内田光子さんとロンドン交響楽団、コリン・デイヴィスのベートーヴェンピアノ協奏曲シリーズも今回が最後。一音たりとも聴きもらすまいと、この日は朝走った以外は、夕方まで完全に部屋に引きこもり体力温存に努めました。
チケット完売のコンサート。聴き手の期待感の高いコンサートは、開演前から不思議に高揚した雰囲気が流れています。私もウキウキ気分でトイレを出て準備完了のところで、 voyager2artさんに遭遇。しばし会話を交わして、いよいよ会場入場です。
この日のプログラムは、トリがベートーヴェンピアノ協奏曲第5番の前に、ハイドンの交響曲93番とニールセンの交響曲第4番という組み合わせ。
デイヴィス翁が登場すると、暖かい拍手で包まれます。負けずに拍手で迎えた私でしたが、一目見てとっても不安な気持ちが胸をよぎりました。デイヴィス翁の指揮を聞くのは今年3回目ですが、明らかな体力と精気の衰えを感じてしまったのです。前回の9月のコンサートと比べても、体全体から感じるエネルギーが弱くなっている。確か83か84歳だし、今年に入ってから指揮台でも椅子に腰かけての指揮になっているので、加齢による衰えは自然のことと分かりつつも、何か言い知れぬ不安な気持ちになってしまいました。
ただ、ハイドンが始まると、そんな不安は吹き飛びました。特にエキサイティングな音楽ではありませんが、とても優美で、しみじみと音楽を聴く喜びを味わせてくれます。音楽ど素人の私が言うのも何なんですが、デイヴィス翁の指揮と言うのはとっても大雑把な感じで、あの棒先から楽団員が何を感じとって演奏しているのか不思議なくらいなのですが、そこから生み出される音楽は不思議と均整がとれていて、美しいのです。高い相互の信頼感に支えられた「あ・うん」の呼吸のようなものを感じさせてくれます。
続いては、私にとっては初めて聴くニールセンの交響曲第3番。Wikiによると、「いわばニールセンの田園交響曲」らしいのですが、なかなかどうして、雄大でパワフルな曲でした。確かに途中、北欧のフォークソングをベースにしたメロディとかも交じり、初めてでもすんなり聴くことができます。LSOは、デイヴィス翁のよた(失礼!)棒から、これでもかというぐらい凄いパワーがみな切る演奏をしてくれました。オーボエのソロも美しく、個と全体のバランスが絶妙でした。
そして休憩後は、いよいよ内田光子さんの登場。本当にこの方はイギリスで人気があります。足取り軽く、でもデイヴィス翁の足元を気に掛けつつ登場した瞬間から会場が内田モードに変わってしまうのです。そして、その演奏も素晴らしいものでした。
第1楽章から痺れっぱなしでした。今まで聴いたことのない、若くて、純粋な「皇帝」でした。外に向かうエネルギーと内に向かう思索が、見事に両立しています。第2楽章の美しさは涙が出てきました。時として、消えるのではないかと思うような弱音や高らかな叫び。こんなピアノ協奏曲5番は初めてでした。年齢的には、決して若くはない内田さんとデイヴィス翁から、こんな瑞々しい純粋な音楽が湧き出るのはどうしたことなのでしょうか?最高レベルのプロ達である、指揮者と独奏者とオーケストラが、高い信頼感と相互の敬意に満ちて、一体となって、この瞬間限りの、この組み合わせでなければできない音楽を創っています。素晴らしい瞬間に立ち会っている自分の幸運にただただ感謝でした。
演奏後は、スタンディングオベーションによる凄い拍手。きっと疲れたマエストロに気を遣ったのでしょう。コンサートマスター君は、まだヴィリュームが全く衰えない拍手のなかで楽員に引き上げを命じていました。
感動をかみしめながら帰路に着きましたが、やはりデイヴィス翁の健康だけは気になります。どうか、お体を大切に、いつまでも指揮姿を見せてほしいです。
London Symphony Orchestra / Sir Colin Davis
Nielsen Symphony No 3 and Beethoven Piano Concerto No 5
11 December 2011 / 19:30
Barbican Hall
Haydn Symphony No 93
Nielsen Symphony No 3 ('Sinfonia Espansiva')
Beethoven Piano Concerto No 5 ('Emperor')
Sir Colin Davis conductor
Mitsuko Uchida piano
Lucy Hall soprano
