっきに観客をひき込み、舞台機構をふんだんに使ってストレスフリーの歯切れのいい演出はさすが小池先生。

 自分が連邦準備銀行の襲撃を警察に密告したことでマックス@彩風咲奈さんを死なせたしまったと悔やみながらカンザスの田舎で25年間ひっそりと暮らしたヌードルス@望海風斗さん、若き日、禁酒法下に酒の密売で大儲けし高級スーツを身にまとう暮らしを一度は手に入れたヌードルスの壮年期、キャロル@朝美絢さんが暮らすサナトリウムで再会を果たしたデボラに「幸せ?」とたずねられると「少しは・・・」と。ヌードルスに「幸せ?」とたずねられたデボラも「少しは」と。一度は華やかなハリウッド女優の名声を手に入れたデボラも今はチャリティー活動をしながらひっそりと暮らしていました。マンハッタンの頂上までのぼりつめながら、自ら命果てたマックスをみつめる表情に、生きることはなんと切ないものなのかという思いがあらたにわきあがってきます。

 若き日の夢はセピア色、「皇帝になる、皇后になる」、摩天楼の頂上にのぼりつめる、ハリウッドの舞台に立ち皇帝からプロポーズを受けてユダヤ人はまだ誰もなっていない皇后になる、手が届きそうに思えたでっかい夢は年月の経過と共に現実の中でいつしか遠く果てしなく、手の届かない彼方へととけていく、それでも一生懸命生きてきた年月があると誇りをもって言うことができればその人生は、It,s all right.でしょうか。

「いい夢だけを♬

 いい夢だけを 見て行こう
 辛い日々に別れを告げ
 悲しむより 共に笑い

 明日の風に向かおう

 そう これからは

 いい夢だけを 見て行こう
 何物にも妨げられず

 幸せの日を求めて

 明日の風に

 向かおう」
 

 2020年6月8日のブログでこう書いたジミー@彩凪翔さん、結末を知ってみるとさらにぞくっとします。癒着が報道されると自分は潔白だと公には言い切り、マックスにピストルを渡して死を迫る場面の、冷静で冷酷な表情よ。「それでは裏口から失礼するよ」。ここまで弱い労働者を守る正義の味方のように見せきったところがすごいです。

雪組『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』(3)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/4a88a8499229c11f0a75fd687c934d9f

物語のキーパーソンは、彩凪翔さん演じるジミーだっということが最後にわかる展開。最後までわからせなかった役者としての技量が素晴らしいと思いました。マフィアたちとは一線を画す存在。プログラムにはこう書かれています。「実在した労働組合の指導者がモデルで、この作品の中では、組合を守るために水面下でマフィアと繋がり、賢くのしあがっていく人物として描かれています。表向きは潔白はイメージですが、実は裏では・・・という二面性が見え隠れするところを上手く演じればとても魅力のある役になるのではないかと」。最初の登場シーンでは、どこかうさんくさいものをほのかに匂わせつつ、清廉潔白な正義の味方のような労働組合の代表者。マックスがジミーを助けたようにみえましたが、銀行襲撃に失敗して死んだかにみえた彩風咲奈さん演じるマックスが血だらけで助けを求めてジミーのところへ駆け込んだ時、二人の関係は逆転していた、ジミーはマックスを操ろうとし始めていたのかもしれません。











『この地球で私が生きる場所』-「国境なき医師団」で避難民の袋小路へ

2021年05月09日 16時52分19秒 | 本あれこれ
「「国境なき医師団」で避難民の袋小路へ  産婦人科医師 貫戸朋子(かんとともこ)

 私がいた94年当時、東ボスニアはセルビア軍の手中にありました。その中で、ローマ時代に起源をもつ古都スレブレニツァは、民族浄化を免れたイスラム教徒が逃げ込んだ避難民の袋小路でした。

 かつて美しかった温泉町は、戦時下で国連保護軍に守られた安全地域のはずだったのですが、丘の上の狙撃兵が母に抱かれた赤ん坊を射止めるのが現実という日々でした。私は、ここの難民病院に「国境なき医師団」から派遣されて住み込みで働いていました。
 
 反対勢力に包囲されて、かろうじて生き延びられるだけの食料を不定期に与えられ、いつどのように処理されるかわからない飼い殺しの運命に人々は苦しんでいました。「女と子どもを守る武器を約束通り捨てたのに、どうして世界は私たちを見捨てたのだろう。助けにきてくれるだろうか。」人々は自問し、国際社会がいつか必ず助けてくれると信じた人、雪が溶けたら皆殺しになると希望の地ツヅラを目指して地雷原に出て行った人、さまざまでした。

 戦争勃発当時サラエボ大学工学部の最終学年に在学していたハッサンは、「僕は正気と狂気の危うい綱渡りをしている。これは現実か、それとも永遠に覚めない悪夢なのだろうか」と問います。いちばんの仲良しだったエミラは、母と双子の弟に生き別れになって、この町の住人であったおじ一家に身を寄せていました。零下20度にもなる夜、あるだけの蒔をストーブにくべて、赤い炎の中、語り合いました。「トモコ、悲しむことはないのよ。この馬鹿げた戦争は、あと三年続くかもしれないし、30年続くかもしれない。でも、お母さんと弟に会う。大学に戻ってて勉強する。私は希望を捨てない」

 雪が溶ける春を待ちわび、同時に恐れていた夜、「国境なき医師団」のベオグラード事務所から「明朝撤退すること」との指令がきました。翌朝スレブレニツァを発ちました。

 たった一本の街路の終わりにあったエミラのおじさんの家の前でトラックを止めてもらいました。書けてきたおじさんが「トモコ!」と顔を覆って泣きました。同僚のフランス人医師にせき立てられて。トラックは再び走り出しました。この閉ざされた収容所のような町に再びかえってくることはないだろうと私は確信し、涙がはらはらと流れ落ちました。

帰国した夜、何とか日本の人々にこの町のことを伝えたいと思ったものの、反応は冷たく、人の命も流行に乗っていないと意味がないことを思い知らされました。

 何年も悲しんだこと、苦しんだこと。その自分をやっと承認できるようになり、その時を人生の財産と考えられるようになったことで、今度こそこの日本社会に復帰したいと思っているのです。」