筆者にとって,マーラーはわからないところだらけの作曲家である。いつかはわかるようになりたい,と思って20年以上が経過した。それでも,その思いは断続的に続いている。それは,とりもなおさず,やはりマーラーに魅力があるからなのだ。
マーラーは,断片的に聞くと大変魅力的な音楽として楽しむことができることが多い。なので,バラバラにして「マーラー・ショートショート」というのを作ってみたらどうかと考えたこともある。一見成功しそうだったのだが,ひとくさり終わると次の断片が聞きたくなって,結局全部そのまま聞くことになったりして,何のためのショートショートかわからなくなったので失敗。
でも一曲全部聞くと,何だか消化不良感が残るという,筆者にとって妙な音楽なのである。
その中で,1時間内に納まる交響曲の1番と4番は,数少ない「わかったような気がする」曲である。1番の方は,本当にわかった感じがする曲といえる。で,4番を考えた時・・・
筆者の頭の中が支離滅裂だったことを今頃発見した。各楽章で,こうもバラバラな思い出を持つ曲は他に思いつかない。ひょっとしたら,筆者と同じような思いを抱いている方もいらっしゃるかもしれない・・・という勝手な思い込みのもと,それを整理してみたくなった。マーラーだって,分裂症の気があるのだから,似たようなものかもしれないし・・・(とまた勝手な思い込み)。
実演を始めて聞いたのは,東京文化会館における読売日本交響楽団の定期演奏会。(指揮者も忘れてしまった。1980年か81年あたりの演奏会。)当夜で一番印象的だったのが,ソリストの常森寿子さん,つまり第4楽章なのである。第1楽章と同じ形が出てくるのだが,第4楽章が始まってから常森さんが舞台に出てくる,つまりオペラのように演奏中に登場する,というのが,とにかく強く印象づけられた。
当時,常森さんは「夜の女王」で大変人気のソプラノだった。その人気歌手がシャンシャンシャン,という鈴の音バックに演奏するのである。この鈴の音というのも,この曲の魅力の一つだ。宮崎県の民謡に「シャンシャン馬道中」というのがある。これとは全然関係ないのだが,筆者は勝手にこの部分を「シャンシャン馬」と名付けている。
以来,しばらく筆者の中で,第4楽章は中心楽章だった。鈴がシャンシャン鳴る交響曲なんて他にはない。これだけで気分が良くなってしまう。そしてソプラノの歌が何とも幸せに聞こえてしまう,という楽章である。