最近引っ越した森の中の古い家には、たまに濃霧に紛れて妙な迷い人が訪れる。時代にそぐわない恰好をした奇妙なお客は大体うちの客間で一休みしてから帰って行くのだが、この前は日が翳って時間が分からないと困ったように丸いペンダントを掲げた男が現れたので、置き時計で時間を教えてやったら驚かれた。
最近引っ越した森の中の古い家には、たまに濃霧に紛れて妙な迷い人が訪れる。時代にそぐわない恰好をした奇妙なお客は大体うちの客間で一休みしてから帰って行くのだが、この前は日が翳って時間が分からないと困ったように丸いペンダントを掲げた男が現れたので、置き時計で時間を教えてやったら驚かれた。
昔はインク屋なる商売があって、樽に詰めたインクを背負って各家庭を訪問しては量り売りをしていたそうだが、まさか二十一世紀になってインク屋の訪問を受けるとは思わなかった。それでも深い青色に惹かれたので、たまたま空だった小振りのペットボトル一瓶分を購入したが、中々使い勝手が良かったので出来ればまた売りに来て欲しい。
たかあきは、小糠雨の哀しみと桜の骸に関わるお話を語ってください。
桜が咲く頃は大体において天気が不安定で、せっかく咲いた桜が寒空の雨に打たれて無残に散り急ぐことも珍しくない。珍しくないはずなのに、僕の桜の思い出と言えば殆どが淡い雲の浮かぶ薄青い空に映える薄紅色の霞が広がる穏やかで優しげな光景ばかりで、それは多分凄く幸せなことなのだと思っている。
桜が咲く頃は大体において天気が不安定で、せっかく咲いた桜が寒空の雨に打たれて無残に散り急ぐことも珍しくない。珍しくないはずなのに、僕の桜の思い出と言えば殆どが淡い雲の浮かぶ薄青い空に映える薄紅色の霞が広がる穏やかで優しげな光景ばかりで、それは多分凄く幸せなことなのだと思っている。