いきなりとんでもないタイトルで恐縮だが、これは「マタイ受難曲」で最初に現れるアリアの題(新全集の番号で第6曲)。本当は、プレリュードに続く「ルーレ」を書こうと思ったのだが、それよりもこの曲を知る方が、かなり役立つと思うので変更。
まず悔悛Bußと悔恨Reuはどう違うか?
答えは「違わない」
ドイツ語を勉強すると、いかにもそれらしく「二語一想」などと言われるのだが、同じような意味を二つ並べて言うことは、洋の東西を問わずある。英語のtwist and roll、日本語の「曲がりくねった」、のように。
という訳で、このアリアは「悔い」を歌っているのだが、その内容以上に、器楽奏者にとって重要な事項がある。
それは「イタリア風舞曲」であること。
まず「舞曲」
欧米人がしばしば「これはダンスだから・・・」という説明をする。これが日本人にとってほぼ無効なのは日本人ならばよくわかる。日本の生活にダンスは無いからだ。
ではダンスを理解するにはどうするか? 選択肢は二つ、ダンスをやってみるか、想像力で補うか。
筆者は前者を試みたことがある。そして、狭い部屋で相手もなしにダンスを習得するのは困難を極めることを身をもって知るはめになる。
よって、想像力で補うのが無難な選択になろう。
ヒントは「欧米の舞踊は上下動が基本」である事実。上下動したくなるような音楽が舞曲、逆に言えば、聞いている人が上下動したくなるように演奏するのが、舞曲の演奏には望まれるということだ。
具体的には、強拍をしっかり強調する演奏ということになる。(強迫、じゃなかった強拍の話ばかりで脅迫されているみたいとか、昨日はいた靴下を今日履く、なんて言わないでください。)
次に「イタリア風」
その論拠は、随所に顔を出す「モンテヴェルディ様式」。低音部に16分音符でドロロロロンと出てくる音階、これのこと。
バッハはオペラを全く書いていなかったが、大好きだった。隣の町で好きなオペラをやっていると知ると数十キロ「歩いて」観に行ったそうだ。東京駅から千葉市やさいたま市まで歩いていったようなものだ。
なので、その好きなオペラの様式が、たまに顔を出すことがあるのだ。このアリアもその一つ。だから、イタリア風という訳だ。
で、具体的にはどうするかというと、強拍と弱拍の差をあまりつけないで演奏するのである。
さんざん強拍の強調を説きながら、あまりやるなとは混乱を招くかもしれないが、世の中そうそう単純ではないのだ。
でも、それだけ知ってから、このアリアを聴くと、何とも清楚で可憐な味わいを一層深く持つことだろう。御一聴あれ。