井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

「感動」の定量評価~その後

2011-12-13 19:26:03 | 学問

本ブログはヴァイオリンに関心がある方からのアクセスが一番多い。だから,ヴァイオリン以外の話題になるとアクセス数がすっと減ることがある。この「感動の定量評価」もそうだ。「もうわからないので・・・」と,全く読まない方も多い。

しかし,地味に呼びかけたことも手伝ってか,直接には結構な反応があったのである。

その友人の医師からもほどなくして,メール公表の許可が出たのだが,「ご参考までに」と,併せて75ページにわたるPDFファイルも送ってきた。

「古いかもしれませんが」と紹介されたが,立派に2011年の研究レポートだ。(そこまで日進月歩なのだろうか,この世界は。)

題して

「音声感情・心理認識の応用」
心を定量計測する技術
東京大学 工学部+医学部
株式会社AGI
博士(工学)光吉俊二

感情を色と強さで表示しようという研究らしい。ST(Sensibility Technology)と名付けられていた。

さすがは東大,やっている人はやっているのだな,と感心する。そもそも感情を表す言葉を勘定するところから始まって,色々と興味深い話があるのだが,概要さえ簡単にはまとめられない。

とりあえず「結論」だけ引用すると,

i. 情動を基準として、音声から情動の変化を機械で検知することが出来るようになった
ii. 人の主観や脳とシステムの比較から人と同等もしくは、人以上の性能(脳情動検知)を確認した
iii. 情動の定量化に向けた「心のレントゲン」のような物理考察を可能にさせる一歩(可視定量化)が出来きた
iv. 人の属性と行動予測にも情動分析は8割有効であると確認した
v. しかし、MRIのみで脳との比較を論じることは、不完全であり、主観でも完全ではない。よって、パラメータの精密な効果を断言できない。
vi. QOLや医療分野の新しい「センサー」技術として発展させるため、向精神薬投与の比較研究や情動と心の関係をメカニカルに解明する必要がある

最後の方は,全くわからない。

ちなみに研究者,光吉俊二氏のプロフィール

? 彫刻家から建築家、数学者、博士(工学)の経歴があります。
? 情動研究においては、英国精神分析学派(医学) からスタートしました。
? フロイト→クライン→ビオン→シャイン→光吉の系譜で継承した情動研究者です。
? 工学研究として、音声情動分析以外にも米国のスタンフォード大学工学部のバイオロボティクス研究所でスペースシャトルのロボットアームの研究をしておりました。
? シャイン先生以外にも感情研究の第一人者であるエッグマン博士の研究所、日本のATR (NICT)など多くの科学者・研究所が支持しております。
? 日本へ帰国後、AGI を運営しつつ、東京大学で音声感情心理分析技術ST の指導と授業を担当して、防衛医科学大学校との共同研究でストレス分析をしております。
? AGI がNEC の子会社である日本シリコングラフィックス社の子会社だった時期、研究に集中し、脳とST の99.9 %一致を科学実証しました。
? 非線形の線形演算子の発明と情動研究は、文春ビジネスにて日本を代表する40 代の研究者に選ばれております。

いやはや,ご立派。

もう一つ,これに比べればかわいらしいEメールをご紹介しよう。
と言っても,医療技術の若手研究者で,ヴァイオリンも大阪国際音楽コンクール等に入賞されている。肩書きは

「先端医療振興財団
再生医療研究開発部門
再生医療開発支援部
主任研究員 」

もうずいぶん昔になりますが、「笑い」が体にどのような効果をもたらすか、を評価するため、モニターの方に、口腔内に綿を入れていただいて寄席で落語を聞いていただき、そのあと綿を回収し、いろいろな物質の量、および変化量を測定する、という研究がなされたことがありました。その結果までは知りません。詰めが甘くてすみません。

綿を含んだお客さんが寄席に座っている光景を想像しただけで,かなり笑った。

ただ、どのような指標をとったとしても、計測結果の信頼性を凌駕できるか、といわれますと、正直な話、私も首を傾げます。

先にお友達の先生が上げられているように、脳波などにつきましては、「何に反応して」変化したか、という問題、機器自身が持つ計測感度の信頼性問題があります。

また、計測機械による差も否定できません。

特に、血液検査等では重要なポイントになりますが、A社の機械とB社の機械、同じ検体を計測しても値が「誤差」とは言いがたいものもあります。また、同じA社の機械を用いても、誤差は必ず生じます。

また、測定前に何か処理が必要な検査の場合、その検査を行う技術者の腕にもかなり依存します。

なので、もし検査項目を持って定量評価を行うなら、審査員の先生がどれだけ多く居られたとしても、機械は同じA社の機械を用い、全員の検体を同じ技術員の方で測定を行う必要もあります。

同一機械におけるばらつきに関してですが、その一例として挙げますなら、縦8列、横12列で、直径7ミリくらいの穴が開いているプレートで一気に96検体を測定する方法があるのですが、この場合、端に置くか、真ん中に置くかでもばらつきがあります。

原因としましては、機械自身の性能にもよりますし、技術者の腕にも大きく依存します。

そして技術者の腕は、その技術者のその日の機嫌にも依存することが多いです。

当研究室の新規採用者面接において、機嫌が悪くてもよくても仕事効率が変化しないこと、を採点基準に挙げているのですが・・・面接ではまったく見抜けないものですね。

機嫌をよくする音楽などないものか、と日々頭を悩ませております。

我々の健康診断は,こんなに頼りない機械に測定されての結果なのだろうか?
オリンパスの過去をあばいている場合ではないのでは,と言いたくなる。

ともあれ,機械がこの程度だとすると,人間の素晴らしさを改めて意識するところだ。複雑にからみあった事象を,感覚的に総合的に判断するとは,もはや神業だ。すごいね,ヒトって。

だけど,どこかで定量評価の余地はないのかなぁ,と次の瞬間には考える私であった。



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