緑のグラスに注いだ赤葡萄酒は、元々の色彩より濃度を増しながら鈍い輝きを閃かせる。だが、この葡萄酒が黒く見えるのはグラスのせいだけでは無いことを私は知っている。だから君もこれから己の犯す罪に怯えることなく、ただ黙って死に逝く私の事を少しで良いから哀れんで欲しい。
緑のグラスに注いだ赤葡萄酒は、元々の色彩より濃度を増しながら鈍い輝きを閃かせる。だが、この葡萄酒が黒く見えるのはグラスのせいだけでは無いことを私は知っている。だから君もこれから己の犯す罪に怯えることなく、ただ黙って死に逝く私の事を少しで良いから哀れんで欲しい。
気が付くとメロンソーダばかり注文している友人がいて、あの毒々しい緑色の液体を嬉しそうに飲む姿にある日思い切ってメロンソーダが好きな理由を尋ねてみた。すると、無駄に鮮やかな緑色もインチキ臭い香りも微妙に気の抜けた炭酸もみんな好きだと言われて理解するのを放棄した。
父と母の馴れ初めは、母がバレンタインの古い慣例に従って匿名でカードを送り、父がそれを母からのものだと判断して返礼に贈り物をした事だという。ただ、母はカードに垂らした香水が自分の纏う香りだと父が気付いたと信じ、父は他に差出人の心当たりが無かったので母だと判断したそうだ。
かつての薔薇は一重咲きだったり蕾の形が現在ほど優雅ではなかったので、この花の女王の姿を更に美しくしようと、人々は長年に亘る努力と研鑽を続けてきた。その結果、薔薇は現在のように優雅で高貴な花姿を手に入れたのだが、引き替えに濃密な香りの殆どを失うことになった。
たかあきは、初夏の家族と桜の狭間に関わるお話を語ってください。
新緑の頃、家族で温泉旅行に行った。海が見える旅館に泊まってみんなでお風呂に浸かり、テーブル一杯に並べられたご馳走を美味しいねと食べて、とても楽しかった。だから、みんなが僕だけを残していなくなってしまった事がどうしても信じられないまま、喪服姿のまま僕は並木道を何度もみんなを捜して駆け抜けるのだ。
新緑の頃、家族で温泉旅行に行った。海が見える旅館に泊まってみんなでお風呂に浸かり、テーブル一杯に並べられたご馳走を美味しいねと食べて、とても楽しかった。だから、みんなが僕だけを残していなくなってしまった事がどうしても信じられないまま、喪服姿のまま僕は並木道を何度もみんなを捜して駆け抜けるのだ。