その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

安永雄彦 『日本型プロフェッショナルの条件』 (ダイヤモンド、2009)

2012-09-14 23:53:03 | 


 日本に帰国して、3年半前と同じ経路、同じ電車での満員電車での通勤が再開されたのですが、ロンドンでの通勤より良い点に一つ気づきました。通勤時間が20分延びた分、読書の時間が生まれたことです。日本語の本へのアクセスもぐっと良くなったし、せっせと読書に励み始めています。

 今回も地元の図書館で見つけた本。銀行員としてキャリアを始めながらも、20数年で退職し、その後、エグゼクティブ・サーチ・コンサルタント、企業経営者、経営大学院の教授、僧侶、エグゼクティブ・コーチと多様な顔を持つようになった筆者によるキャリア論です。ビジネススクールのクラスの最後に話す「法話」をもとにまとめたという本書は、タイトルにあるようなプロフェッショナルになるためのノウハウ論というよりは、むしろプロフェッショナルになるための心得ともいうべき、仕事に対する心構えや姿勢を説いたものです。

 筆者のいう「日本型プロフェッショナル」というのは、「同じ会社にずっといようとも、転職しようとも、常に自分なりに専門性を磨き、高い倫理観と規範を持ち、公益に寄与するという観点から自分がなすべきことを決断し、実践していく」ような生き方をしている人(p19)です。そして本書では、そのための心構えが、筆者の経験、心理学、先人の教え等をもとに紹介されます。語られている心構えそのものは、他の類書でも触れられるものですが、具体的な筆者の失敗談も含めた経験談が誠実に語られているのも、出張に説得力を持たせます。

 いくつか以下、引用します。 
・道に熟達するためには、比較優位の世間から離れて、自分の信じる道を進んでいくことが不可欠です(p37)
・現実の比較優位の世界に身を置きつつ、その中でそれぞれの個性化の道を模索していくというのが、私たちにできるアプローチでしょう。(p47)
・組織は一つのロジックで動いている以上、そのロジック体系を理解していないと、自分が組織を動かす立場になったときに人々を動かすことはできません。(p83)
・規定集や手引きに書いてある一行一行には、会社がたどってきた歴史や経験を通して得た知恵が集約されている(p84)
・(MBOの)振り返りの機会について、単に会社が評価のために用いる手段としてではなく、自分の思考を整理するものとして捉えれば、向き合い方も変わってくるはずです。・・・・MBOのシートや自己評価の書類には恐ろしいことに、思っている以上に、本人の力量が表れてしまうものです。(pp89-90)
・多面的に物事を捉え、自分がトップにたったら何をしようかと常に準備していれば、どんな状況にも対応できます。自分の視点をしっかりと持ち、思考力を鍛えることが、個性化そして一流への道なのです。(p96)

 どちらかといえば、20代、30代のビジネスパーソン向けだと思いますが、私のようなオジサン読者にも、改めて自分の行動や構えを見直す機会を与えてくれる良書です。
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