Marcus Farnsworth baritone
London Symphony Orchestra
チケット完売のコンサート。聴き手の期待感の高いコンサートは、開演前から不思議に高揚した雰囲気が流れています。私もウキウキ気分でトイレを出て準備完了のところで、 voyager2artさんに遭遇。しばし会話を交わして、いよいよ会場入場です。
この日のプログラムは、トリがベートーヴェンピアノ協奏曲第5番の前に、ハイドンの交響曲93番とニールセンの交響曲第4番という組み合わせ。
デイヴィス翁が登場すると、暖かい拍手で包まれます。負けずに拍手で迎えた私でしたが、一目見てとっても不安な気持ちが胸をよぎりました。デイヴィス翁の指揮を聞くのは今年3回目ですが、明らかな体力と精気の衰えを感じてしまったのです。前回の9月のコンサートと比べても、体全体から感じるエネルギーが弱くなっている。確か83か84歳だし、今年に入ってから指揮台でも椅子に腰かけての指揮になっているので、加齢による衰えは自然のことと分かりつつも、何か言い知れぬ不安な気持ちになってしまいました。
ただ、ハイドンが始まると、そんな不安は吹き飛びました。特にエキサイティングな音楽ではありませんが、とても優美で、しみじみと音楽を聴く喜びを味わせてくれます。音楽ど素人の私が言うのも何なんですが、デイヴィス翁の指揮と言うのはとっても大雑把な感じで、あの棒先から楽団員が何を感じとって演奏しているのか不思議なくらいなのですが、そこから生み出される音楽は不思議と均整がとれていて、美しいのです。高い相互の信頼感に支えられた「あ・うん」の呼吸のようなものを感じさせてくれます。
続いては、私にとっては初めて聴くニールセンの交響曲第3番。Wikiによると、「いわばニールセンの田園交響曲」らしいのですが、なかなかどうして、雄大でパワフルな曲でした。確かに途中、北欧のフォークソングをベースにしたメロディとかも交じり、初めてでもすんなり聴くことができます。LSOは、デイヴィス翁のよた(失礼!)棒から、これでもかというぐらい凄いパワーがみな切る演奏をしてくれました。オーボエのソロも美しく、個と全体のバランスが絶妙でした。
そして休憩後は、いよいよ内田光子さんの登場。本当にこの方はイギリスで人気があります。足取り軽く、でもデイヴィス翁の足元を気に掛けつつ登場した瞬間から会場が内田モードに変わってしまうのです。そして、その演奏も素晴らしいものでした。
第1楽章から痺れっぱなしでした。今まで聴いたことのない、若くて、純粋な「皇帝」でした。外に向かうエネルギーと内に向かう思索が、見事に両立しています。第2楽章の美しさは涙が出てきました。時として、消えるのではないかと思うような弱音や高らかな叫び。こんなピアノ協奏曲5番は初めてでした。年齢的には、決して若くはない内田さんとデイヴィス翁から、こんな瑞々しい純粋な音楽が湧き出るのはどうしたことなのでしょうか?最高レベルのプロ達である、指揮者と独奏者とオーケストラが、高い信頼感と相互の敬意に満ちて、一体となって、この瞬間限りの、この組み合わせでなければできない音楽を創っています。素晴らしい瞬間に立ち会っている自分の幸運にただただ感謝でした。
演奏後は、スタンディングオベーションによる凄い拍手。きっと疲れたマエストロに気を遣ったのでしょう。コンサートマスター君は、まだヴィリュームが全く衰えない拍手のなかで楽員に引き上げを命じていました。
感動をかみしめながら帰路に着きましたが、やはりデイヴィス翁の健康だけは気になります。どうか、お体を大切に、いつまでも指揮姿を見せてほしいです。
London Symphony Orchestra / Sir Colin Davis
Nielsen Symphony No 3 and Beethoven Piano Concerto No 5
11 December 2011 / 19:30
Barbican Hall
Haydn Symphony No 93
Nielsen Symphony No 3 ('Sinfonia Espansiva')
Beethoven Piano Concerto No 5 ('Emperor')
Sir Colin Davis conductor
Mitsuko Uchida piano
Lucy Hall soprano
Marcus Farnsworth baritone
London Symphony Orchestra