カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第六景・走馬灯のように

2018-12-24 13:00:50 | 桜百景
たかあきは、初夏の初恋と桜の根に関わるお話を語ってください。

 満開の桜の季節に入学した私は、新緑が眩しくなった季節に恋をして告白した。先輩は私と付き合ってくれたが、やがて桜葉が黄色く色付いた頃、受験を理由に疎遠になり、そのまま卒業してしまった。それでも桜の無骨な幹は私の知らぬ間に根を伸ばし枝を広げて次の春に備え、やがて再び花は咲き新緑の季節が訪れるのだ。
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第五景・花に棲む鬼

2018-12-23 23:45:49 | 桜百景
たかあきは、宵闇の学校と桜の幹に関わるお話を語ってください。

 子供の頃、酷いイジメに耐えかねて校舎脇にある満開の桜樹で首を吊ろうとしたことがある。結局は失敗したのだが、ロープが首に食い込んだ直後、目の前に雪白と緋色を重ねた古風な着物を纏った鬼が現れて私に何かを囁きかけ、気が付いたらロープが切れていた。あの鬼が何者なのか、いつか知る日は来るだろうか。
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骨董品に関する物語・硝子製の印章

2018-12-23 14:58:26 | 突発お題

 特注でガラス軸の印章を作らせた祖母に、硝子は割れるかもしれないから金属が嫌ならせめて水晶の軸にすれば良かったのにと私が言うと、祖母は「割れるかもしれない硝子だから余計大切に扱おうと思えるのよ、この印章を捺印した手紙を送る相手の縁と同じようにね」と微笑んでみせだ。
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第四景・冬の桜樹

2018-12-22 16:15:14 | 桜百景
たかあきは、宵闇の学校と桜の幹に関わるお話を語ってください。

 旧校舎が移転することなり、校庭の片隅にある大きな桜樹はどうなるのだろうと、ふと思った。冬休み直前の既に落葉が終わった樹は誰にも顧みられないまま寂しげに佇んでいるように見えたが、私には何もできなかった。やがて校舎跡は校庭も含めて宅地になったが、あの日の私の傲慢な憐みなど何の意味もなかったかのように。桜樹は切られもせず現在もそこに在る。
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骨董品に関する物語・天文古書「Der Himmel(天空)

2018-12-22 15:20:23 | 突発お題

 あの日の晩に星を眺めながら、ただ美しいばかりだった空の星々を辿って神話や伝説を思い描き、後には世界の理を見出した時、人間は獣であることを自らの意思で止めて人間となったのだ。だから決して学ぶのを止めてはいけないよと父は私に言い、傍らにいた母も頷いてみせた。
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骨董品に関する物語・グランヴィル「花の幻想」から、プリムラとスノードロップ

2018-12-22 15:18:31 | 突発お題

 子どもの頃「森は生きている」という童話で読んだ雪割草の姿が挿絵に描かれていなかったので、一体どんな花だろうと思いを巡らせ、実物の姿に愕然としたことがある。桜草のように一般的な「花」という姿をしていないその白い花弁の美しさに気付いたのは随分と大人になってからだ。
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骨董品に関する物語・グランヴィル「花の幻想」から、チューリップ

2018-12-22 15:14:27 | 突発お題

 中世イスラムにおいてチューリップは神の花と呼ばれていた。図録を見る限りでは花弁が針のように尖った現在百合咲きと呼ばれる形に似ているが、実はその時代の品種は失われて久しい。そして17世紀オランダで再び人々を熱狂させ、美の女神に例えられたゼンペル・アウグストゥスも既に存在しない。
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骨董品に関する物語・ガラスの香水瓶箱

2018-12-22 15:12:52 | 突発お題

 おとぎ話にあるような媚薬って実在しないのと尋ねてきた彼女に、ムスク(麝香)は割と近くないかな、一説には雄鹿が雌を引き寄せるフェロモンと呼ばれているしと答えたら、実は知らずにムスクの香水を昼間から付けていたと青くなっていた。それなら効果はないねとは言わなかった。
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第三景・顔が見えると誰かが叫んだ

2018-12-21 22:42:08 | 桜百景
たかあきは、悪夢の学校と桜の幹に関わるお話を語ってください。

 子供を呼び止める不気味な女の怪談が全国を席巻した頃。小学校の校庭脇にあった桜の幹に人の顔が浮かんでいると誰かが言い出して、最終的には先生が全校放送で生徒に落ち着くようにと呼びかける大騒ぎになったことがある。ただ、私が通っていたのは山の斜面を削った敷地に新設されて数年しか経たない、それこそ分かり易い因縁など欠片も存在しない校舎で、ひょっとしたら、だからこそ子供たちは自らの手で怪談を作り上げるしかなかったのかもしれない。
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第二景・あの日の桜樹

2018-12-19 21:39:48 | 桜百景
たかあきは、悪夢の故郷と桜の花に関わるお話を語ってください。

 あの桜の根元に何を埋めたのかを思い出せない。故郷を離れる前日、確かに何かを埋めたはずなのだ。黒土と血にまみれた手を近くの川で洗い流し、何度も叩き付けるように踏みしめたあの地面に一体何が埋まっているのか。そもそもあそこが一体何処なのか、誰が私の側にいたのか、どうしても思い出せない。
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